序章
昔々、そのまた昔の物語。
彼はこの国の、生まれながらにして王であった。王子ではなく、王であった。
先に産声を上げた兄達ではなく、彼が王であったのだ。何故ならば彼は神の意志によって選ばれた、十二番目の子供であったから。母の腹の中に宿りしその時から王として皆に崇められた。
彼が幼い頃、今までそうであった父が王政を握るも、王は彼ただ一人であった。
彼は皆に愛され、祝福を受けた。
けれど彼の兄達の中に、神の御告げなど信じるに値しないと意見する者が出始めた。その反発は彼の、彼等の両親が病に伏せてからいっそう激化していった。
三番目の兄が言った。
『真の王は誰か』
四番目の兄が答える。
『王は彼ただ一人』
九番目の兄が言った。
『神などこの世にはいない』
六番目の兄が返す。
『信ずれば光となる』
七番目と八番目が口を揃えた。
『目に見えるものだけを信じろ』
一番目と二番目が首を振った。
『目に見えるものだけが全てではない』
十番目が泣きながら叫ぶ。
『争いをやめて』
そして五番目が穏やかに微笑んだ。
『ならば二つに別れれば良い』
十一番目は、とうとう口を開かなかった。
そうしてこの美しく豊かであった国は、二つの意志の元へと道を違えた。
神を信じ、王を讃える白の国と、
己を信じ、力を讃える黒の国に。
一つは二つに分かれ、二つは一つであった。
幾度となく繰り返される歴史の中で、再び十二が揃う時が来た。
ある者は生き急ぎある者は離脱し、ある者は姿を消しある者はその生を全うした。
そうして道を違えていたにも関わらず、十二は再び同じ時を過ごすことになる。
その日セファンが目覚めたとき、既に泣いていた。
何か悲しい夢を見ていたわけでも、苦しい病に侵されていたわけでもなかったが、何故涙がこぼれるのかを、セファンは知っていたような気がした。
これから始まる悲しい戦いを、白と黒、その二つの正義に縛られた戦いの幕が開くのを、セファンは知っていたような気がした。
そして、今は彼が、二人のうちの白い王。
もう数百年以上繰り返されている歴史の中の、新たに選ばれし王である。