目を覚ますと
目を覚ますと、そこは学校の入口だった。
アツキは校門の前で立ち尽くしていた。
(…?…僕は…)
制服はネクタイもしっかりしてある。しかし、朝、目の覚めた瞬間の夢か現か区別が曖昧なあのぼんやりがある。
今、家を出てここまで歩いてきた記憶や、今日朝飯を食べたか、とか、定刻通りに起きることが出来たか、とか、記憶がない。
(あれ……。)
頭にぐるぐると疑問が渦巻いて、そこから1歩も踏み出すことが出来ない。
うっすらと思い出すことができるのは、体育着を着た自分だ。昨日なのか、しかし昨日の記憶にしては随分と遠く感じる。
すると、すぐ後ろで名前を呼ぶ声が聞こえる。
「あーー!アーツキっ!何突っ立ってんの!今日も遅刻するよ〜っ」
幼なじみのコトネがいた。
「こ、コトネ…」
「元気ないじゃん!?あんたらしくないね!笑っちゃ…」
コトネは言いかけていた言葉を急に飲み込んだ。コトネの瞳に浮かんでいた光がかすかにゆらゆら揺れ始めた。
「アツキ……。」
もう一度名前を呼ばれた。その声はさっきよりもずっと細くて、消え入りそうだ。
「う…ん?」
アツキ自身の声も自然と弱くなる。
すると
「アツキ…さ、学校行こっか〜ふふふ!」
コトネはわざと声色を明るくして見せた。
瞳の光はまだ揺れていた。
「う、うん。」
半ば強引にコトネにひっぱられる形でアツキは校舎の中に吸い込まれた。