新しい病院
「オーッス、大丈夫か?」
「大丈夫だったら、入院なんかしてるか」
「豆乳飲む?」
「豆乳って、なんで?」
「いや、あったから。いらない?」
「それならもらっとくけど」
「それがさ、さっきスゲェ巨乳の看護婦いてさ」
「なんだ、急にどうした?」
「すげえ巨乳なの」
「そうか、入院しろ」
「もう入院してるだろ」
「僕がな」
「もうマジでかくて、牛って、あーゆうの言うんだろうな」
「またそんなこと言って、女子に嫌われるぞ?」
「もう嫌われてるわ」
「知ってるわ」
「なに、オメー貧乳好き?」
「好きってわけじゃないけど。女性はルックスじゃないしな」
「ブス専か?」
「なぜ!?」
「ロリコンか?」
「どうしてそうなる!」
「フェチは?」
「人の性癖を探るな!」
「それでな、オイ貧乳大好き太郎――」
「おい今なんつった!」
「貧乳大好き太郎」
「しゃあしゃあと……」
「貧乳大好き太郎と言ったが?」
「聞こえてるわ!」
「それでな……」
「続けんな!」
「ナンだ貧乳?」
「せめて太郎まで言って!」
「オメーうるせえ」
「お前、本当に僕の友達か?」
「うるさい奴は嫌われるぞ」
「……はぁ。話してもムダだな、続けろよ」
「オイ貧乳大好き太郎」
「そこから続けんの!?」
「……でな、さっき聞いたハナシなんだけどよ。夜に看護婦が出るらしいぜ?」
「看護婦って……そりゃ、どこにだって出るだろうよ。病院なんだし」
「それがな? 顔の見えない看護婦なんだってよ」
「言いたいことがわからんな」
「夜に、廊下で看護婦を見つける。用事があって声かけようと追いかけるが、一向に追い付けない。歩くペースは変わっていないように見える。けど、こっちがどう走ろうが、どうにも追い付けないらしいんだ」
「不思議な話だな」
「で、問題はここからだ。追いかけると追い付かないのに、気付くと近付いている」
「え、なに?」
「だから、追いかけて、追いかけるのを止めると近付いてくるんだ」
「なんで?」
「それは知らん。ただ……」
「ただ?」
「顔を見ちゃいけないらしい」
「え?」
「顔を見ると、死ぬらしい」
「それは、なぜ?」
「知らん。さっき聞いたばっかだもん」
「え、なにそれ、僕をビビらせるだけじゃん」
「そうだよ?」
「知ってて話したの?」
「そうだよ?」
「感じ悪っ!」
「ははは」
「なにがおかしい!?」
「ははははは」
「笑うな!」
「でな、最大の特徴があるんだ」
「もう帰れよ」
「美人の巨乳らしいんだ」
「は?」
「だから、すっげえ美人の巨乳らしいんだよ」
「顔を見ると死ぬのに?」
「顔を見ると死ぬのに」
「……あー、あれだ。僕をかつごうとしてる?」
「なんでわざわざ、見舞いに来てそんなメンドくせえことせにゃならんのだ」
「だって、お前、さっき巨乳の看護婦見たって言ったじゃん」
「言ったよ?」
「それで? 顔見たの?」
「見たよ?」
「どうだった?」
「美人だったよ?」
「え? 死んでないじゃん」
「死んだよ?」
「……え?」
「なんかさあ、ちょっと話してみたんだけど」
「話したのか」
「死神なんだって」
「……ぇえ?」
「元々この区画の担当で、最近この病院が建っただろ? まだ環境が整ってなくて、腕の悪い医者も多いんだって。だから入り浸ってるらしい」
「僕、入院してるって言ったよな?」
「ああ」
「そもそも見舞いに来たんだよな?」
「ああ」
「なんて情報提供するんだ!」
「冗談だって」
「だ、だよな?」
「まあ、それが冗談なんだけども」
「……どっち?」
「で、その美人の死神看護婦なんだけど」
「すげえパワーワードが聞こえる」
「死期が近い人だけ、顔が見れるんだってよ」
「お前どうやって見たの?」
「だって、美人で巨乳なんだよ? 顔見たいじゃん」
「死ぬのに?」
「それで死ぬなら本望だ」
「アホか」
「同じこと言われた」
「死神看護婦に?」
「顔見られたら、死ななきゃいけないんだって」
「げえ」
「だからさ、さっき、上の窓から投げ捨てられた」
「……マジ?」
「マジ。今、集中治療室でかろうじて生きてるから」
「え、でも」
「そうそう。処置する医者も腕悪いから、死ぬって言われた」
「げ」
「ちなみに、ホント申し訳ないって、さっきの豆乳くれた」
「なんてもの寄こすんだ!」
「土下座までされた」
「良い人!」
「投げられるんだけど」
「投げ捨てるんだよなぁ」
「あ」
「あ?」
「オレ、死んだわ」
「え?」
「今、死んだ。ぼちぼち行かなくちゃ」
「ま、またまたぁ」
「ホントホント、もうすぐ消えるから」
「な、ならさ、最期に言っとくこととか無い?」
「んー無いかな」
「あっさりと……」
「だって、こうやってオメーと最期に話せた時点で、けっこう満足しちゃったんだよね」
「そうなの?」
「ああ。しいて言うなら、死神さん、まだしばらく病院にいるらしいから、気ぃ付けろよ?」
「美人の?」
「美人の」
「それじ……」
「――はぁ、マジ? アイツ、えらくポップに死んでいったな」