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巫女と妖刀6

「これは!?」


 ミニスカメイドの少女は、小さな口を最大限開き、神木の枝に刺さった猿肉にかぶりつく。

自らの刀、炎刀・ミルフィーユにより、焼き加減は最高の状態のようだった。


「んんーっ……、なんと柔らかい、そして、獣特有の臭みがなく、食べやすい!」


「お、美味しそうだな」


 ミニスカメイド少女は、お腹を空かせていたことも相まって、一気に猿肉を口に放り込んでいく。その勢いと、何より美味しいモノを食べている時の笑顔を見て、神琴も言葉を失う。


「あ、神琴ちゃんも欲しかった?」


「お主の料理が美味しいのは理解しているからな。それより、猿肉を調理したことがあったのか?」


「いや、なかったよ。ただ、他の肉での焼き方を試してみただけだから、味の程は俺もわかってはなかったんだけどね」


 ミニスカメイド少女の言葉と、その様子に味のことは聞くまでもないだろうと判断したようだ。


「まあ、丁度いいし、俺らもご飯にする? 猿の肉は終わったけど、お弁当は用意してるからさ」


「お主は本当に有能だな」


 表情は崩してないが、アルベルトのお弁当が食べられるのが嬉しいのか、神琴の声は弾んでいる。そんな彼女を認めては、アルベルトは優しく微笑み、お弁当を広げた。


「と言っても、パンと、ベーコンエッグなんだけどね」


「なんだか分からぬが、お腹が空くいい匂いだな! いただくぞ」


「召し上がれ」


 アルベルトたちは、パンを口で砕きながら、メイドの少女に問う。少女の方は、もう食べ終わってるようだった。


「味の程はどうだったー?」


「悔しい、ですが今まで食べた肉料理の中でも最高級でした」


「そっか、そいつはよかった」


 ベーコンエッグをちゅるちゅると吸い込みながら、アルベルトは嬉しそうに笑っていた。

自分の料理を美味しいと言って貰えることと、なにより、誰かととる食事が、彼にはかけがえなかったんだろう。


「んでさ、モノは相談なんだけど」


「先程の仲間がどうこうの話ですね。いいですよ、私はあなたに興味が湧きました。少しの間で良ければ、力を貸しましょう」


 少女の言葉に、2人は互いの顔を見合わせる。

嬉しそうな顔はアルベルトだが、内心複雑な心境の神琴。だったが、彼女の目的を優先するなら、味方は多い方がいい、と思ったのだろうすぐに微笑んだ。


「拙者は、神代神琴だ。よろしくお願いする」


「俺はアルベルト、気軽にアルと呼んでくれたらいいよ。それで、あんたの名前は?」


「申し遅れました。私は」


 そうですね、と少しだけ間を空ける少女。

何やら訳ありの様子で、少しだけ考えてこう返す。


「ベンケイとお呼びください。私の主がそう呼んでいますので」


「ん、わかった。よろしくな、ベンケイ」


 にこやかに手を出すアルベルト。友好の証のつもりだろう。

出された手を握り返すベンケイも、「よろしくお願いします、アル」と早速名前を読み上げる。


 そんな二人を見て、慌てて、食べかけのベーコンエッグを口に流し込み、神琴。


「拙者のこともよろしくお願いするぞ、ベンケイ」


「ええ、神琴さんもよろしくお願いしますね」


「ささ、じゃあ、ご飯も食べ終えたことだし、いよいよメインディッシュといこうか!」


 アルベルトの言うメインディッシュとは、料理ではない。

彼の今の本職は料理人ではなく、鍛冶屋。


目標としていた素材が全て揃ったのだ。


「今から作り始めるよ! 退魔の刀、閻円を」


「な、なに!? こんなところで作ることができるのか!?」


「鍛冶屋とはすごいのですね」


ダンジョンの真ん中で、刀作りを表明するアルベルトに、驚く神琴と、冷静に感心するベンケー。


「作れるさ、簡易鍛冶道具一式が揃ってるからね」


 そう言うと、アルベルトは腰に提げていた道具や、背負っていたリュックの中を取り出す。

ずっと背負っていたのだ。


「呪いの御札が出来てるか不安だけど、大丈夫でしょう」


「そんな曖昧な感じでいいのか?」


「んー、まあ、あとは鍛冶師の腕になるかな。あ、刀を打ってる最中は流石に動けないから、その時は守ってね」


 任せろ、任せてくださいと、二人とも同時に意気込む。

その点は心配いらないだろうと、アルベルトは安心したようで、テキパキと準備を始めて行く。


「それじゃあ、出来るまで集中してやるから、それまでは」


 声をかけるな、と雰囲気で話す。

さっきまでの和やかな空気が完全に消えていた。


「買ってきたクリエイト聖鉄は鍛接が必要ないから、鍛錬して引き伸ばしていく。その際、使う炎は、魔法のハープ」


 アルベルトが取り出したるは、一見ただのハープ。

この世界の楽器には精霊が宿るとされている。

精霊は、7属性に基づき、火、水、木、風、土、闇、光のそれぞれの精霊が宿る。

魔法使い、または魔導師以外の職業が魔法を簡易に使うために作られた物だ。


「炎のハープは、優しくも業火。そこに、神木の枝と、クリエイト聖鉄に貼り付けた呪いの御札を燃やし、炎で洗礼していく」


 ブツブツと呟きながら、作業の確認をし、進めていくアルベルトをよそに、神琴とベンケイの二人は、それを見守る。


「先程は、その」


 失礼しましたと、遠慮気味に語りかけるベンケイ。

初対面で、いきなり斬りかかったことを詫びているのだ。


「あっはっはっは。気にしないでいるよ。お主も訳あってのことだろ?」


 ベンケイは俯き気味に、ゆっくりと頷いた。


「刀を集めているのです。千本」


「千本!? それはまた、大変なことだな。理由は聞けないのか?」


 それに対しては首を横に振るベンケイ。


「それならばしょうがないな」


「言及しないのですか? 私は神琴さんの必要な刀を欲しているのですよ」


「話したければ話すだろ、お主なら」


 ほとんど表情を変えない神琴が、口元を少しだけ上げ、笑みを浮かべる。


「それに、拙者の方は、住んでいた神社を乗っ取った怨霊を斬り、成仏させれば、閻円をお主に渡しても良いからな」


「本当ですか!?」


「まあ、アルに断るつもりだが、こちらの要件が済めば、その限りではないよ」


 神琴は、自分の身の上を、これまでの経緯を、そして、目的を、すべてベンケイに話した。

仲間となったからには、信頼してのことだった。


 さっき仲間になったばかりの、しかも初対面で斬りかかられた相手をこんなに早く信用出来るのは、おそらく神琴のそういった感覚が優れているからだと思われる。


なによりも、何も聞かず、何も悟らず、ただ自分のことを理解してもらおうとする神琴の真摯さを、ベンケイは無碍に出来ない。


そんな性格なのだから。





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