巫女と妖刀3
古都 サジタリウス
現在の世界の中心を担っているのが、聖都市デネブなら、その前の王族が住んでいたとされるのが、ここサジタリウス。
アルベルトの住む田舎から、歩いて半日ほどの距離。1番近くにある大都市がそこだった。
鍛冶屋は時に、必要な材料を買いに街を訪れる。
「よし、目的のクリエイト聖鉄に、御札は買えたな」
「ほほー……ふむふむ」
買い物を終えたアルベルトは、待たせていた神琴の元に駆け寄る。
彼女は物珍しそうに、大通りを行き交う人々、または、道に立ち並ぶ露店の様々な売り物を見ている。
「なんか欲しいものでもある感じ?」
「いや、ない。だが、面白い」
キラキラとした瞳は、またあちらこちらへ目移りする。
アルベルトは思う。
自分も存外、田舎者だが、彼女も相当狭い世界でいたのだろう。
(そういえば、よく親父に連れてきてもらってたっけな……)
懐かしむ光景も、今は違う。
昔とは何もかも。
「そーだ。神琴ちゃん、女の子だし、なんか髪飾りでも買ってあげるよ」
「は、はぁ?! そんなモノ必要ない。と、言うか何も要らぬと言っておるだろう」
「……はいはい。じゃあ、ちょっと見るだけでいいからさ」
アルベルトは苦笑する。
何故なら、神琴は、言葉とは裏腹に、目が輝いていたのだから。
本当は年相応に、買い物を楽しみたい年頃なのだろうが、彼女の運命がそれを許さない。
だからこそ。
「お、こっちには魔力が込められた髪飾りがあるよ」
「要らぬと言っておろう!」
「いやいや。戦闘で、いざって時に役立つかもしんないよー?」
むむむ、それならば、と。
しょうがないなぁ、と、神琴は飛びつく。
そんな彼女を微笑ましく思うアルベルト。
だからこそ、今だけは、彼女を現実から切り離そう。
「効果の程は聞いてみないとわからないけど、デザイン的にはどれがお好み?」
「だ、だったら、この、アマリリーの花の形のが欲しい!」
言って、はっとなる神琴。
「ちがっ、別に欲しいわけではなく……選ぶならそれがいいと……思っただけで……あうぅ」
顔を赤くして、俯く神琴。
にやにやと、笑いが止まらないようすのアルベルト。
「いいよ、それにしようぜ。買ってあげるよ、神琴ちゃん」
「そ、そんな、悪い。拙者はお主に依頼した依頼主ってだけで、プレゼントをして貰えるような仲では……」
「じゃあ、俺がしたいからさせてよ。好意ってやつ。神琴ちゃんみたいな可愛い女の子に好かれたい、良いとこ見せたいだけだからさ」
そう言い、アルベルトはそそくさとレジに向かう。
取り付く島もない。
「……おかしな男だな。拙者のことが可愛い女の子などと」
しかし、神琴はまたも言葉とは裏腹に、嬉しそうに微笑む。
両親を奪われ、住む場所を奪われた彼女にとって、久々の平和な時間。
失いたくない、憩いのひととき。
「ほい。神琴ちゃんの為に買ったアマリリーの花の髪飾り」
「……ありがとう。とても大切にする!」
「付けてみせてよ」
言われる通り、神琴は、その髪飾りを恐る恐る髪に通す。
髪飾りを自分で付けたことがないのか、少しだけ戸惑っていたが、ピンの部分に挟むことに気づく。
「おおー、これで綺麗に出来ておるか?」
「うん、バッチリだよ。似合ってる」
「……重ね重ねありがとう」
本当に嬉しそうに、何度も髪飾りを撫でる神琴。お忘れだろうが、彼女はアルベルトのボディガードだが、今は現世にいる普通の女子高生と変わらない。
その姿に、アルベルトはにやつく。
「な、なんだ、アル! 気持ち悪い顔して!」
「あはは、ひどいなー。いや、だってさ。久しぶりだったし、歳の近い女の子とデートするの」
「……? よく分からぬが、この件が終わったらいくらでも拙者が付き合うぞ」
「なんだそれ……。そんなこと言われたら、やる気出るじゃん」
不敵な笑みを浮かべるアルベルト。
その言葉と、表情に、神琴は少しだけゾクッとする。
(……戦闘能力はないと言っていたはずのアルを、拙者は怖いと思ったのか、今)
刹那、柔らかな笑顔に戻るアルベルト。
「どったの、神琴ちゃん?」
「……いや。それより、最後の材料になる、神木の枝とやらはどうするんだ?」
「あはは、そりゃあ、もちろん。ダンジョンに取りに行くでしょ」
「ここからが本番なわけだ」
そして、次なる目的地、神木があるとされるダンジョン。
『聖域』へ、足を踏み入れる、アルベルトと神代神琴。
果たして、2人を待ち受けるのは。