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巫女と妖刀2

 食事が終わって。


「美味かった……こんな美味な御飯を食べたのは初めてだ」


 そう満足そうに巫女少女が笑う。

しかし、片手にはまだパンを握り、合間で口に運んでいる。


「……どんだけ食うんだ、あんた!」


 アルベルトは、前世、超一流レストランを経営し、自らも有名料理人として名を馳せていた。

忙しなく訪れるお客を何人も捌いてきた。


 しかし、その彼が唖然とするほど、少女は食べた。食べ尽くした。


「いや、なに。お主の作る御飯はどれも美味しくてな、つい食べてしまうのだ。……それにしても、全然お腹が膨れぬのだが……」


 あれだけ食っておいてまだそんなことを! と、言いかけて飲み込むアルベルト。

まあ、美味しいと言って貰えたし、今回は良しとするか、と。


「んで、あんたのこと。聞かせろよ、そろそろ」


「うむ、なにから話そうか……。まず、お主の名を聞こうか。拙者は、神代神琴(かみしろみこと)と申す」


「俺はアルベルトだ。アルと呼んでくれたらいい……。ん? カミシロミコト? もしかして、漢字で書くのか?!」


 アルベルトも驚いたが、神琴と名乗った少女も驚いているようだった。


「ほお、アルと言ったか……漢字を知っているのだな?」


「やっぱり、あんたは転生者なのか?」


「いいや、拙者ではない。そして、転生でもない。拙者の両親は、家ごと転移してきた、と言い教わっておる」


「……転移か、なるほど」


 そう考えれば確かに辻褄が合う。

もしかすれば、この辺は、転移者、転生者が多いのかもしれない。

ともあれ、前世いた転生前の世界を知っている人がいると知れただけでも、アルベルトは嬉しかった。


「だが、拙者の両親はもういない……」


「えっ!?」


「怨霊と言うやつだ。それに両親は殺され、住んでた神社も奪われた」


 神琴はひどく項垂れた。

彼女にとっては、思い出したくもないほどの悪夢だったのだろう。


「父も母も霊力と言う、霊に相対する力を持っていた。……しかし、殺された。それほどの怨霊が、父が守ってきた神社に居着いている」


「……そうか、それは辛い出来事だったな……。親御さんは、なんとか神琴ちゃんだけは逃がせたわけだ」


 神琴は、更に悲しそうに、ゆっくりと首を振る。


「私には、生まれつき霊力がなく、戦う術がなかったのだよ。だから、逃げた……両親をおいて」


「……神琴ちゃん」


 どれだけの胸の痛みを我慢してきたのだろう。大好きな両親を助けられないこと。自分には、その力すらないこと。見捨てて逃げてきたこと。


 絶望せずにはいられないようなことばかりなのに、それでも。


「ここに流れ着いたのは偶然ではない。拙者は、剣術には長けているのだ。故に、霊を斬る刀の存在を知っている」


「……退魔の刀」


 それを聞いて、はっとなったアルベルトは、小さく呟く。

霊や魑魅魍魎など、物体を持たないモンスターを斬れる唯一の刀。

退魔の刀、名を、『閻円(えんまどか)』。


「そう、その閻円をお主に作っていただきたく、今日は参ったのだ! どうか頼めないだろうか! 金ならあるだけ出す! それでも足りなければ、拙者はなんでもしよう……」


 ゴクリと、喉を鳴らすアルベルト。

今まで料理を作るのと、身の上話、それも転生前の世界のことでいっぱいいっぱいだったため気が付かなかったけれど……、神琴と名乗る女の子は、すごく出るところが出ていた。


 すごく田舎の町に長年住んでいるアルベルトには、若い女の子、それも神琴はすごく美形の女の子で、そんな女の子に出逢うこと自体が少なかった。

そのため、色々な妄想が膨らむのもあるかもしれない。


「……なるほどね。わかったよ。じゃあ、神琴ちゃんには、一肌脱いでもらおうかなー」


 アルベルトは、巫女服に身を纏ったその神聖なる姿を一瞥する。

恐らく、胸は出来るだけ抑え込んでいるのだろうが、控えめに言っても大きい。


「……あうあう」


 神琴はその視線に気づくと、頬を赤らめ俯く。

彼女も年頃だし、なにを見られ、なにをさせられるかくらいは想像のつく所だろう。


 アルベルトは、イヤらしくニヤリと笑うと一言。


「んじゃあ、素材集めしたいから、ボディガード頼めるかな?」


「……えっ? それだけでいいのか!?」


「えー、それ以外になにかありますか、って感じなんだけど?」


 アルベルトは悪戯に笑う。

わかっていて言っているように意地悪く。


「ひょっとして神琴ちゃん……エッチなこと期待してたの?」


「そ、そんなわけあるか! ……わかった! ボディガードでもなんでも引き受ける! して、その素材とはなんだ?」


「むふふ、ちょっと待ってね。今から調べるから……。ふむふむ、神木の枝、呪われた御札、それとクリエイト聖鉄」


 アルベルトは、刀剣図鑑を開き、キラキラとした目で中身に目を通す。材料も作り方もばっちり分かるようだ。


「この中だと、神木の枝が1番キツイかな……。俺は自慢じゃないけど戦えないけどさ、ダンジョンに行くことになるけれど、それでも大丈夫?」


「任されよ。必ずや、お主を守ってみせる」


「頼りにしてるよ。よろしくな、神琴ちゃん」


 アルベルトは、左手を差し出す。

それはこれからよろしくと言うことの友好の証としてだったのだろうが……。


「……すまない。父以外の男性に触れるのは、怖くてな」


「ううん、全然気にしないで。そういうことならしょうがないね」


 出していた手は行き場を無くし、空を掴む。

違和感を覚えながらも、アルベルトは気まずさを振り払うようにあはは、と気のない笑いを見せた。


 こうして、アルベルトが1人になってから、初めて鍛冶屋を離れ、モンスター荒れ狂うダンジョンへ赴き、素材を手にする。

そんな物語が、幕を開けた。




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