女勇者は魔王少女に堕ちる
この作品は
『女勇者、褐色ロリっ娘魔王をお持ち帰りする。~拾った魔王が可愛くて可愛くて可愛すぎるんですけど!~』
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作者:榊原モンショー 様
のシチュエーションを借りて、ご本人の許可を頂き書いたものです。
良かったら榊原モンショー 様のもどうぞ!
「ついにこの時が来ましたか……」
小高い丘から、1人の女性が巨大な城を見据えていた。
金色の瞳とは裏腹に、瞳の奥からは決意の炎を感じる。
彼女の名はシルビリア。
またの名を『勇者』。
悪さをする魔物から人類を救うべく、類まれな能力を活かして日々活動してきた。
風になびく髪は1本1本が黄金のよう美しく、白を基調としたマントや装備は彼女が勇者であることを否応なく認識させる。
さらに、彼女の後ろには僧侶、魔法使い、武闘家と様々な格好をしたメンバーが並んでおり、どれも歴戦の戦士の風格を匂わせていた。
何をかくそう彼女達は、目の前にそびえる巨大な巨悪の拠点ともいえる魔王城に、今から諸悪の根源と言われる魔王を討伐する為に乗り込むのだ。
「さぁ皆さん、行きましょう!」
「「「「おぉぉぉおおおおッ!」」」」
勇者シルビリアの号令に合わせ、雄々しい雄たけびが木霊する。
いよいよ、歴史に残る戦いが幕を開け――――
「イたっ」
れなかった。
出陣しようとした瞬間、ぺたんっと、6歳ぐらいの少女が草むらから倒れこんできたではないか。
紫色の髪を広げ倒れており、白いワンピースのあちこちには草や葉っぱが付いている。
「貴女、大丈夫!?」
まさかの不意打ちで一同が唖然とする中、勇者だけは少女に駆け寄った。
流石は勇者、といった行動力。
シルビリアに助け起こされた少女が顔を上げれば、黒褐色の肌にまん丸な赤い瞳、そして紫がかった透き通るようなロングストレートの髪はこの世のモノとは思えぬほどの美しい姿だった。
そしてお互いに目を合わせた瞬間、
「「(ドキッ!)」」
お互いの胸が高鳴り、1人の少女と1人の勇者が恋に墜ち、
「私、この子を連れて帰ります!」
「わたしもお姉ちゃんについてくー!」
そして勇者の戦線離脱が決まった瞬間であった。
するとタイミング良く、
キュルルル
少女のお腹が可愛らしい悲鳴を上げた。
「大変、今すぐに手当とご飯の準備をしなくちゃ!」
魔法の力により少女の傷を癒し、テキパキとご飯の用意を進める勇者。
『え、どうするのコレ』と固まっているメンバーたちは、完全に置いてけぼりである。
メンバーのことが頭から綺麗さっぱりなくなった勇者シルビリア、そして用意されたご飯をなぜか彼女の膝の上で食べる少女。頬を膨らませて一生懸命食べる姿は小動物のようで可愛らしい。
シルビリアは少女を撫でながら『あぁ幸せです…………』とご満悦。
さらに『私は今日、この日の為に勇者をやっていたんですね!』と運命の出会いに感謝した。
シルビリアは昔から可愛いモノに目がない。しかし育った環境の所為で満足に愛でることができなかった反動でさらに悪化し、今まで見たことがない程可愛らしい少女に一目ぼれをしてしまったのだ。
もう、誰が何と言おうとこの少女を離さないと心に誓う勇者。
さらに少女の方はというと、実は‟魔王”だったりする。
魔王となるべく生まれた少女。周りには教育係などが居るが、皆、外見が厳つかったり異形なモノしかおらず、同年代の子や優しいお姉さんは居ない。しかも魔王とはなんたるかを教えるべく時には厳しく指導されるせいで、魔王少女は大変ご不満であった。
もっと甘やかしてほしい! なので大変ご不満であったッッッ!
『まわりの人コワい顔だし、変なニオイだし、キビシイからもうイヤっ!』と不満が大爆発して逃げ出してきたが、行く当てもなくお腹を空かせてクタクタになった所に、女神の様に美しいシルビリアに出会ってしまう。
凄く綺麗で、いろいろと柔らかいし、いい匂いだしで一目ぼれ、からのおいしいご飯をくれるのだから大大大好きになってしまった。まだ幼女といっても差し支えない程なのだから、チョロい。もうチョロチョロのチョロだ。
『だれにも渡さないし、ぜったいにはなさないっ!』と‟欲しいモノは奪い取れ、手に入れたら絶対に離すな!”という魔王教育の成果の元、自己主張するために膝の上でご飯。なんとも可愛らしい意思表示。
「ご飯はおいしい?」
「うんっ!」
「よかったです♪ あ、そういえば貴女のお名前を教えてもらってませんでしたね。私の名前はシルビリアと言います。気軽にシアお姉ちゃんと呼んでください」
「うん、シアお姉ちゃん! えっとね。わたし、名前がないの」
「……えっそれって」
まさかの事態。
名前なし、そしてこんな場所に1人、そこから導き出される答えは、
『まさか捨て子!?』と盛大な勘違いが生まれた。
もしかして聞いてはいけないことを聞いてしまったのでは、と焦るシルビリアだが、それはすぐに少女によって修正される。
「えっとね、うんとね、みんなはわたしのことをマオーさまって呼ぶの」
「「「「魔王!」」」」
『確かにこの魔性の可愛さがあれば、そう言われるのも分かるかもしれない』と1人納得をするシルビリア。悲しいことにツッコミを入れる人は誰もいない。
「それでは、マーちゃんとお呼びしましょう」
「わーい、マーちゃん♪」
シルビリアの膝の上で楽し気に体を揺らすマーちゃん。
マーちゃんを見つめるシルビリアは、内心ではダラシなく悶えているが表情は聖母の様に微笑んでおり、慈愛に満ちた顔をしていた。
完全に存在を忘れ去られたメンバーたちは、そんなシルビリアを見つめて顔を赤くしているが、自分たちの世界に入り込んだ2人から気づかれることはない。
「あの~シルビリアさん?」
「はい?」
そんな中、僧侶が意を決して話しかけた。
もちろん『そういえば居たっけ』みたいな顔で返事を返されて心が傷つく僧侶。同じ志のもと一緒に過ごすことが多く、シルビリアに淡い恋心を抱いていたのだが本人に気が付かれることはない。
「そろそろ出発しませんか」
「え?」
「ん?」
「私は行きませんよ。マーちゃんと2人で仲良く過ごすんです。魔王城なんて危ない所へ連れていけません」
ここに来て、僧侶たちは先ほどの勇者の連れて帰る発言は本気だったのだと理解し始めた。1度決めたら決して曲げずに信念を突き通す。まさに勇者に恥じぬ心の強さを持っていると知っているだけに、メンバーたちは一様に冷や汗をかく。
『やべぇ……マジでどうすんの』と。
「シアお姉ちゃん、わたしのお城にあそびにくるの? わたし、帰りたくない……」
シルビリアたちの話を聞いていたマーちゃんは『またあのお城に帰らないとダメなの?』と嫌な顔になった。
怖い、キモイ、変なの、と3拍子揃ったお家へ帰りたくない様子。
「マーちゃん、大丈夫ですよ。シアお姉ちゃんがずっと一緒にいてあげるし、帰らなくてもいいんですよ」
無論、離す気がないシルビリア。もちろん、マーちゃんを連れて魔王城に行く気もない。だからギュッと優しくマーちゃんを抱きしめた。
「ほわぁぁぁっ! えへへへー♪」
マーちゃんは、柔らかくいい匂いのシルビリアに抱きしめられて、すっかり上機嫌。
もし、メンバーの誰かが2人を引き離して無理やり連れて行こうとすれば『私たちを引き離す? しばき倒しますよ』と勇者による制裁が待っている。
「じゃあどうするんですか! このまま何もしないで帰ったら、皆に何を言われるか」
それでも僧侶はあきらめない。
最後の希望である自分たちを、ここへ送り出してくれた皆の顔が脳裏に浮かぶ。
『どうすればいい、なにか代案は!?』と苦悩する。
するとマーちゃんが閃いた顔になった。
「じゃあ、こうすればいいよね。えいっ!」
マーちゃんは鈴の音のような掛け声と共に、腕を振り下ろした。
すると、マーちゃんから紫色のオーラが出たと想えば、魔王城の上空を覆うほどの紫色の靄が出来て、拳の形になるとそのままお城を叩き壊した。
凄まじい破壊音が響き渡り、マーちゃんから放たれたオーラの様なモノは威圧となり、その波動を受けたメンバーたちは恐怖で腰を抜かした。
「マーちゃんすごいです! これで魔王城に行かなくても良くなりました」
「えへへ♪」
喜びの声を上げ、マーちゃんを抱き上げてグルグルと回るシルビリア。
『紫色の様なオーラが出てマーちゃんがさらに素敵で可愛いです! もう胸がドキドキして大変です!』ぐらいにしか思っていない。
実際には勇者として特訓を重ねているシルビリアも、マーちゃんの圧倒的な力をモロに感じて体が危険信号を発しているのだが、吊り橋効果のように作用してしまい盛大な勘違いを起こしていた。
「それでは、ここにはもう用事がないので帰りましょうか♪」
「うんっ♪」
もう用事は済んだとばかりに自分の荷物をまとめて、マーちゃんと手をつなぎ歩き出すシルビリア。
既に2人の頭の中にはこれから事でいっぱいだ。
一緒にお食事しながら食べさせ合いっこしたり、お風呂に入って洗いっこしたり、ベッドで抱き合いながら寝たりと。
「そうだ、帰ったらおいしいごはんを作りますね。マーちゃんは何が好きですか?」
「えっとね、えっとねっ!」
幸せに満ち溢れた声響かせながら帰宅路についた。
メンバーたちを忘却の彼方に置き去りにして。
その後、本当の姉妹以上に仲が良い2人の元には多くの困難(?)が待ち受けているのだが、それはまた別のお話。
今回は3000文字ちょいという制限を設けて書いてみました。
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