ポポタン集会
「一週間でレベル1しか上がってないってどーいうことだよ」
ナイトウォーカーずのアジトである『夜の家』。
ユニオン入りした私は、ここでメンバーであるノノノさんとメメメさん、それからガレットさんとで集まってまったりするのが日課になっていました。
このゲームでは、初期職業で選ばなくても別の職業へと切り替えることができます。方法は簡単で、他の職業のギルドでクエストを受けるだけです。レベル上げは大変ですが、職業解放にデメリットはありません。
それはつまり。
みなさん、道士の職業を持っているということなのです!
私の職業が道士であることを知ったノノノさんとメメメさんが、道士になってハースールをサモニングして歓迎してくださったことをきっかけに、こうしてハースールまみれの集会を開くようになりました。
アジトの庭を拠点にしているのですが、庭までは公共スペースとして他のプレイヤーも入ってくることができます。ノノノさんたちのフレンドさんたちもいて、私もみなさんとフレンド登録をしました!
この数日で、たくさんお友達が出来て、とてもうれしいです!
集まっているみなさんの種族がポポタンなのが不思議ですが……。
そこへミルクさんがやってきて、呆然とした表情を浮かべて言った一言が、冒頭のものになります。
「あっ、ミルクさん! こんにちはです!」
「はいこんにちは。で?」
「??」
「プレイ方針に口出すのも違うと思って黙ってたけど、何やってんの」
「何と言われても……何でしょう……」
「何かな―」
「何かな~」
ノノノさんとメメメさんも首をかしげています。
ポポタンのこういう仕草、とってもかわいいです!!
「ガレット、楽しいか?」
「そりゃあもう、ハーレム気分味わっておりますよ」
「これだからポポタンどもは……」
ミルクさんが頭を抱えています。
「たしかに、ポポタンって集まる習性あるよね」
「一匹見たら三十匹はいると思えみたいなw」
「ポポタンだから許されるよねw」
「ガジーンでこれやったら戦争起きるよねw」
プレイヤーさんたちが言いながら見るのは、ミルクさんです。
ガジーンはポポタンと対をなすような、筋肉質で、力強くでっかい種族です。ミルクさんが曰く、「このゲームのステータスに種族差はない」とのことなので、筋力値はポポタンと同等です。
「俺の見てないとこだったらどうでもいいけどな。そもそも、このエリアはガジーン立入禁止だ」
「相変わらずガジーンに対するヘイトがやばいw」
「立入禁止の立て看板、あれミルクさんが立てたんだっけ?」
住宅街エリアの入り口に、「この先ガジーンの立ち入りを禁ず」という立て看板があります。
変わったルールだなぁ、と思いましたが、ミルクさんが仕込んだものと聞いて驚きです。ミルクさんは、ガジーンが嫌いなのでしょうか?
選択種族、ポポタンにしておいてよかったぁ。
「ネコメもネコだし、群れてるイメージあるんですけどね」
「ネコメ集会もあるけどな、こんな堂々とお天道様の下ではやんねーよ」
「ミルクさんが言うと秘密結社の集会みたいですね」
「間違ってないと思いますー」
「シーちゃんと時々どこかへ行ってるみたいですし~」
「あれは勝手についてきてるだけだぞ」
ネコミミさんにもなにかコミュニティ的なものがあるのでしょうか。
ネコ集会かぁ。こうしてポポタンにまみれるのもいいですが、ネコさんまみれも捨てがたいなぁ。
むむむ、と唸っていると、ミルクさんがため息をついていました。
「ここんとこずっと、こんなんやってたのか?」
「はい! 幸せです!」
「まったく、とんだクソゲーだぜ」
「??」
ベンチに座っていたノノノさんを摘んで放ったミルクさんが、少し悩んでメメメさんも同じように放り投げました。ぷぎゅ、と擬音が聞こえ、空いたスペースに腰をおろします。
ノノノさんが座っていた部分だけでは、狭くて座れなかったようです。
放り投げられたノノノさんはと言うと、いつの間にかミルクさんの膝の上に座り直していました。い、いつの間に!
「そういえば、ミルクさんはやっぱり、お名前に合わせてその髪の色に?」
雑談モードに入ったようなので、質問してみます。ずっと気になってたんです。
「いや、髪型も髪の色も定期的に変えてるよ。今この髪色なのは偶然」
「へぇえ、オシャレさんなんですねぇ」
ミルクさんは、毎日違う服を着ています。今日はゴスロリ風のドレスですが……こんな服も、このゲームにはあるんですねぇ。
「お名前の由来は何なんです?」
「……うちで飼ってるネコの名前だよ。妹がつけたから、由来は知らねーけど」
「それで種族もネコミミさんなんですね」
「『ネコメ』な。ポポタン以外の種族名、覚える気ねーだろ」
そ、そんなことは……!
すぐ忘れちゃうだけです、決して物覚えが悪いわけでは!
「お前のほうこそ、『アリス』なんて名前つけやがって」
「『アリス』になにか、あるんですか?」
「悲しい事実だが、教えといてやろう」
ミルクさんは言いながら、膝の上に座るノノノさんの頭をぐじぐじと弄くり回しています。気持ちよさそうに体をよじるノノノさんのほうが、まるでネコみたいです。
「このサーバーに、『アリス』は三百人居る」
「!?」
「このゲーム、名前被りおーけー仕様ですからー」
「前は『ミルク』さんも何人かお見かけしましたけど、最近では見なくなったね~」
「そりゃあ、『問答無用のミルク』と同じ名前とか、怖くてキャラデリ必須ですよ」
「!?」
メメメさんが意味深なことを言い、ガレットさんが更に被せて発言します。
ど、どういうことなのか、聞くに聞けなない恐ろしさがあります。
「元ネタは?」
「『不思議の国の』、ですけど……」
ちなみに『ネージュ』は、本名の方からの捻りですが、これは言わない方がいいでしょう。
別に言っても大丈夫じゃなんですけれど、リアル情報に関わるので控えたほうが無難という判断です。
「単純にパイが多いだけだが、『アリス』って名前の地雷率は異常」
「確かに、遭遇率は高いですけどー」
「言い切っちゃうのがミルクさんらしいというか~」
「地雷って、なんでしょう? 爆発するんですか?」
「間違ってはねーな。ただし、怪我をするのが他のヤツってだけだ」
「『アリス』さんに限った話じゃないけどね」
「初心者さんとか、若い子とかもいますしねー」
「慣れてない子もいますし、仕方ないですって~」
「俺、フレンドリストに『アリス』さんが八人くらいいますねw」
「うう、なんだか……すみません……」
「あぁ、いや、アリスさんが謝ることじゃないですから」
ガレットさんが慰めてくれます。
確かに、ありきたりな名前、なんでしょうか。私のことではないとわかっていても、申し訳なくなってきます。
「ほらー、アリスちゃんが困ってるよ」
「ミルクさんのディス、容赦ないからねw」
「偏見ひどいよねw」
周りのポポタンさんたちがミルクさんをからかうように言いますが、当のご本人さんはどこ吹く風。
散々な言われようですが、やっぱりミルクさんって、そういうキャラクターなんですね……。
「まぁ、他人がどう感じるか、より自分がどうしたいか、だな」
「と言うと?」
「ネトゲだからな。他人と協調プレイってのも大切だが……、それで窮屈な思いしてまでプレイするほど、このゲームは立派なもんじゃねぇ」
「ミルクさん……」
「ミスしたり、迷惑かけたらちゃんと謝る。それさえ出来てりゃ、何も言わねーよ」
「でも……ガジーンだったら?」
「即キックするに決まってんだろ」
ミルクさんのガジーンに対するこの仕打は、一体何だというのでしょうか……。
キックは多分、『パーティから追い出す』みたいな意味合いだと思います。ガジーンというだけでパーティから追い出すと、ミルクさんはそう言い切ったのです。
「ヤバすぎw」
「ここまでいくともう笑うしかないw」
「ちょっと良いこと言ってたのに台無しだよw」
ポポタンさんたちも言っています。
よかった、やはりミルクさんの思考回路がやはりズレているということなのでしょう。
「まぁ、ミルクさんのは極端だから」
「そうそう。他人に迷惑かけて楽しんでる人も居るし……。私はそういう人のことを、『地雷』って思うかなぁー」
「VRになって、プレイヤー同士の距離感が近くなって、目に見えて悪いことできる人減ったよね~」
「昔のネトゲはもっと殺伐としてたからな。俺ごとき、生ぬるくて麺が伸びちまうよ」
その例えはよくわかりませんが、たしかにVRでゲームをしていると、対面しているプレイヤーの人格を身近に感じられます。表情に感情が乗りますし、声だってはっきりと聞こえるからです。
「あぁ、そうだ。アリス、言っておくことがある」
「?? なんでしょう?」
私が聞き返すと、ミルクさんがニヤリと笑みを浮かべました。
「道士がレベル二十になると、黄色いハースールを召喚できるようになるぞ」
「な、なんと!?」
「レベル三十になると、アタッカー職の召喚士と、ヒーラー職の学士の二択だが……おっと、ここから先は自分で確かめるが良い」
「れ、レベル上げに行ってきます!」
「ストーリークエスト進めないとイベントも進まないからな。しっかりやれよ」
「はい! ありがとうございます!」
ポポタン集会なんてやっている場合ではありませんでした。
はーちゃんへ視線をやります。はーちゃんに飽きたわけでは決してありませんが、新しい子達をお迎えしなければなりません!
私は立ち上がり、皆さんに別れを告げます。
新しい使役獣……!
楽しみです!