竜を倒す者、従える者
「職業格差? あるに決まってんだろ」
何を今更、とでも言うように、ミルクさんが鼻で笑います。
MMOの宿命なのだ、とそう付け加えて。
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召喚士になった私のレベルも、いまや四十五です。呼び出せる使役獣の種類も増え、日替わりで遊んでいます。
行動指示も徐々に覚えてきて、今は『セミオート』に落ち着きました。『マニュアル』を使いこなせるのはプロ中のプロだそうで、それこそPSが他のプレイヤーより頭一つ突き抜けている方々だとか。
クエストを進めたり、街をただ歩いたり……。
日々が発見の連続なのですが、ふと、気づいてしまったのです。
随分と職業分布に偏りがあるな、と。
あくまでもイメージなのですが、タンク職では斧使いの戦士よりも、剣使いの騎士のほうが多いです。
アタッカー職で言えば遠距離職……召喚士や魔道士、それに弓を使う吟遊詩人が多いです。近接職はグラップラーは見かけるのですが、竜騎士はほとんど見かけません。
ヒーラーは学士と聖術士の半々ですね。
以前種族の話になったときにも、人口比率に偏りがあることを聞きました。と言っても、ガジーンだけが突出して少数派であるということですが。
それと同じことが職業にも言えるのではないか、そう思ったのです。
と言っても、職業変更はいつでもできることですし、複数職を使いこなす人も多いと思われます。
「騎士と戦士……同じタンク職であるにも関わらず、騎士のほうが人気がある。これは単純に、剣と盾がカッコいいからだ」
大きな斧でどっかんどっかん、も悪くないと思うのですが……。
ですが、RPGの主人公といえば、剣と盾。こういうイメージは、鉄板といえるのでしょう。
「性能差でいえば、騎士は操作性に癖がなく安定している。むしろコンボルートが単調で簡単すぎて眠くなるくらいだ。眠気覚ましでユニオンチャットで遊べるくらいだな。戦士のほうは火力があるが打たれ弱い。体力はあるが、脆いのでその分削られるわけだな」
「それは、ヒーラーさんが大変ですね」
「そうだ。だから、タンクでは騎士が優勢と言える」
「なるほど」
「だが、レイド……エンドコンテンツではタンクが二枚必要だ。こういう時は、騎士と戦士の二枚になる。それぞれに役割がかぶらないからだし、固有スキルもあるから戦略の幅が広まるからな。まあ、同じ職がいると解放ゲージ貯めるのが遅くなるというデメリットがあるというのも理由だな」
であれば、職が被らないようにするというのも納得です。
「ヒーラーも同じだな。学士と聖術士、それぞれに性能差はあるが、二枚必要となる。一撃の回復量が多い聖術士と、被ダメを減少させるバリアを持つ学士。ここで職をかぶらせる理由はない。住み分けも出来ているといえる」
「では、アタッカーは……」
アタッカーは竜騎士、グラップラー、吟遊詩人、魔道士、そして召喚士の五つです。
その中から枠に入れる四つとなれば……。
私はミルクさんの言葉を待ちました。
「竜騎士以外ならなんでもいい。以上」
「ええっ、そんなにあっさりと」
「ふん、街で竜騎士を見かけなかっただ? 取り繕いやがって。どうせダンジョンで出会った竜騎士の挙動に何か思うところがあったんだろ、ええ?」
見破られていることに驚愕します。
いや結構、いつものことのようにも思いますが……。
そんなに私の思考回路って、単純なのでしょうか……。
「いえ、偶然、とは思うのですが……。何度も死んじゃう竜騎士さんがいたんです」
「別に珍しい話じゃねーな、竜騎士はすぐペロる」
「ペロ?」
「床を舐めるってことだよ。竜騎士は『今日の床の味は一味違うな』といえるようになってこそ一人前の床ソムリエと言える」
「しょ、職が変わってます」
「すぐ死ぬ竜騎士が悪い」
「それは……、そういう性能だから、なんでしょうか」
「断言してやる。そうだ」
なんという悲しい現実。私は絶句します。
「スキルの数々に仕込まれた事後硬直。バフ維持のための方向指定スキルを放つために必要とする移動と、その際に敵の攻撃範囲に入って巻き込まれて被弾。与ダメージ増加の代償に被ダメを大幅に増加させる『背水』の使用……数えたらキリがないほどに、ヤツらは欠点を抱えている」
「で、でも……、回避不可の全体攻撃でも死んでいたんですよ! 防御態勢をとっていたのに、それを貫いて!」
「竜騎士の魔法防御は……全職で一番低い」
「えっ……?」
「中盤まではタンク職と同じ装備なんだが……、突然、上位装備にすることで魔法防御だけが下降線を辿ることになりやがるんだよ」
「それはつまり……、装備更新をすればするほど、脆くなっていくと……?」
「そうだ。そしてボスの全体攻撃は……、もう分かるな? ほとんどが魔法攻撃なんだよ……!」
「そんな……。そんなの、あんまりです……!」
装備に設定されているパラメータは、防御力だけではありません。
体力を上昇させるVIT、それから物理戦闘職であればSTR、魔法職であればINTなど……。
その職業でしか装備できないという制限があるからこそ、装備品には職業に応じた必要パラメータの上昇値が設定されているのです。
これがあるため、必然的に装備の更新を要求されるというわけですが……。
竜騎士はアタッカーです。アタッカーに要求されるのは攻撃力そのもの。
武器だけではなく、防具を良いものに変えることで攻撃力も上がるとしたら……。
攻撃力を上げるために、魔法防御を犠牲にする。その結果、避けようのない全体攻撃で死んでしまうことになるわけです。
「竜騎士は悔しいことにカッコイイ。武器の槍のデザイン、無駄に凝ってるからな」
それが人口を一定に保っている要因のひとつだろう、とミルクさんが分析します。
「そもそも、このゲームにおける竜騎士は、『竜を倒す騎士』であることにも問題がある」
「というと?」
「『冒険者たち2』から竜騎士は出ている。だが、これまでの竜騎士は、『竜に乗って戦う騎士』や、『竜と一緒に戦う騎士』ばかりだった。方向性を変えてきたんだろうが……余計なことをしやがったというしかねーな」
「竜を従える……あれっ、それって……」
「そうだ。お前と……、道士のペットと被る。だからこそ、避けたんだろうと俺たちは推測している」
なんてこと……!
私はスキル一覧を開きます。
レベル四十五の私が呼び出せるペットの数は、ハースールの色違いを入れて五種類。
居ます。
その中に、竜っぽいフォルムの幻獣が……!
その名は『ファイアサラマンダー・ミニオン』。邪神の眷属である『ファイアサラマンダー』を模した使役獣で、竜というよりはトカゲというのが近いでしょうが……、羽がついていて、移動する時は飛ぶこともできる子です。
「まあそのうち修正されると踏んでるけどな」
「そうでなければ、悲しすぎます……」
「あとはあれだな。レイドでのドロップ、竜騎士専用の装備がやたら出やがってな。それでヘイト稼いだってのもある」
「それは流石に冤罪では!?」
「考えても見ろよ。苦労してクリアしてもドロップは偏ってる。俺達は言うわけだ、また竜騎士装備がでたよ~、なんてな。ダブリが出るわけだから、使いもしねーのにメンバーに順々と渡っていく産廃だぞ」
「産廃……」
「だがレイド産の装備だからな、竜騎士連中は普通に使う。俺達は自分用の装備を拾えていないというのに、奴らは普通に使うんだぞ!」
「嫉妬じゃないですかーー!」
「見せつけてくるからな、あいつらは。煽ってんのと同義だぞ」
「う、うぅん……、レアな装備を拾ったら、他の人に見せたくなるのって……ダメなんですか?」
「いいや? ネトゲで連綿と繰り返されてきた活動の一端だな。レア品蒐集ってのは、自慢するためにやることだ」
「他のプレイヤーとの競争、なんですね」
「射幸心を煽る、とも言うな」
「恐ろしいですね、レイド……でしたっけ」
「ポポタン集会やってるような連中には縁のないことだよ」
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「あれ、そう言えば、前にダンジョンでドラゴンを倒しましたよ。これで私も竜騎士と言えちゃったりしますかね。なんて……」
「アリス、お前……! これ以上竜騎士の存在意義を奪ってやるのはやめてやれよ!」
「そ、そんなつもりでは……」
このゲームにおける竜騎士とは、『竜を倒す騎士』。正確には、そのために竜の血を取り込み自身の力とする――という設定があるようですが……。
「あぁでもな、竜騎士の職クエはいいぞ」
「シナリオですか?」
職の切り替えをすることで、それぞれの職のレベルを上げることが出来ます。
レベルを上げると、職専用のクエストが発生するのです。
召喚士のクエストでは、メインストーリーの重要NPCの妹が出てきて、思わずニヤリとしてしまいました。召喚士の力を悪用する悪い召喚士、彼を止めるために奔走し、その過程で新しい使役獣を手に入れる。
シナリオの流れはこんな感じです。竜騎士にも同じように、レベルごとに進展するクエストがあるわけです。
「ジューイチ、全般的にシナリオいいですよね。NPCも個性的だし!」
「NPCな……」
「ま、また何か思うところでも?」
「ポポオスのNPC、性格悪いヤツ多いよな」
「うっ、た、たしかに……」
可愛らしい見た目のポポタンですが……、女性NPCは見た目通りに可愛らしく癒されるようで人気もあるのですが、翻って男性NPCは……。裏で策謀を画策し、プレイヤーを陥れたり、悪魔を召喚したり、難民を追い出したりと、ろくなことをしないNPCは大抵ポポタンみたいなところがあります。
いわゆる悪役のポジションですが、見た目も相まって強く印象がついてしまっています。
「ま、さっさとレベル上げてストーリーを進めるこったな。」
「はい!」
余裕ができたら、竜騎士をやってみるのも面白そうだな。
そんなことを、ふと思う一日でした。




