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避けない人

田舎育ちの私にとって、都会の風景は何もかも新鮮なものだった。店も人もたくさんで電車だって数分おきに来る。都会っていいなーと思いながら私は叔父さんの家に向かって移動していた。

都会に出てきた理由はインターンシップ。先生に勧められて、名前の知っている企業のインターンシップに応募したら受かってしまった。お金が出るとはいえ、旅費と滞在費が先にかかってしまうのは厳しかった。

そこで親に相談したら叔父さんに掛け合ってくれた。昔から可愛がってくれてて、叔父さんと同じ学校に通ってるのもあり、二つ返事で交通費も出してくれた。無事お金に余裕が出来たので、こうして短期期間であるが、ついに上京した。

浮かれ気分で駅からの道を歩いていると、中年のサラリーマンと危うくぶつかりそうになった。振り返って謝りかけたが、その人は何も無かったかのように既に通り過ぎていた。そればかりか人を避けることなく真っ直ぐ歩き続け、いろんな人とぶつかりそうになっていた。

その行動に少しイラッとしたまま歩いていると、叔父さんの家に着いた。よく来たなーと迎えてくれて、世間話をしているうちにさっきの人のことを忘れてしまっていた。

インターンシップが始まり、通勤ラッシュの苦しさを体験したり、仕事の楽しさや大変さも体験したりと、濃い一日が過ぎていった。ランチで1000円には少し冷や汗をかいた(奢ってもらえた)。

帰りのラッシュを抜け、疲労したまま最寄り駅の交差点を渡っていると、あの避けない男性とぶつかりかけた。ちらっと見た顔は何やら険しい感じだった。

それから数日、避けない男性を何度も目撃したのだが、どうやら横断歩道を渡る時だけ険しい顔をしているようだ。歩道ではのほほんとした顔をしている(それでも避けることはしない)。

休日に叔父さんとご飯を食べた時、ふと思い出してその話をした。

「そういえば、前から人が歩いてきても一切避けない人がいるんだよね。」

「ああ、たまにそういう厳つい強面のおじさんいるよな。ぶつかったら面倒だから気をつけて歩くんだぞ。」

「うん。でも私が見たのはそういう人じゃなくて、普通の優しい感じの男の人だったんだよ。」

すると叔父さんは、少し怖い話をしようと言い始めた。私は渋ったのだが、勝手に話し始めた。

「ごくたまに、道を歩いてる人が不自然に何かを避けるように歩くことがある。特に前に人がいるわけでもなく、ゴミや何かが落ちているわけでもない。避けた人のすぐ後ろを歩く人は普通にまっすぐ歩き続けるんだ。

叔父さんの知り合いにもな、たまにそういうことをする人がいたんだ。上京する前の話だけどな。お酒を飲んだ時に話を聞いたら、どうやら視える人らしい。ある場所に居続けるタイプの幽霊は幽霊だと判断がつくし、そいつらは危険だからこっちは視えない振りをする。

でもな、普通に過ごす幽霊もいるらしい。普通に過ごすと言っても買い物したり食事したりではなく、普通の人に混じって歩くという意味だぞ。特に危険な例ではないらしいし、意識しないと生きてる人と間違えて避けてしまうんだと、そいつは笑ってたな。

それから数日、そいつは事故で入院した。横断歩道を渡ってた時にいきなり戻って車とぶつかったらしい。見舞いに行くと、何が起こったか話してくれた。

『横断歩道を渡り始めた時、前から来た人とぶつかりそうになったから避けたんだ。渡り終える時、その人に後ろに引っ張られた。よく見たらその人、生きてる人じゃないのよ。その時理解した。視える人を事故にあわせてるんだと。あの時避けなければ事故にあわなかったかもな。』

ってへらへらしながら話してくれたよ。」

ふぅっと一息つくと、続けてこう言った。

「普通に歩いてる幽霊の中には、視える人を探してる奴もいるのかもしれんな。」

「思ったより怖くなかったね。私は視える人じゃないし。」

怯えながら聞いていた私は残っていたジュースを飲み干した。叔父さんは、少し怖い話と言っただろうと笑っていた。

「それで、お前の話のことなんだがな。もしかしたらその避けないひとは、視える人かもしれんぞ。」

「視える人なら避けるんじゃないの?」

「避けることで幽霊に視えるんだと勘づかれるんだ。それで危険な目に遭うんなら視えないふりをすればいい。だからなりふり構わずぶつかるのさ。」

繋がってしまった話に私はまた少し怯えた。叔父さんは「まあ可能性の話だ」と付け足した。

店を出た私たちは、寄り道をしてから家へと帰った。その途中、またあの人が現れた。幸い私たちとぶつかることはなかったが、私は気になって振り返った。おじさんも釣られて振り返り、どうした?と私に声をかける。

「例の人とすれ違っただけ。」

と答えると、叔父さんはその人を見れなかったことを少し残念そうにしていた。

早いもので1ヶ月が経ち、インターンシップが終わり、田舎に帰る前日に叔父さんが遊びに連れていってくれた。その帰りのこと。

駅前の横断歩道では珍しく、向かい側からはひとりしか来ない。そのひとりは例の避けない人だった。しかもほぼ正面で、渡ってる途中にぶつかりそうだなと思った。案の定、ぶつかりそうになったので

「あの人とぶつかりそう」

と叔父さんに伝えて私が避けた。すると叔父さんはきょとんとした顔から強ばった顔に変わり、私の腰に手を回し力を強めた。

「少し痛いかもしれんが我慢しろ」

と言われたが、結構力が強くて痛い。横断歩道を渡り終えそうになった時、私は急に肩を掴まれて後ろに引っ張られた。しかし、叔父さんが手を腰に回してくれていたおかげで倒れずに済み、横断歩道を渡り終えた。振り返ろうとしたら叔父さんに止められた。

家に着いてから叔父さんは何が起こったのかゆっくりと話してくれた。

「お前がぶつかりそうと言った時、叔父さんには誰とぶつかりそうなのか分からなかった。向こう側から歩いてきた人は誰もいなかったからだ。そして自然とお前が避けた時、もしかしたらと思った。痛かったよな?ごめんな。」

叔父さんは謝ったけど、むしろ私は叔父さんに助けられたのだ。叔父さんにお礼を言うと、優しい笑顔で「おう」と答えた。

翌日、叔父さんに見送られて無事に田舎に帰った。帰りながらふと思い返すと、いつも険しい顔で横断歩道を渡る例の人は、私が避けた時ににやりと笑ったように思えた。

帰宅して叔父さんにお礼の電話をした時に、その事を話した。すると叔父さんもその事で思い出したことがあるらしい。

「お前に叔父さんの知り合いの人の話をしただろう?そいつもおじさんと同じ、つまり今のお前と同じ学校だったんだ。もう20何年経ってるから大丈夫だと思うけど、事故ったのは学校の前の交差点なんだよ。」

気をつけろよと言ってくれたが、これからの学校生活、あの男の人の顔が頭から離れそうにない。

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