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元社会の奴隷の演説

月夜が指示を出して数十分後。


男女別におよそ30人ずつ、10グループが出来上がり整列して待機していた。

男女比は奇跡的に150対150。

若いのからそこそこのオジサン、オバサンまで選り取り見取り。

中にはエルフやら獣人やらリザードマンみたいな人まで多種多様な種族が揃っている。

そんな沢山の奴隷の前に立つ美少女ことテンが喋り始める。


「はい!みなさん注目してください。皆さんにはこれからお風呂に入ってもらいます!それからお腹いっぱいになるまでご飯を食べましょう!勿論予算は私達が負担します!」


この発言に奴隷達はざわめき出す。

言っている内容は奴隷である自分達には余りある待遇だ。

中には喜ぶ者もいるが半数以上は疑いの目を向ける。

何もなくそんな対応をされるほうがおかしいと思うのは過去の経験から見れば当然の事だった。



「えー、皆さんの中にはなぜこんなことをするのかと考える方もいらっしゃることでしょう。僕のことを信じられないのも当然です。初対面ですから。だから理由をお伝えします。」


さっきまで騒がしくなりかけていた奴隷達は静かになり主人の言葉に耳を傾ける。


「…悲しかったんです。」


奴隷達はその言葉を聞いてもどういうことか理解できていない。


続けて言葉は紡がれた。


「貴方達を見て僕は悲しくなった。皆疲れきった、死んだような、どこか諦めたような目をしています。」


奴隷達は話に耳を傾ける。

確かにここに来る時点で自分達は色んな事を諦めていたし、過去のこともありもう色んなことはどうでもよくなっていた。


「貴方達を見ていると過去の自分を思い出します。皆さん程では無いですけど、僕も会社のために自分を犠牲にして、ずっと働き続けて精神をすり減らして、人のために自分を犠牲にして。だけどどんなに辛くても誰にも助けて貰えなくて。何のために働いているのか、何のために生きているのか分からない。そういう時期がありました。」


この少女も過去に奴隷だった事があるのだろうか。

可愛らしい見た目とは裏腹の過去の話しは奴隷達の注目を集めた。

更に少女は紡ぐ。


「そんな時、自分は一度死んだ。そしてこの世界に来て僕は月夜に救われたんです。月夜は美味しいご飯を作ってくれて、僕といつも一緒に居てくれて。僕が辛い時にはいつもぎゅっと抱きしめながら助けてくれる。人というのは暖かい。誰かと一緒にのんびりと過ごせることは幸せだし、助けて貰えるのはもっと幸せだ。」


この世界に来てから日に日に月夜の存在が自分の中で掛け替えの無い存在となっていることに気づいた。


「僕はこの世界の奴隷の制度に対しては文句は言えない。それがこの世界のルールなんだろうから。でも、奴隷だからと言ってフェイみたいに、皆さんみたいに暴力を振るわれ傷付けられているのを見ているのはとても心が痛い…」


後ろからフェイがテン様ぁ…と少し涙声で呟いているのが聞こえるが、まだ終わりではない。


「だから僕は僕の見える範囲で皆さんを助けたい。絶望している皆さんを助けてあげたい。偽善者だと言うならそれでも構わない。これは僕の我が儘だから。だから皆さん。まずは僕と一緒に休みましょう。お風呂に入って疲れも汚れも落として、美味しいご飯を一杯食べて。まずは人並みの生活を取り戻して、それから今後のことは考えましょう。頑張って僕が助けます。だけど代わりに僕がもし困っていたら出来れば助けてくださいね?お願いします。」


僕は頭を下げた。

話が終わったのだが。

辺りは静まり返り反応がない。

どうしよう。おもいっきし滑ったかもしれない。

そんな不安を感じどうしようこの空気とか考えていると…


暫くしてから一斉に凄まじい拍手と歓声が響いた。

中には思い切り号泣している人達までいる。


良かった。

想いは通じたようだ。

実際に話したことについて嘘はないし本心だ。

どうせお金は有り余ってる。

生活には余裕がある。

今はまずこの人達を癒そう。

そして皆で助け合って生きていければきっと皆楽しいよね。


やりきったことでホッとしていると後ろから月夜に抱きしめられた。


「テンちゃん、いい演説だったわ。」


感慨深そうに月夜が言う。


「ありがとう。月夜。月夜のお陰だよ。」


「そんなこと無いわ。貴方の力よ。それに私のほうが貴方に助けられてるのよ。」


「そんなこと無いよ。月夜がいなかったら、月夜に出会えなかったら僕はもうとっくに死んでいただろうしもう月夜無しでは生きて居られる自信が無いよ。」


「あら、愛の告白みたいね。」


「うっ、そう?じゃあちゃんと伝えておくよ。大好きだよ。」


テンは顔を赤くしながら伝える。

若干この場の雰囲気に飲まれている気もするけど本心ではある。

突然の告白に月夜は目を白黒させているが構うものか。


ついでにぎゅっとしてやれ。


向き直り真正面から抱きしめる。

いつも自分から抱きつくことはあれど抱きつかれることなど無かった月夜はいつになく積極的なテンに動揺して口をパクパクさせながら顔を赤くしている。

それからちょっと落ち着いてきた月夜は恥ずかしそうに抱き返した。


「ありがとうテンちゃん。私も貴方が大好きよ。」


ああ、あったかい。

いつまでも一緒に居れるといいな。

そんなことを想いながら抱きしめ合っていた。

周りに居た奴隷達はそれを祝福するように拍手したり歓声をあげまくっていた。



テンと月夜が離れてからも、暫くの間この騒ぎは終わらず申し訳なかったけど月夜にお願いして、奴隷達に静かにしてもらうまでの数十分は続いたのだった。


え?どうやったのかって?

月夜が地面をドンってやったら一瞬で止まったよ。

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