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続・紅の挽歌 ~佐久間警部の鎮魂歌~(2024年編集)  作者: 佐久間元三
難事件の始まり
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捜査会議2(2024年編集)

 ~ 警視庁、捜査一課 ~


 一通目の検証が終わり、途中休憩を挟んで、捜査会議が再開された。


「では、二通目の内容を検証する。手元資料を見て欲しい。二年前の事件の『紅の挽歌』と、今回の『続・紅の挽歌』について、比較出来るようにしてある。この事件を知らない者に、説明するのだが、前回の事件は、この小節に沿って、殺人事件が起こった。この小節は、それぞれが、単体の小説作品の一部で、構成されていて、作品を読み解かないと、犯行場所や人物に辿りつけなかった。今回の事件も、類似の展開になるだろう。最後の詩に注目してくれ」


【 紅の挽歌 】


『  紅の夕陽が、ひとつ沈むとき 蒼い時間に、君は、崖から落ちるだろう 』

『 崖へと続く荒野では、馬で走るが、間に合わず、夢と一緒に折れるだろう 』

『 富士山麓の麓には、自分を守るしがらみが、友と儚く露となる 』

『 空回りした川辺には、藤原南家が滅ぶとき、仏と一緒に、帰郷する 』

『 一掃された大樹には、若い芽が出て、花が咲き、業の深い人間に、

  大樹もろとも、消されるだろう 』

『 天下を治めた家康も、五代目先まで予想せず、業火の炎に、消えるだろう』

『 紅の夕陽が、再び昇るとき 新たな夜明けとなるだろう 』


【続・紅の挽歌】


『 紅の夕陽が、再び昇るとき、君は、全てを掴むだろう 』



「前作に比べ、かなりお粗末な内容だ。『新たな夜明けとなるだろう』は、事件が解決をする事を示唆していたが、『君は、全てを掴むだろう』の意味は、全ての真相を知ったと解釈出来るが、他に意見はないか?」


「これは、暗に、『前作と続いているんだよ』、と言う為のものではないでしょうか?そのままの意味で、宜しいかと」


「問題ないと思います」


「客観的に言わせて貰うと、読み手が、結論を理解すると、解釈します」


「原作者としては、どうですか?」


「…『紅の夕日が、再び昇るとき』は、二年前の事件は、一度解決したが、また起こるぞと、読み替える事が出来ます。君の部分は、予告上の君だから、佐久間警部を指すとは思うのだけれど、仮に、犯人を指すのであれば、『紅の挽歌を入手した犯人は、次の行動を起こす事が出来る』、『紅の挽歌を入手した犯人は、自分の思い通りの結果が、得られるだろう』と、読み取れるし。…とりあえず、全体を見たうえで、判断しますわ」


「では、二小節目に移ろう」



『 神田川から繋がる海へ、船で出て、大海原へと消えるころ

  桜を愛でる釣り人も、遠くの岸辺で、朽ち果てる 』



九条大河(先生)の作品で、類似するものは、ありますか?」


「私の作品では、『永遠の春』が近いかもしれません。九条絢花(師匠)の作品なら、『初夏のころ』か『春風のフルート』かしら?」


「今、仰った作品の中で、岸辺で死ぬ情景は、ありますか?」


「…嵐の晩に、友との約束を果たす為、周囲の反対を押し切って出航し、海の藻屑となる話ならありますが、岸辺で死ぬ作品は、九条絢花の作品にも無いです。『永遠の春』は、春から初夏に移る頃に、カップルが、とある事情で別れる事から、物語が始まります。『理不尽な事件で、互いの気持ちが離れたのだ』と、主人公が理解するのは、恋人が、病気で最期を迎える直前。恋人を救う為に、神々に会おうと、日本三大霊山を求めて、奇妙な体験をする話です。桜を愛でるという点では、この作中に出て来ますが、釣り人も、岸辺も該当しません」


「九条絢花の作品、『初夏のころ』と、『春風のフルート』は、如何ですか?」


「この二つを簡単に解説すると、『初夏のころ』は、昭和初期、終戦時の子供が、逞しく生き延びていく作品です。食うに困っていた主人公が、『漁師になれば、魚を沢山食べられる』と考えて、闇市の弥彦に弟子入りするの。神田川から、漁に出る部分が該当しますが、師匠である弥彦が、海難事故で、遠州灘の御前崎まで、流されても生還するし、死者は出ていません。それに、この作品は、木更津の、…確か、久津間海岸だったかしら?その海へと続く電柱を、題材にしていて、あさり漁を巡って、密漁を防ぐ話が、後半部分に載っていたと、記憶しています。『春風のフルート』は、季節を司る天使が、春を導くフルートを無くしてしまい、いつまで経っても冬のままで、春を渇望する主人公が、天使の代わりに、フルートを探すと、申し出た事から、物語が始まります。大海原で難破し、辿り着いた無人島では、政府が、かつて建てた廃屋が、異質空間化し、その廃屋内で、殺人行為を目撃した主人公が、犯人から、執拗に、命を狙われるという、メルヘンとサスペンスを融合した、一風変わった作品となっています。主人公は、釣り人ですが、私には無い、現実離れした手法で、物語りが進むので、非現実的で、参考にはなりません」


 佐久間は、左手で、顎先を撫でるように触った。


(神田川、木更津、久津間海岸。もし、これが当たっているならば、遠くの岸は、遠州灘の御前崎になるかもしれないな。…遠州灘、…静岡か)


「作品として、あえて取るなら、『初夏のころ』でしょうか。頭の片隅に入れておきます。でも、事件は起きるとは、正直、考えにくいですね。他に、何か、心当たりの作品は、ありますか?」


 川上真澄は、首を横に振った。


「模倣犯が、九条大河(先生)の様に、作品に拘らず、詩に準えただけなら、単純に、神田川から沖へ出て、そこで、対象者が、犠牲になるのかもしれない。それか、対象者が、釣りを嗜み、神田川から、海に面する岸辺のどこかで、殺されるかもしれない。…時期は、春、つまり二・三ヶ月後くらいに起こる。では、二小節目はここまでにして、次の三小節目に移ろう」



『 黄金色に光り輝くヴァルハラで、相反するしがらみが

  無情に、荒野で果てるだろう 』



「この詩は、また独特だな。第一印象は、どうだ?」


「ヴァルハラが、鍵となりそうですね。まず、ここに、目がいきます」


「ヴァルハラって、何ですか?」


「北欧神話に出てくる、宮殿か何かだったと思うよ」


「警部、ご存知なんですか?」


「クラシックで、聞いた事がある。でも、それ以上は、調べないと、分からないな。九条大河(先生)は、ご存知ですか?」


「私も、この手には、疎いですわ。九条絢花(師匠)も同じく、西洋文化には、ちょっと疎いかも」


「柴田さん。出版社で、取り扱った事例が、ありますか?」


(………)


「地方で、『ヴァルハラと謳われる、病院がある』と聞いた事があります。確か、栃木県にあったかと思います。噂でが、凄腕の外科医や、内科医が在籍し、他の病院で、見放された患者が、この病院で、助かったと。でも、事実であれば、報道されているだろうし、半々といったところでしょうか」


(火の無いところに、煙は立たない。調べてみる価値は、あるだろう)


「ヴァルハラの語源と、栃木県の病院が関係あるか、捜査してみましょう。『相反するしがらみ』ですが、病院内で、内輪もめしている想像が出来ます。その結果、荒野=病院の外で、人が死ぬかもしれない。対象者が、この病院に勤務し、内部抗争で殺し合うよう、犯人(ホシ)に導かれるかもしれません。作品を探しながら、詩の通り、病院の捜査も、同時進行で行いましょう。皆も、それで良いか?」


「異議無し」

「了解です」

「問題ありません」


「では、次の四小節目に移る」



『 鎮魂歌の奏でる続唱が、二つの罪を、鎮め給う 』



「まずは、率直な意見を、聞かせてくれ」


「鎮魂歌ってのは、レクイエムの事でしょうか?」


「レクイエム?」


「死者を慰める歌です。続唱は、二番の事を指すのでしょうか?」


九条大河(先生)と九条絢花の作品に、鎮魂歌は出てきますか?」


「生憎、私の作品には、ありません。九条絢花の作品には、『君に捧ぐ鎮魂歌』があります。でも、死者を慰める歌では、なかった気がしますわ。もう一つ、確か、別の解釈があったかと思います。調べておきますわ」


「そうですか。では、鎮魂歌については、別途確認しよう。『二つの罪を鎮める』とあるから、この小節では、二名が、犠牲になるのかもしれない。現時点では、九条絢花の作品から、犯行の時期と、鎮魂歌が奏でる場所を、特定していくしかあるまい。では、次の、五小節目に移ろう」



『九条絢花の名のもとに、大河を、再び乱すだろう

 元凶となる、ワザワイは、悲運の選手となるだろう 』



「これは、九条絢花の作品が、九条大河の作品に、何をもたらすのか、見当もつかないな。ワザワイを、カタカナで表記しているのが、怪しい。災い、厄、禍、祅。良くない事だけは、何となく、伝わるが、宛がう漢字によって、経過が変わるのだろうか?悲運の選手も、何を指すのか?九条大河(先生)と柴田さんは、何か、心当たりありませんか?」


(………)

(………)


「正直、見当もつきません。悲運の選手という言葉も、どの作品にも、出ていませんから。模倣犯の、創造物だと思います」


「『元凶となる、ワザワイ』が、誰なのか、想定が困難です。上下の詩が、連動しているとは思えません。上は、九条絢花の作品で、真澄が苦しむイメージがあります。下は単純に、対象者が死ぬイメージです。あえて関連性をつけるとすれば、真澄と仕事関係で繋がりがあり、真澄が苦悩を打ち明ける人物、かつ、真澄との絡みで、結果的に死んでいく。感覚的には、そう思いましたが、真澄、心当たりは?」


(………)


「いいえ、私は、苦悩を他人には話した事がないし、これからもないわ」


真澄(きみ)は、確かにそうだった。何せ、僕にも言わないからね」


「今のところ、判断出来ませんな。では、保留にして、六小節目に移ろう」



『 紅の挽歌が、再び響くとき、最後の一人が、笑うだろう 』



「これは、一連の事件が、最終段階を迎えた時、最後の対象者が笑うのか、犯人(ホシ)が最後の対象者として、笑いながら自殺するのか、どちらにも取れる。他の意見はあるか?」


「『再び響く』が、引っ掛かります」


「夕陽なら昇るだが、挽歌だから、響くにしたんじゃないですか?こじつけ感が、半端ないですが」


「とりあえず、今回の検証は、こんなところだろう。事件まで、時間的に余裕があるとは思えないが、精度を上げていこうじゃないか?各自、空いた時間に勉強してくれ」


 佐久間は、安藤に声を掛ける。


「では、課長。最後に、一言お願いします」


「眉唾ものの事件だが、本当に起きるとすれば、犯罪史に残る、重大事件となるだろう。未然の事件を、どう防いでいくか、通常捜査と同じ様に、緊張感を維持しながら、職務に励め。どんな些細な事でも、自分の懐で温めず、報告・連絡・相談を怠るな!」


「はい、承知しました!」

「了解です」

「畏まりました」


(今回は、二年前の事件とは、質が違い過ぎる。九条大河は、最初から喉元に、ナイフを突きつける様な、挑戦状を送ってきたが、今回は、ただ、犯行するぞと、少し、こちらの様子を窺っている感を覚える。最初の事件、二ヶ月程、時間猶予があるのは、前回と同じだが、今の捜査一課の課員で、二ヶ月も、緊張を維持する事は、難しいだろう。…さて、どう指揮していこうか)


「課長、とりあえず、今日は、このまま解散とします。捜査方針を出すには、少しだけ時間をください」


「分かった、任せよう」


「通常なら、このまま、班編成したいところだが、今日は無しとする。捜査方針が決まり次第、改めて行うので、今日は、ここで解散とする。通常の捜査に戻ってくれ」


 佐久間は、捜査員の今後を考慮して、詩の検証、九条大河・九条絢花の作品の調査は、佐久間と、九条大河が中心となって、行う事にした。当面は、一小節目の犯行を防ぐのが、最優先だが、闇雲に、捜査員を宛がっても、通常捜査に支障をきたす。


 悔しいが、現段階では、犯行時期や対象者の情報が、漠然としており、仮説が立てられない。


 佐久間は、九条大河と、今後について、意見交換する事にした。


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