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続・紅の挽歌 ~佐久間警部の鎮魂歌~(2024年編集)  作者: 佐久間元三
難事件の始まり
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佐久間への挑戦状(2024年編集)

 ~ 二月十四日、警視庁捜査一課 ~


 捜査一課では、日々、様々な事件に対応し、課員たちは、大忙しだ。


 総務課受付窓口は、内容に応じて、各課に振り分けている。判断が難しい場合は、捜査一課に回ってくる頻度が多い。

 

 捜査一課は強行犯、つまり、殺人や強盗、傷害、暴行、誘拐、立てこもり、性犯罪、放火などの、主に凶悪犯罪に特化して、捜査を行う課であるが、捜査の内容に応じて、第一強行犯捜査~第七強行犯捜査に分かれ、さらにその中で、係が変わる。


【捜査一課 組織早見表】


 ○第一強行犯捜査

  強行犯捜査第一係(課内庶務)

  強行犯捜査第二係

  (捜査本部設置、捜査連絡調整)

 ○第二強行犯捜査

  殺人犯捜査第一係〜第三係

  (殺人、傷害事件)

 ○第三強行犯捜査

  殺人犯捜査第四係〜第五係

  (殺人、傷害事件)

 ○第四強行犯捜査

  殺人犯捜査第六係〜第七係

  (殺人、傷害事件)

 ○第五強行犯捜査

  殺人犯捜査第八係〜第九係

  (殺人、傷害事件)

 ○第六強行犯捜査

  強盗犯捜査第一係

  (強盗犯罪の捜査、犯罪手口資料)

  強盗犯捜査第二係〜第六係

  (強盗犯罪の捜査、暴行・傷害の連続犯事件の捜査)

  性犯罪捜査第一係

  (性犯罪捜査、情報分析)

  性犯罪捜査第二係

  (強姦、強制わいせつ事件の捜査)

 ○第七強行犯捜査

  火災犯捜査第一係〜第二係

  (放火、失火事件捜査)

 ○特命捜査対策室

  特命捜査第一係〜第四係

  (未解決事件の特命捜査)


 佐久間は、刑事人生の殆どを、捜査一課で過ごしている。


 入庁三年目に、警視庁きっての、鬼と呼ばれる、下山刑事に抜擢され、第一強行犯捜査~第七強行犯捜査、特命捜査対策室にも所属し、ありとあらゆる捜査で、鍛えられた。


 現在の、正式な所属は、第五強行犯捜査の、殺人犯捜査第九係であるが、能力の高さを評価されて、捜査一課長より、特例で、全ての係に対して、指揮する権限を与えられており、今朝も、新宿区で発生した放火事件や、練馬区で発生した強制わいせつ事件の、陣頭指揮を行なったところである。


 穏やかな年末年始を迎えた、捜査一課だが、二月に入ると、性犯罪、放火、強姦などの犯罪件数は、通年比と変わらない状況になっていた。


 八時に、現場に向かった佐久間が、捜査一課に戻ってきたのは、十四時を回った頃である。


「お疲れさん。見事な、陣頭指揮だったと、日下より報告があったぞ。強制わいせつ犯(マル被)をその場で確保して、余罪まで、吐かせたそうじゃないか」


 課長の安藤は、上機嫌で、佐久間に声を掛けた。


「私より、日下を褒めてあげてください。そろそろ、独り立ち出来るかと。次は、日下に、指揮を任せようと思います」


「そうか。佐久間警部()が、そう言うのなら、任せてみるか」


「ええ、ぜひとも。失敗しても、糧になります。自分も、そうやって、鍛えられましたから。では、昼休憩を取ってきます」


 佐久間が、捜査一課を出るタイミングで、庶務課が、一通の封筒を佐久間に届けた。


「お疲れさまです。佐久間警部宛に、手紙が届いていますよ」


(手紙?…誰からだろう?)


 一度濡れて、乾いた封筒だ。少々くたびれていて、宛先は、確かに自分宛だが、ところどころ、文字が滲んでいる。裏側を見ても、差出人が書かれていない


(…不審な点はあるが、とりあえず、確認するか。…表の消印は)


「……ん?えりも町…北海道からだ。山さん、私宛に、手紙を出したかい?」


「手紙ですか?…いいえ、出していません。出すなら、絵はがきにします」


(そうだった。山さんは、いつも、絵はがきだったな)


 佐久間は、手紙を背広の内ポケットにしまうと、山川を誘った。


「山さん、いつもの喫茶店で、少し遅くなったが、昼食にしよう」


「今、読まれないのですか?」


「とりあえず、喫茶店で読む事にするよ。お腹も空いたし、急がないと、昼食時間(ランチタイム)が終わってしまう」


「まだ、大丈夫ですよ。時間だって……)


 山川は、腕時計で、現在の時刻を確認する。


(大丈夫…じゃなかった。本当だ、まずい)


 山川は慌てて、椅子に掛けた、コートを羽織った。



 ~ 千代田区 爛々亭 ~


 霞ヶ関の中では、値段が安く、味にも、定評がある喫茶店である為、この日も、多くの客が訪れている。時間ギリギリであるが、日替わりランチが、注文出来たので、佐久間たちは、安堵しながら、コーヒーを、食前に変更した。ランチが来るまでの間、佐久間は、胸元の手紙を取り出し、開封する。


「二通あるようだ」


「宛先が、警部で、送り主が不明なんですよね?……怪しい手紙ですね。しかも、北海道とは」


 山川は、口では不審がるも、興味津々だ。


「…何となく、嫌な予感がするが。まあ、読んでみよう」


 佐久間は、封筒から中身を取り出すと、山川にも聞こえるように、手紙を読んだ。


『 敬愛なる佐久間警部 殿


 この手紙は、北海道で書いている。


 貴殿のこれまでの活躍は、疑う余地がないが、特に、二年前の文豪、九条大河の遺作を巡る捜査には、目を見張ったよ。


 はじめに、断っておこう。

 

 私は、捜査関係者ではない。


 ミステリー小説に囚われた私は、日本国内のミステリー小説を、あらかた読破した。中でも、九条大河(先生)と、その師である、九条絢花の作品に心酔した。


 記者会見で、九条大河(先生)が、女性作家だと知り、作品を通して愛した人が、この世を去った事と、最期の作品が、未完に終わると聞いた時、茫然自失となったよ。


 私は、どうしても、最期の作品を読みたくて、作品を保有する出版社から、複製を手に入れた。


 …作品の内容に、驚愕したよ。


 紅の挽歌は、未完ではなく、完成しているではないか。


 しかも、貴殿が、この作品の完成に、導いた事も知った。


 私は、この終わり方には、到底、納得がいかない。


 物語の終盤までは、完璧な切なさと、悲哀があった。だが、貴殿の介入で、不幸な結末ではなく、完全決着の終わり方になってしまった。この小説は、真犯人もろとも、全員が死ぬ事で、初めて意味が成す。起承転結の、結は、死ぬ事で、起に結びついてくる。つまり、輪廻転生だ。それくらい、分かるだろう?


 真の『不幸な結末』を、貴殿と、九条大河(先生)亡き今、関係者に教示する為、九条大河(先生)に代わって、新たな課題を出そうと思う。


 前作の『紅の挽歌』では、九条大河(先生)の、過去作品を紐解いて、事件を解決した事は、捜査記録から、分かっている。


 今回は、『続・紅の挽歌』として、新規定を適用する。今回は、九条大河(先生)の作品だけではない。九条大河(先生)の師匠、九条絢花作品も加える。


 九条大河(先生)は、貴殿に、事前情報を与えたようなので、これに倣い、私からも、少しだけ、情報を流す。


 十名程度だが、死んで当然の(くず)たちを、用意した。


 こいつらは、本来、死刑に値する者ばかりだが、法の目をかいくぐり、不起訴や、証拠不十分で釈放された者たちだ。そして、今日も、平然と、世の中に毒をばらまいている。被害者家族の心中は、計り知れない。


 私が、被害者家族の、代弁者()となり、かの者たちを、粛清する。警視庁にとっても、裁ききれない者を、葬ってやるのだから、本音は嬉しいはずだ。法の下で、裁けない者には、法が届かない力で、粛清する。これが、世の理だよ。


 敬愛なる佐久間警部 殿

 

 私の楽しみを奪い、崇高な作品を、勝手に改悪した事は、万死に値する。貴殿のせいで、何名が、非業の死を遂げるのか。『捜査上、仕方がなかった』と、自分たち都合の、勝手な解釈はしないでくれよ。言い訳や、忖度は無しだ。事の発端は、貴殿が仕掛けた、改悪だ。


 見事な手腕で、せいぜい、死者を減らす事だな。期待している 』


 一通目は、ここで終わっていた。


(…柴田と会った時、覚悟はしていたが、やはり模倣犯が出たか)


 冷静に、この事実を受け止める佐久間とは、裏腹に、山川は、怒りを露わにする。


「何という、理不尽な手紙だ!勝手に、作家に陶酔し、勝手に、警部を悪と決めつけ、人を殺そうとする。こいつは、ただの精神異常者で、愉快犯です。相手にするのも、馬鹿馬鹿しい」


「だが、犯行予告(これ)が本当なら、大変な事になる」


「ですが、あまりにも、理不尽な言いようです。しかも、二年経った、今になって。訳が分かりません」


(………)


「年始の休暇明けを、覚えているかい?」


 山川は、首を傾げた。


「休み明けですか?何も無かったような?」


「ほら、朝一に、大有出版の柴田から、電話があっただろう?」


「……ああ、思い出しました。確かに、ありましたな。警部が、お一人で行かれましたね?」


「巡回がてら、柴田に会ったんだよ。その時に、『紅の挽歌のデータが、社内の何者かに、流出させられたようだ』と、柴田から聞いた。何となくだけれど、いつの日か、模倣犯が出るかもしれないと、予想はしていたから、そこまでは、驚かないよ」


「なるほど、そうだったんですか。警部が、そう仰るなら、問題ありません。それで、警部はどう思われましたか?」


「…文章の構成や、表現方法は豊かで、知的さを感じさせるが、おそらく小説家ではないね。熱烈な、愛読者の一人に、過ぎないと思う。手紙の内容が本当なら、看過出来ない。…この手紙を語るには、長引きそうだね。まずは落ち着いて、食事を済ませてから、二通目に、目を通そうじゃないか」


 空気を入れ替えるように、食事が運ばれてくる。


「そうですね、食事も来たようですし、腹ごしらえしましょう」


(………)


(捜査情報を調べた相手か。九条大河の手紙も、把握したうえで、挑戦状を送ってきた事からも、二通目の内容も、似せているに違いない。今回は、九条絢花の作品もと、言っていたな。前回よりも、骨が折れるのは、間違いない。…厄介な模倣犯が、出て来たな)


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