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第17話 消えた大国と太陽の魔女……

前回までのあらすじ!


もういっそおまえが戦えや。

 どうやら同じ魔女でありながらも、オフィーリアは太陽の魔女とやらの存在を知らないらしい。


 老人は続ける。


「二日前、ここより遙か西。イヨノフタナ国に棲む太陽の魔女がなんらかの大魔法を使用したことによって、超大国であったイヨノフタナからありとあらゆるものが消滅したと聞く」

「消滅?」


 イタリセがうなずく。


「イヨノフタナ国にあったはずの多くのものが失われた。壊れたのではない。死んだのとも違う。失われたのだ。消えてしまった。先史文明の遺跡も、家屋も、人間、王、国ですらもな。だが、それらがどこへ行ったのかは、当の魔女以外の誰にもわからん」


 ぞっとする話だ。まるで核兵器でも使用されたかのような薄気味悪さだ。


「問題は(くだん)の魔女の大魔法が、イヨノフタナだけではなく、ヒノモト全土に影響を及ぼしたことだ」


 オフィーリアの瞳が、ゆっくりと悲愴的に見開かれてゆく。


 同じ魔女の、そのような話など聞きたくもなかったことだろう。いや、あるいは原罪へと繋がる手がかりなのかもしれないけれど。


「ヒノモト全土は壊滅こそせなんだが、この遠く離れたキオ国ですら一つの集落を失った。されどヒノモトは戦乱期の只中。そのようなことを追求する国も存在せん。むしろ大国イヨノフタナが失われたことを喜ぶばかりよ」

「人が消えたのにか?」

「うむ。愚かな話よ。それぞれの国家は統一などというくだらぬ理由で戦へと人を駆り立てる。()の魔女の大魔法は、そのような国々に対する警告であったかもしれぬというのに」


 一度咳払いをして、イタリセが大きな深呼吸をした。


「少し話が逸れたな。そういった理由で、魔女に対する警戒を強めていた矢先に、おぬしらが訪れた。無用な嫌疑をかけてしまい、すまなんだ」


 イタリセが白く変色した頭を垂れると、オフィーリアが苦しげに首を左右に振る。


「……いえ……そんな……」

「おそらく、おぬしらがヒノモトをおとずれたのは、魔女の大魔法と原理を同じくする理由であろう。だが、こうしておぬしらが別世界よりヒノモトに渡っても生きていたというなら、ヒノモトより消失した多くの民も、どこかで生きておるのやもしれんな」


 イタリセが歳不相応な悪戯っ子のような笑みを浮かべて、自らの膝を叩いた。


「ふふ、そうそう悪いことばかりではないということよ。おぬしらの存在そのものが、消えた人間たちの希望だ」


 呪われた魔女であるオフィーリアが、その言葉に苦い表情を浮かべた。


「おれたちがその――太陽の魔女に会うには、どうしたらいい?」


 渡りに船の話だ。

 その魔女が物質を異界へと送ったとするなら、彼女のいるイヨノフタナ国にたどり着くことができれば、もとの世界に戻る方法がわかるかもしれない。


 大和の質問に、イタリセが難しい表情をした。


「現状では不可能だ。先も言うたように、このヒノモトは戦乱期。キオ国の民はキオ国領内でしか存在をゆるされん。国境(くにざかい)を越えれば問答無用で両国の兵に裁かれる。件の魔女がおるのは、ヒノモト最大の強国オーザカ領よりもさらに西、海を渡った島国だ。とてもではないが、個の足ではたどり着けまい」


 大和は下唇を噛みしめ、拳を地面に叩きつけた。


「くそッ、何か方法はないのかよッ」

「ないこともない、が、やはり不可能だ」


 その言葉に、大和が視線を跳ね上げた。


「教えてくれ!」

「キオ国がヒノモトを統一すれば良い。だが、キオはヒノモトで最も脆弱なる国家。隣国との小競り合いの中で、ここまで生き延びてこられたことがすでに奇跡よ。まあ、オーザカ領に侵入しようなどとは考えぬほうが良い。あれは魔の棲まう地、余所者の生きられる地ではない」


 イタリセはそう言って立ち上がると腰を反らせて伸ばし、未だ座り込んだままの大和とオフィーリアに視線を落とした。


「好きなだけ泊まってゆけ。妹御はまだ動かぬほうが良い上、おぬしらはどうせ行き先もない身だ。トロルを退治したものとして、村人らにも紹介したい」


 先に歩き出したイタリセの後を、大和とオフィーリアも立ち上がり、少しの距離を置いて付き従う。

 希望と絶望の両方を教えられた気分だ。


 大和は重いため息をついた。

 太陽の魔女という、もとの世界に戻る希望ができたというのに、現状ではオーザカ領を越える方法がない。それでも一人でならば無茶を考えたかもしれないが。


 旅慣れ、ある程度戦えるオフィーリアはともかく、紫織をも巻き込むとなれば話は別だ。ヒノモトの危険性は、すでにこの二日間で身に染みてわかっている。

 トロルのいる森を徒歩で抜けるだけでも、ぞっとする。

 ふと気がつくと、一歩、また一歩とオフィーリアの歩みが、徐々に遅れていた。


「どうした?」

「わたしも、もしかしたら西の……太陽の魔女のように多くの人々を……だとしたら、わたしは――」


 ああ、そうか。

 自分たちのことばかりを考えていたが、オフィーリアもまた、自らの過去を探さねばならない身であったことを忘れていた。自分のことに必死になって、自分たちを救ってくれたこの魔女のことを忘れるなどあってはならない。


 大和は大きく夜気を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 そうして、精一杯の笑みを浮かべた。


「おまえが過去に何をしたかなんて、まだわかんないよ。今は気にするなよ、フィリィ。それを探す旅でもあるんだからさ」


 微笑みながら大和はオフィーリアの手を取り、強く引き寄せる。


「あ……」

「っと」


 勢い余ってオフィーリアの額が、大和の胸にコツンとあたった。

 オフィーリアがあわてて顔を上げ、少し拗ねたような表情で唇を尖らせる。


「もうっ、大和はいつも強引すぎます」

「お、おう。……ごめん」


 至近距離で見つめ合い、なんだか可笑しくなって互いに相好を崩す。この魔女を見ていると、不思議と落ち着いてくる。

 昨夜よりもヒドい目に遭ったが、悪い気分ではないと、颯真大和は考える。



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