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青二才

 妹はインコが大いに気に入ったようだ。少なくとも朝顔とか、自由研究で使ったカブトムシよりは大事に扱っている。


「どうせ三日坊主だろ。それで僕に世話を任せっきりになるんだ」


 僕は籠の中のインコに手を伸ばした。小さな嘴が指の腹を啄んだ。


「ほら。アオちゃん、お兄ちゃんに触って欲しくないんですって」

 妹は両手をコップ状にして、ふわふわした青い羽毛を包み込む。


「何だよ、アオちゃんって。変に名前付けると後々面倒だぞ」


 横目で一人と一匹をちらと見る。


「ごめんね。お兄ちゃんが変な事言うから」


 悪かったな。事実を述べたまでじゃないか。昔買ってた生き物は大体御陀仏になった癖に。どうせそんな長く生きないんだから。


 インコがうちに来て二週間と数日。餌を買いに、近場のホームセンターまで足を運んだ。妹は米粒か何かをやっていたが、あまり好んで食べなかったそうだ。


「適当な物選んだら言いに来い。ルーズリーフ探してるから」

「何でよ。お兄ちゃんだって手伝ってくれて良いじゃない」

「元々お前の鳥だろ」


 扱いが不服だったのか、妹が口を尖らせついてきた。それを尻目に僕は早歩きで文具売り場へ急ぐ。

そもそも母さんが、インコの餌事情に興味が無い僕を付添わせた事自体大間違いだ。家事なんて僕に任せれば良かったのに。


「ねぇまだ? あたしのアオちゃんは?」

「うるさいな、後で行くから我慢しろ」


 わざと時間をかけて探した。たかが縁日で買った鳥一匹の問題だ。

目の前にあったルーズリーフの袋を掴む。生温い皮膚の感触。細かいビーズめいた物が指先に当たった。



「零士君に華ちゃん! 偶然ね、ここで会うだなんて。ネイル道具買いに来て良かった」


 やっぱり茜さんか。勉強さぼってホームセンターをうろつくとは、ご精が出るものだ。腹のうちで皮肉を呟いた。


「何しに来てたのよ」「貴女には関係ない」


「アオちゃんのご飯買いに来てたの! あ、あのね、アオちゃんは前に買ったインコ!」


 妹が代わりに言った。


「佐川君は付き合って来たの? 優しいのね」

 別に。父さんはゴルフでいないし、母さんは家事やらなきゃだってさ。答える代わりに僕はちょっと顔を俯かせた。


「アカネェちゃん、これ見て」妹はポシェットから写真を出した。アオちゃんが手の上にチョコンと座っている。茜さんはまぁ可愛いと手を叩いた。女子はいつもこうだ。何でも「可愛い」とか「ウケる」で済まそうとして。


「零士君家は良いわね。うち、団地だから生き物駄目なのよ」


 茜さんは写真に写ったアオちゃんを、指で優しく撫でた。蛍光灯に照らされ、ラインストーン付きのマーブル柄の爪が光った。


「こんなんならいつでも譲るよ。妹ごと」

口を開くと溜息と一緒に愚痴が漏れた。茜さんもインコも見ないで足元に吐き出す。一緒に心臓までぬるりと出て行きそうだ。


「何よ、お兄ちゃんったら。アオちゃんが嫌いなの?」

「セキセイインコなんて大嫌いだ」


 こんなに可愛いじゃない、と妹がわざとらしく首を捻った。ほんとねぇ、と茜さん。


 何故かその様子が妙に気に入らなかった。僕が入れない話をしてるから? 休みを鳥一羽の事で潰されて、苛立っている脇で楽しそうにされたから?


 くさくさする気分を追いやりたくて、


「ちょっと消える。先に餌選んでレジ行け」


僕はトイレに駆け込んだ。直ぐに、個室でさっきの態度を悔いる。ましな言い方で望めた筈の展開を想像して、虚しくなる。


〈つづく〉

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