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96 急発進はダメ!

「はっ!?」


 俺は布団を跳ね除けて目を覚ました。

 上半身を起こすと、不快な感覚が身体を覆っていることに気がついた。どうやら、寝汗をかいたようで、体中がべっとりと汗で滲んでいる。

 俺は周りを見渡す。

 整理されていない本棚。アニメのBD。投げ出されているゲームのコントローラー。

 確かに此処は俺の部屋だ。

 俺は部屋のカーテンを開けると、眩しい朝日が部屋の中に差し込んでくる。

 窓から家の前の道に目をやると、犬の散歩をさせているお婆さんが通り過ぎて行く。

 

「なるほど……」


 俺は手のひらをポンと叩いた。


「夢かっ!」


 恥ずかしい、とんでもなく恥ずかしい夢を見た。

 俺が夕日の沈む砂浜でセレスに告白をした挙句、抱きしめあうという超弩級のこっ恥ずかしい夢だ!

 思い出しただけで、顔から火が出て目玉焼きが焼けそうなほどだ。

 俺はベッドの上で、十分程もだえ苦しむと、階段を駆け下りお風呂場に飛び込んだ。そして、冷水のシャワーを浴びて、この恥ずかしさで熱された身体を覚ましたのだった。

 



 ※※※※


 俺はいつもの様に学校に向かう。

 一体全体何処からが夢だったのだろうか?


「七桜璃さんがさー! 七桜璃さんでねー! 七桜璃さんだったらー! 七桜璃さんならばー! 七桜璃さんゆにえー! 七桜璃さんであるなばらー!」


 と、朝もはよから、向日斑が忍者のことを延々話しだすところを見るに、今までの俺の出会いが全部夢ということはなさそうだ。

 何処からだ……。

 あの桜木さんが、俺の電波テレパシーが嘘だと気がついたところも夢なのか? そうならば……。

 

 しかし、放課後になり、俺は現実を突きつけられることになる。



 ※※※※


 校門前までやってくると、見慣れた姿が目に入る。

 あのここらで見かけないド派手な制服、そうセレスだ。

 セレスは俺の姿を見つけると、まるでダンスを踊っているかような足取りでこちらに向かってきた。そして、バレエのピルエットをクルリクルリと二回決めて俺の指先を掴んだ。

 いつも以上に演出ががった登場に、俺が戸惑っていると……。


「ダーリン、お待ちしておりましたわ」


 と、目の中にハートマークを描きながら言うではないか……。

 この時、俺はすべてを思い出したのだ。

 俺は砂浜から家に帰ったあと、あまりの急展開に現実なのかどうか理解しきれぬまま、夢遊病者のようにふらふらとベッドに倒れ込み、そして眠りに就いたのだということを……。

 

「さぁ、ダーリン、二人の門出として何処かにお出かけでもいたしましょうか?」


 セレスは俺の腕にスルリと自分の腕を絡めつけては、身体をピッタリと密着させる。

 それを見た、向日斑と、いつの間にか駆けつけていた花梨かりんは……。


「お、おう。神住かみすみ、お前いつの間にそういう関係に……。いやまぁ、そうかなぁとは思っていたが……」


「うわぁー。久遠ってば、クマさんおパンツと付き合っちゃったの?」


 返答に困る。

 いや、確かに折れとセレスは付き合っている。(仮)ではあるけれどれっきとした恋人同士なわけで……。とすると、俺はここで『ああ、セレスは俺の彼女さ!』なんて答えなければならないのか……。恥ずかしい……。なにそれ、拷問レベルに恥ずかしい。

 世のカップルというものは、こんな恥ずかしいことを、あけっぴろげに言ってのけているのか……。すげぇカップルってまじ鋼の精神力の持ち主だ……。

 俺が答えに戸惑っていると、セレスが俺の腕を掴んだまま一歩前に出た。


「そうですわ。わたくしと、ダーリンは恋人同士になりましたのよ。ね? ダーリン」


 胸を張っての威風堂々の宣言。セ、セレス、お前には羞恥心というものがないのか! あれか、アホだからか! アホだからなのか!

 ね? とこっちに振られているわけだから、答えなければならない。さぁどうする、ここが俺の正念場だ。

 俺は横のいるセレスの顔を見る。セレスはニコニコニコニコニコニコと、生まれてきてありがと言わんばかりに笑みを絶やさないでいた。

 はい、わかっています。

 俺の答えることなんて、決まっているのです。セレスのその笑顔を壊すことなんて、俺には出来ないんです。


「あ、あぁ、俺とセレスは付き合っているぞ……(仮)だけどな」


「ウホォォォォォ!」


 まるで大砲のように口から飛び出した向日斑の咆哮は、大地を揺るがし、校舎の窓ガラスを一斉に振動させるほどだった。それほどまでに、俺に彼女が出来たことが、向日斑にとって衝撃的なことだったに違いない。

 

「お兄ちゃん、鼓膜破れるからっ!」


 花梨が慌てて飛び出して、向日斑の口を両手で塞いだ。


「お、おう。すまんすまん。あまりの衝撃的発言に、俺の中の何かが爆発してしまってな」


「ホント、お兄ちゃんってば、声デカすぎだよー!」


 花梨がコツンと向日斑の頭を叩く。

 すまんすまんと、中腰になって向日斑は頭を下げた。

 

「まぁ、とにかくあれだ。おめでとうだな! あと、あれだ……。俺らが居たらきっとお邪魔だろうから、今日はここらで退散させてもらうぜ。また明日な!」


「えぇー。花梨は、この二人をもっといじりまわしたいんですけどー」


「却下だ!」


 向日斑は花梨の制服の襟首を捕まえると、まるで猫のように引っ張りあげた。花梨は、宙に浮かされた両足をバタバタさせて、不満を訴えていた。そして、そのまま花梨を小脇に抱えると、自転車を二台引きずりながら去っていった。なんともパワフルなやつだ……。

 美少女拉致と勘違いされて、警察に通報されないことを祈ろう……。


「さぁ、それでは参りましょう」


 セレスが俺の腕を強く引っ張る。


「いや、あのでも俺自転車が……」


「それならば、先日同様にご心配ございません」


 いつものようにブラッドさんが現れては、俺の自転車を家まで送り届けてくれるらしい。昨日もちゃんと家に自転車は届いていた。それも、ピッカピカの新品同様に磨き上げられた状態で……。

 あれよあれよという間に、俺はセレスの車の中に連れ込まれる。


「さて、何処に参りましょう? 先日が海でしたから……。今日はヘリを用意して富士山にでも……」


「ヘリ!? ちょ! ちょっと待て!」


「はい? 国内がお嫌ならば、飛行機をチャーターいたしまして、モンブランにでも……」


 ヘリというワードに困惑する俺を他所に、セレスはウキウキブルジョアにデートプランを考えている。


「ストップ! ストップだ! なぁセレス、俺たちは、付き合っている」


「はい」


「でも、まだ仮免許状態だ! いきなりデートで大げさ場所に行くというのは、初心者がアクセルを一気に踏むこむようなものだ!」


「つまり、どういうことですの?」


「とっても危険だ!」


「はぁ……」


「危険行動を繰り返していると、仮免許すら取り消しになってしまうんだぞ?」


「そ、それは困りますわ!」


 ここでセレスはやっと、俺の言葉を理解してくれたようだった。


「うん。だからだな、まずは手近なところでだな……」



 ※※※※


「まさか、こんなことになろうとは……」


 俺が提案したのは、いつものファミレスでお茶をして帰るという、普通かつ健全極まりない提案だった。

 だが、予想外の事態は起こるものだ。というか、最近予想外の事態が起こらないほうがおかしい感じになってきているのは気のせいだろうか……。


「うわっ!?」


 俺は思わず声を上げてしまった。

 何故ならば、俺とセレスが立ち寄ったファミレスには、桜木さくらぎさんと、冴草契さえぐさちぎりが仲良くお茶をしていたからだ。


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