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81 動物園でダブルデート?


「確実に騙されてるだろ、俺!」


 腹が痛い、背中が痛い。

 そう、これはすべて神社の境内で、冴草契さえぐさちぎりによって負わされたダメージだ。

 自転車を飛ばし、家に帰って風呂に入った俺は、腹に大きな痣が出来ているのを発見した。

 普段ならば心地よいお風呂のお湯が、今日は身体中にしみるように感じるのは、気のせいでも何でもなく、ぜぇーんぶ冴草契のせいだ!


「なんか、いかにも青春ぽい会話でごまかされたが……。俺、無理やり呼び出された挙句、理不尽な暴力を受けただけじゃないか!」


 どうして、境内でその事にツッコミを入れなかったのだろうか……。あれか、なんか女の子と二人で、夜の境内というシチュエーション、しかも恋愛っぽい話を交えつつ、って雰囲気に流されたのか?

 シチュエーションで暴力が許されるなら、警察なんかいらねえ!

 

「ちょっと、人との付き合い方を考えよう……」


 そんなことを考えながら、俺は湯船の中に頭まで沈めた。

 全身が水の中に沈むと、なんだか胎児に戻ったようで、優しい感覚に包まれる。勿論、胎児の時のことなど覚えているわけはないので、こんな感じなのかなーってくらいなのだけど。

 



 ※※※※※


「カップル成立記念に、みんなで遊びに行きましょう」


 唐突にセレスがそんな提案をぶちまけた。

 

「みんなというと、七桜璃なおりさんも来るんですよね!」


「えっと……それは……」


 セレスは近くの街路樹に視線を送る。その街路樹の上から、必死になってバッテンマークをしてみせる忍者の姿が見えていた。


「ちょっと、無理ですわねぇ」


「ウホウホ……」


 向日斑は膝から崩れ落ち。街路樹の上の忍者は安堵の息をついていた。

 何処からともなく、野良犬と野良猫が現れては、落ち込んでいる向日斑を励ますように、ペロペロペロとなめ出していた。この男、本当に人間以外の動物にはモテモテのようだ。


ひめ、なんか遊びに行く話になっちゃってるけど……」


「そうだねぇ。みんなで遊びに行くの楽しそうだよねぇー」


「ひ、姫がいいって言うなら、わたしも行ってもいいと思うんだけど」


「うーん。お勉強さえちゃんと出来ていれば、行ってもいいかなぁ……」

 

 桜木さくらぎさんは、難しそうな表情で腕組をして、うーんうーんと唸り声をあげて悩んでいるようだった。不意に俺の方に視線を向けてくるような気がしたのが、きっと気のせいに違いない。


「それで行くとして、何処に行くんだよ?」


「そうですわねー。エーゲ海でヨットに乗るというのは如何でしょう?」


「え、エーゲ海……。エーゲ海ってあのエーゲ海か? 日本じゃないところにあるエーゲ海か?」


「あら、あらあらあら、日本にエーゲ海なんてありましたかしら?」


「とすると、それはギリシャの地中海にある、あのエーゲ海なんだよな?」


「そうですわ。それですわ。大正解ですわー!」

 

 パチパチパチパチと、セレスは盛大に拍手をしてくれた。それはまるで馬鹿にされているように思えてならなかった。


「動物園!」


 俺とセレスのやりとりを聞いていたのかいないのか、桜木さんが突如叫び声を上げた。


「わたし、動物園に行きたい!」


 めったに見られぬ桜木さんの突如としての自己主張。

 とは言え、秘密結社FNPの第一回集会は小動物ふれあいセンターだった。動物大好き桜木さんらしい提案だといえよう。


「動物園に行かなくても、ゴリラならすぐに見られますわよ?」


 セレスが、いまだにショックのあまりうずくまっているゴリラ、もとい向日斑を指さしてみせた。向日斑を慰める動物は更に増えており、さながらプチワンニャンランドといった様相を呈していた。

 

「姫が行きたいって言っているんだから、動物園でいいだろ、この金髪ツインテール馬鹿!」


「は、はぁ! 別に駄目だなんて言っておりませんわ! それなのに、早合点してこの空手馬鹿!」


 二人の間にバチバチと音を鳴らして火花が散る。


「ちーちゃん、やめなよー」


「セレス、やめとけって」


 桜木さんの制止を聞いて、冴草契が。俺の制止を聞いて、セレスが。各々動きを止める。

 そして、プイッとお互い背を向けあって。


「姫がそう言うならやめておくよ」


神住かみすみ様が、おっしゃるなら……」


 こうしていると、まるで二組のカップルのように見えるのだが、俺はセレスとはまだ付き合っていないわけで……まだ? 俺今まだって思っちゃった!?


「なら、五人で動物園に行くってことで決まりでいいのかな?」


「そうなりますわね」


「わぁい、動物園楽しみだなー。それまでに、ちゃんと頑張って予習復習しておかないとー」


「姫は無理し過ぎちゃ駄目だからな?」


「はぁい、ちーちゃん! 心配してくれてありがとうね」


「あ、あたりまえじゃない! だって、わたし姫の事好きだし……」


「えへへーっ」


 惚気けるカップルがここにいた。女同士だけれども……。

 こうして、うずくまったままの向日斑の意見を聞かずして、動物園に行くことが決定したのだった。




 ※※※※


 動物園に出かける当日がやってきた。

 天気は運良く日本晴。

 現地集合ということで、動物園前に集まったのは……。短パンにTシャツという普段通りの俺。フワフワとしたワンピースの桜木さん。七分丈のカーゴパンツに半袖シャツの冴草契。どんな場所でも豪華絢爛ドレス姿のセレス。あとゴリラ。そして‥‥え? 


「な、なんで花梨かりんがいるんだ!」


「じゃーん! 来ちゃったぜー」


 花梨は、へそ出しのタンクトップに、ダメージデニムのショートパンツといったラフで身体のラインがくっきりとわかる格好だった。あいも変わらず、中学生とは思えないプロポーションに、今すぐアイドルとしてデビューさせたい愛らしい顔立ちだ。


「今日の話をしたら、一緒にいきたいーって五月蝿いもんだからさ」


 向日斑がすまないと、手を顔の前で合わせて謝る。


「来ちゃったんだぜー!」


 花梨はぴょんと飛び跳ねて、強引に俺の視界に入ってくる。跳ねるたびに、オッパイがポヨンと揺れるのはもはやお約束と言える。


「なんなんですの、この子は! ちょっと距離が近いんじゃありませんかしら!」


 セレスは引きつった表情で、イライラして瞼を少し痙攣させていた。


「えぇー。別にこれくらいかまわないじゃん。近いっていうのは、こういうのを言うんだよ」


「うおっ!」


 花梨は俺の腕を掴むと、そのまま身体を俺に押し付けた。セレスなどと比べ物にならない、柔らかい感触が全身に伝わっては、俺の中の野生のリビドーを呼び覚ましそうになる。


「な、な、何をなさっているんですか! 離れなさい! 神住様も嫌がってますわ!」


「えー? 久遠は嫌じゃないよねぇー?」


「ま、まぁ、嫌か嫌じゃないかで言えば‥…嫌じゃないかも‥‥」

 

 だって、気持ちいいんだもん! 仕方ないじゃないか! 出来ることなら、このやわらかな感触をずっと味わっていたい!


「キィィィィ! 神住様が嫌じゃなくても、わたしが嫌なんですのよ!」


 その刹那、セレスのドレスの中からスラリと伸びた足が顔を見せる。その足はそのまま、高速の蹴りとして、花梨に向けて放たれたのだ。

 高速で向かってくる蹴り足を、花梨は悠々と片手で受け止めた。


「な、なんなんですの!」


 セレスの足は、花梨に掴まれたまま、普通ならばバランスを崩して倒れてしまうところだが、抜群のバランス感覚を誇るセレスは、そのままの状態を保っていた。

 が、それゆえに……俺からセレスのおパンツが丸見えになってしまっているではないか……。


「ぷぷぷっ、くまさんパンツだって。ねぇねぇ久遠、くまさんパンツだよ」


 花梨は挑発するように笑った。

 セレスの顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていく、それと同時に渾身の力が蹴り足に再度篭められる。


「え?」


 花梨の隙をついて、セレスは振り上げた蹴り足を、かかと落としの要領で振り下ろした。その蹴りを澄んでのところで花梨は回避することに成功した。が、掴んでいた俺の腕は離さざるを得なかった。


「ふふん。これで神住様とお離れになりましたわね」


「へー。結構やるじゃん!」


「あなたこそ!」


 あれだろうか、これがあの喧嘩した後に河原で寝転がって友情を確かめ合う的なあれなのだろうか?

 その後、握手でもするのかとおもいきや…‥。

 出たのは友好のための腕ではなく、攻撃のための足だった……。

 こうして、セレスと花梨は動物園前にて、熾烈な戦いを始めたのだった。

 俺はといえば、この戦いを止めることも出来ずに、オロオロとするばかり。向日斑はといえば、自分の妹のことだというのに、我関せずとバナナをほうばっていた。

 この、戦いを止めたのは、意外な人物だった。

 

「もぉー! 何やってるんですか! 動物さんたちが待ってるんですよ! そんなことしてたら、動物さんたちが怖がっちゃいます! 禁止です! 喧嘩禁止!」


 桜木さんの耳をつんざく金切声のような叫び声が、二人の戦いを中断させた。


「そ、そうですわね、こんなところで争うものよろしくありませんわよね」


「う、うわぁびっくりした……」


 動物愛に燃える桜木さんは、何よりも強いということが今証明されたわけだ。


「さぁさぁ、姫! わたしが入場券買っておいたから、興奮してないで、さぁ行こう」


 冴草契が桜木さんを肩を抱くようにして、入場ゲートへと導いていく。

 

 こうして、波瀾万丈な幕開けで、動物園デート? が開始されたのだった。


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