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78 忍者のおち◯ちん!

 俺は忍者の普段着というものを初めて目にした。

 きっと、大慌てでお屋敷を飛び出してきた為に、忍者装束に着替える暇がなかったのだろう。しかも、この疲れようから察するに、忍者は自分の足でここにやってきたに違いないのだ。俺の家から金剛院こんごういん邸までは直線距離で来たとしても軽く十キロ以上はあるだろうに……。

 そのせいか、忍者の身体は全身は汗まみれで、かわいいおみ足には汗がだらだらと流れ出ていた。もし、ここに向日斑むこうぶちが居たならば、喜んでペロペロと舐めたに違いない。

 かくいう俺も、頬を上気させるを前にして、思わず抱きしめていたい衝動に襲われたが、僅かに残った理性がそれを押しとどめてくれた。


「お、おう! 窓から訪問とか、一体どうしたんだ?」


 俺は何故か高鳴っている胸のトキメキを隠すようにして尋ねた。


「どうしただと! それはボクの台詞だ! 作戦が完全に失敗だったって、どういう意味なんだよ!」


 激昂した忍者の口から飛び出したツバが、目の前に居る俺の顔にかかる。なんだろう、ご褒美かな?


「なにをニヤニヤしているんだ! ボクはどういう意味かって聞いてるんだぞ!」

 

 おっと、思わず無意識の内に顔がニヤけてしまっていたようだ。

 俺は慌てて表情を取り繕うと、忍者の問にできるだけ正確に答えてやった。



 ……

 …………

 …………………………


 俺の説明が終わると、忍者がガクッと肩を落として、俺の部屋のベッドの上に座り込んでしまった。


「な、なんだって……。じゃ、ボクが恥ずかしい思いをしてまでやったことは、全部無意味だったっていうのか……」


 絶望に震える忍者に、俺はすまなそうにコクリと頷いた。


「むしろ、逆効果であのゴリラをさらに発情させたっていうのか……」


 今にもベッドに崩れ落ちてしまいそうな忍者に、俺は本当にすまなそうにコクリと頷いた。


「ウ、ウワァァァぁぁ!」


 忍者は発狂した。

 忍者はベッドの上に立ち上がると、懐から無数の手裏剣を取り出しては、まるで出鱈目に投げつけ出したのだ。そのあらぶる手裏剣達は、俺の部屋のあちらこちらに突き刺さる。運良く俺の身体に一つも突き刺さっていないのは、忍者の理性が少なからず残っているからなのか、はたまた偶然なのか、それとも最後にとっておかれているだけなのか……。

 俺は一秒ごとに無残な姿に変化していく自分の部屋を、身動き一つ出来ずに見守ることしか出来なかった。


「ハァハァハァ……」


 忍者の狂喜乱舞が終了した時、俺の部屋には百近い手裏剣が刺さっていた。もし俺が手裏剣マニアであるならば『わぁい、手裏剣がいっぱいだー』と大喜びしたかもしれないが、残念ながらそんな趣味はなかった。


「お、落ち着いたか?」


 俺はベッドの上で四つん這いになって、固まってしまっている忍者に声をかけた。


「どうして、あの糞ゴリラは、ボクが上半身裸になったというのに、男だということに気が付かないんだ……」


 忍者は俺のベッドを容赦なく殴りつけた。ベッドは大きく振動しては、その上にいる忍者の身体も揺さぶった。


「いやまぁ、それはあいつの性的指向と言いますか……。忍者があまりにも可愛すぎるといいますか……」


「か、かわいいだと! ボ、ボクは男だぞ! 男のボクがかわいいわけなど無いだろ!」


 頬を赤く染めて、Tシャツの裾をギュッと握りしめる忍者がかわいくないはずがない! もしこれを可愛く無いという人が居たならば、此処に連れてきなさい、説教してやる!

 しかしどうやら、当の本人である忍者は、自分が世間一般的にかわいいと呼ばれる存在であることを、知らないまま今まで育ったようだ。知らぬが仏? いや、これはちょっと意味が違うか……。


「ふふふ、こうなったら……もうアレをやるしかない……」


 忍者は狂気を孕んだ笑みを浮かべた。


「アレ?」


 笑みを終えた忍者の顔から、まるで亡者のように血色が消えていくのがわかった。

 そして、幽霊が喋るような口調でこういったのだ……。


「おちん◯んを出せばいいんだろ……。そうすればボクが男だってわかってもらえるんだろ……」


 忍者の衝撃的な発言! 忍者の口から、まさか『お◯んちん』の言葉が聞けるとは……。くそぅ、録音できなかったことが悔やまれてならない……。

 と、そんな事を考えている場合ではない。

 なんと、忍者はおもむろに短パンに手をかけると、ずり下ろしはじめたではないか……。


「こうすればいいんだろぉォォォォ!」


 忍者の短パンの下に履かれていたトランクスが姿を現す。それでも、忍者の手は止まりはしない……。さらに、そのトランクスに手を掛けたではないかァァァァァっ!

 

「ハッ!?」


 この時、俺は超高速で脳内会議を行っていた。


『いいのか? このままでいのか?』

『いいに決まってるだろ! 忍者のおちん◯んが見れるんだぞ!』

『っておい、そんな趣味ないだろ?』

『趣味があるとかないとかじゃないんだよ! そこにおちん◯んがあるかどうかなんだよ!』

『いやいや、誰か止めようっていようよ!』

『お前は女の子が好きなはずだよな?』

『オッパイが好きだよな?』

『それでも……忍者のおちん◯んがみたいです……』

『待て、良く考えるんだ。もし、このまま忍者が脱いだとしよう。その後お前はどうする?』

『……』

『……』

『ヤバい! それはやばい!』

『一線を越えてしまったら、完全に戻れなくなってしまう……」

「だとするならば……』

『ここはひとまず止めるべき!』


 この間、約◯、◯二秒。

 結論が出た俺は、光の速度でトランクスを下げようとしている忍者の腕を掴んだ!

 そして勢い余って、忍者と一緒にベッドの上に倒れこんでしまう。

 俺は忍者の上に馬乗りになってしまう。

 俺の下には、涙で瞳を潤ませた、Tシャツにトランクス姿の忍者。少し大きめのTシャツが、下半身を隠しているために、なんだかエッチな雰囲気を作り出している。

 心臓の鼓動が、限界を超えたリズムでビートを刻みだす。きっと、この鼓動は忍者の耳にも聞こえていることだろう。

 

 ――まさか、このまま禁断の果実を……。


 そんなことを考える間もなく、忍者が俺の腹に強烈な蹴りを食らわせたのだった。

 

『ですよねー』


 俺は大きく吹き飛ばされて、ドスンと大きな音を立てて床の上に転がり込んだ。

 母親はお風呂にでも入っているのか、運良くこの騒ぎには気がついてくれていないようだ。もし、この場に母親が現れたならば、どれはどう言い訳して良いのかとんと検討がつかない。

 

「ボ、ボクは一体何をしていたんだ……」


 忍者はどうやら正気を取り戻したらしい。

 短パンを履き直すと、俺の鋭い目つきで睨みつける。


「今日のことは、秘密だ! お嬢様にも誰にも言うんじゃないぞ!」


「わ、わかった」


 忍者に言われるまでもなく、こんな事を誰に言えるものか! 俺は変態でーっす! と告白するようなものではないか……。


「部屋をボロボロにしてすまなかった……」


 忍者は文字通りボロボロに成ってしまった部屋を見て頭を下げた。


「気にすんなって。向日斑のことは、元を正せば全部俺が原因なわけだし」


 そうなのだ。俺が居なければ、ゴスロリ衣装を着て、ゴリラに襲われることもなければ、忍者衣装すら着ることもなかっただろう。まさに、俺が忍者の人生を大きく変えてしまったといえるだろう。


「そ、そうだぞ! 全部お前が悪いんだぞ! バーカ、バーカ!」


 忍者は子供のように俺を罵倒する。

 そんな忍者を、俺はまたしてもかわいいと思ってしまう。


「へ、部屋がこうなったのも自業自得なんだからな!」


「わかった、わかったから」


「わかればいいんだ! じゃ、ボクはもう帰る! お嬢様に無断で出てきてしまったからな……」


「またな」

 

 俺は手を振ったが、忍者はそれを無視すると。


「ふん!」


 鼻であしらって、部屋の窓から飛び出していったのだった。

 そして、俺はといえば……。


「さて、この部屋どうしよう……」


 と、穴だらけの部屋の壁を見て、途方に暮れるのだった。

 

「お任せください、神住様」


 何処からともなく聞き覚えのある渋い声が聞こえる。

 その声に、俺が振り返ると……。

 そこには、老紳士ブラッドさんが立っているではないか!


「え? えぇぇ?」


「この部屋の修繕は、わたくしにおまかせ下さいませ」


「は、はぁ……」


 俺が状況を理解できずに棒立ちで固まっているその間に、ブラッドさんは、まるで分身をしているかのように残像を残しつつ、超高速で部屋の修繕を続ける。

 そして、約十五秒後。

 俺の部屋は、完全に元通りに戻っていたのだった。


「いやぁ、神住様のお陰で、またしても良いシーンが撮れました。うんうん、今日も徹夜で編集でございますよ」


 ブラッドさんは満足気にカイゼル髭を撫でていた。

 

「それでは、わたくしめはここで失礼させていただきます」


 忍者とは違い、ブラッドさんは窓から飛び出して行ったりはしなかった。何故ならば、この空間から何処ともわからない場所へと消え去っていったのだから……。

 俺はベッドに倒れると、シーツの匂いを嗅いだ。

 心なしか、汗と甘い香りが残っているように思えた。

 俺はしばしの間、シーツに顔を押し付けて恍惚とした時間を過ごしたのだった。


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