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54 心の葛藤、変化する自分。


「ボクは何も了承なんてしてないんだからな! ボクはボクはァァ!」


 そんな忍者の叫び声を残しつつ、ファミレスでの秘密結社FNPの会議は終了した。


「ねぇねぇ、あのゴスロリ美少女は何を騒いでんの?」


 と、花梨かりんから、疑惑の目を向けられはしたが、


「さぁな、ボクっ子の考えることはさっぱりだから……」


「なるほど、花梨もボクっ子の友達は居ないからなぁ……。色いろあるんだね、ボクっ子って」


 何故か花梨は納得してくれたのだった。

 世の中のボクっ子の皆さんごめんなさい。



 ※※※※


 俺は家に帰り、いつもの様に部屋のベッドの上に寝転がる。

 そして、今回の作戦の落とし所に頭を悩ませた。

 主に、忍者にかける多大な迷惑についてだ……。

 もしも、もしもだ。忍者が向日斑むこうぶちの事を、本当に好きなってくれれば、何の問題もないのだが、多分それは色々と無理があるだろう。主に性別的な問題で……。いや、ヘタすると性別以前に種族的な問題すら発生するかもしれない。だって、あいつゴリラだから……。

 

『ボク、このゴリラと結婚します! 幸せになります!』


『ウホウホー!』


 二人は幸せなキスをして、結ばれましたとさ。めでたし、めでたし……。

 

「ありえねぇ!」


 俺は枕を天井におもいっきり投げつけた。

 うむ、忍者は恐ろしい事態に襲われる前に、逃げてもらおう。忍者のあの神速を持ってすれば。向日斑相手でも逃げ切ることが出来るだろう。もし、逃げ切ることが出来なかった場合は……。


「薄い本が出るな……」


 ゴリラ攻め、ゴスロリボクっ子忍者受けか……。

 カップリングとしては逆のほうが萌えるかもしれない……。

 

「と、兎に角、もう今さらやめるなんて言えない。いや……言わない!」


 花梨に言われた言葉が、大きなくさびとなって、俺の胸の奥深くにまで刺さってしまっている。

 悩むだけ、考えるだけ、そんな自分をやめてジャンプしてみる。助走なんていらない、練習なんていらない。ぶっつけ本番でやってみる。そして、出た結果を目を背けずに受け止める。それが俺のやるべきことだ。

 間違っているかどうかは、今は置いておくことにしよう。

 



 ※※※※※


 そして、次の日を迎えたのだ。


 普段と何ら変わらない教室の風景だとうのに、俺にはまるでラスボスの待ち構えているダンジョンのよう見えていた。

 それは、緊張感によるものだということはわかっていた。実際、今の俺の手は。美少女に握手を求められても手を出せないくらいに、汗で滲んでぐっしょりしている。(男子校に美少女が居るわけ無いけどな)

 当然、向日斑は俺の異変にすぐさま気がついた。

 

「どうした? なんかあったのか?」


『あったあった、ありまくった。主にお前関連のことでな』


 なんて事を言えるはずもなく、俺は適当な言葉でお茶を濁しては、質問を回避した。


「そうか、ならいいんだ。おっと、授業始まるぞ」


 どうやら、妹とは違い、このゴリラは俺の心奥を見透かしてきたりはしてくれないようで、幾らかホッとした。

 授業は進む、時間は進む、作戦決行の放課後に向かって行く……。

 細かい打ち合わせは、事前にメールで知らせておいた。

 後は、時間になったら決行するのみなのだ。

 だが、今ここに至っても、俺の心は迷っている。だれでも抜けることが出来るような単純な迷路で、出口がわからないで迷い続けている。

 俺の決めたことで、結果が出る。それも、他人を大勢巻き込んでの結果だ。

 今までは、俺のミスは俺だけに伸し掛かるものだった。けれど、今はそうではない。

 責任という重圧に、押し潰されそうになるのを必至に耐えている状態だ。

 

『辛いか?』


 俺の中の俺が問いかける。


「ああ」


『辞めたいか?』


「そうだな……」


『じゃ、今からでもやめていいんだぜ? どうせ、もともと一人だったんだ、一人に戻っても元の鞘に収まるだけさ』


「……俺はさ、それを嫌だと思い始めてんだ。偽りかもしれない、俺の思い込みかもしれない。それでも、初めて出来た仲間というものを、失いたくないと俺は思いだしてきている……。その為に何かができるんじゃないかと思い始めている……」


『ちぇっ、なんだよ。それじゃあ、考えるまでもなく結論は決まってるんじゃないかよ』


「そうだな……。そうだったんだよな」


 心のなかでの自問自答が終わる。

 きっと、これも俺の都合のいいように改ざんされたものであるのはわかっている。それもでもいい、それでいい。

 そんな偽りでも、俺の心を満たしてくれるならば、それでいいと思えるように、俺は変わってしまったのだ。

 


 ※※※※



 放課後はあっという間にやってきた。

 

 準備は万端。

 

「それじゃ、俺は今日も部活行くからさ」


 いつもの様に、帰り支度を済ませた向日斑は部活へと向かおうとする。

 

「ちょっと待ってくれ!」


「ん、なんだ?」


「お前に会いたいって言ってる人がいるんだ……」


 俺の心臓が猛スピード鼓動を奏で始める。ふと俺の瞳に涙が溜まりだしてきているのを察知した。俺は強烈なプレッシャーに押されて少し泣きそうになってしまっているのだ。俺は、落ちてきそうになる涙を抑えこむのに、瞳に必至に力を込めて踏ん張った。


「はぁ? 俺に会いたい人が居るのか?」


 どうやら、向日斑は俺の言葉のほうに気を取られていて、俺の表情の変化には気がついていないようだった。この数秒の間に、俺は自分の表情を必至で取り繕う。出来れば、今鏡で俺の表情をチェックしたいところだが、そんな時間はありはしない。


「じ、時間は取らせないからさ、校門の前に行ってやってくれないか?」


「ま、まぁ、少しくらいなら時間はあるけどさ」


 向日斑は少し疑わしそうな視線を俺に向けたが、すぐさま普段の向日斑へと戻った。

 

「ありがとな」


「いや、別にそんなこと気にしなくていいさ。ってか、バナナ食うか?」


 向日斑は、バックの中からバナナを一房取り出した。よく見ると、バックの中には後二房ほどバナナが入っているようだ。これって、バナナ専用バック何じゃなかろうか……。


「いや、遠慮しとくわ」


「そうか? 美味いのにな……」

 

 向日斑が残念そうに取り出したバナナをバックにしまう。

 今の俺は何一つ食い物が喉を通りそうにないのだ。バナナなんて食べた日には、確実に喉につまらせてしまうことだろう。



 ※※※※


「んで、校門前に来たわけだが……。お前の言う、俺に会いたい人ってのは何処に居るんだ?」


「あ、ちょ、ちょっとまってくれよ!」


 俺は慌てふためく。

 おかしい、校門の前に既にスタンバっているはずなのに、その姿が見えない。一体全体どういうわけなのか?

 もしや、ギリギリになって忍者が逃げ出してしまったのか?

 いや、もしそうならば連絡が来てもおかしくないはずだ……。って、俺はメールをするとアレがアレでアレな感じになる人って設定にしていたんだった……。ってことは、計画に問題が発生しても、セレスからは連絡が来ないということに……。

 なんてこった、俺のでっち上げた馬鹿な設定のために、こんな事になろうとは……。

 俺が頭を抱えて唸り声を上げているのを、向日斑は不思議そうに見ていたが、突然ある場所を指さして声を上げた。


「おいおい、なんかあそこに人集りができてるぞ? なんかあるのか?」


「え?」


 俺は向日斑の指さした方向を見てみる。

 確かに、校門から少し離れた場所に大勢の生徒が集まっていた。その数は五十人はいるだろうか? まるで、有名芸能人がお忍びでやってきたかのような有り様だった。

 

「もしかして……」


 俺はその人だかりを強引にかき分けては、中心地点へと向かう。

 俺の予想は当たっていた。

 その黒山の人だかりの中心点には……。

 昨日よりも、豪華絢爛なゴスロリ衣装を身にまとった忍者が居たのだ。

 

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