51 女性の価値はオッパイで決まる?!
花梨は、ヒョイッと身軽に自転車から飛び降りると、自転車を駐輪所に駐車した。
そして、まるでスキップでもしているかのような軽やかな足取りて、すぐさま俺の隣へとやってきた。異様に距離感が近いような気がしたが、別段悪い気はしないので、あえて無視することにした。
急いで自転車を漕いできたせいだろうか、ほんのり湧き出る汗の匂いと、花梨自身の匂いが交じり合って、なんとも言えない、まろやかな風味? が俺の鼻腔をくすぐっては鼻の下を数センチ伸ばさせた。
「んでんで、何の御用なのかなー? まぁ、きっとお兄ちゃん関係だってことはわかるけどー」
「その通りなんだけどな。ちょっと聞きたいことがあって……」
そこまで言いかけてた所で、俺と花梨を引き裂くようにして、セレスが強引に割り込んできた。
「あら、あら、あらあらあらあらあららー。こちらのお嬢さんは、神住様と、どのようなご関係なのでしょうか。先ほどから、距離が近いように感じられますけれども……」
セレスは。花梨の容姿を上から下まで値踏みするように見ては、あからさまに嫌悪感丸出しな言葉をぶつけた。
しかし花梨は、そのセレス言葉に『ふふ〜ん』と、何かを察したかのような笑みを浮かべると、ピョンとうさぎのようにジャンプを一つして、俺との距離を更に縮めてみせた。
そして、挑発するような言葉をセレスに向けてぶつけたのだ。
「ねー、久遠ー。このいかにもツンデレお嬢様っていうテンプレートキャラの人は誰なの?」
「だ、誰がテンプレお嬢様よ!」
セレスはまるで瞬間湯沸器のように、あっという間に顔面から蒸気を吹き出させた。
花梨は、その様子をまるで面白い漫画を見ているようにして楽しんでいた。そして、さらに挑発するように言葉を続けた。
「だって、あれでしょ、なんかすぐチョロい感じで落とされちゃうキャラなんでしょ?」
「あ、あらあらあら、このわたくしがチョロいですって? 心外ですわ! 侮辱ですわ! 屈辱ですわ! 大激怒ですわ!」
怒りの炎で大惨事なセレスだったが、パンツ見られただけで婚約を迫るような奴がチョロく無いわけがなかった。
「そ、それにですわね。わ、わたくしは……神住様に……おパンツを見られれいるんですのよ! そんな深い関係なんですのよ! ふふん、どうかしら?」
「なんなのこの人……。パンツ見られたことを自慢しだしたよ……。ねぇ、久遠、この人頭大丈夫なの?」
花梨は俺にこっそりと耳打ちしたが、その声のボリュームではセレスに丸聞こえだった。いや、わざと聞こえるようにやっているようだ。
「うん、頭が大丈夫かどうかと聞かれたら……。コメントに困るところだな」
俺はついつい正直に答えてしまう。
「神住さまー、酷いですわ! わたくしのおパンツを見ておきながらその言い草……。外道ですわ、非道ですわ、国道ですわ! 関越自動車道ですわ!」
どうやら、セレスは『道』と言う言葉が付いていれば何でも良いようだった。流石アホっ子の称号を俺が贈っただけのことはある。
しかし、このアホなところが、セレスのチャームポイントの一つであると俺は思うのだが、そんなことを言ってもきっと喜んではくれないだろう。
「へへーん、それにね、おパンツ見られたくらいじゃ大したこと無いよ? 花梨なんて、オッパイ揉まれたんだからね!」
花梨は、その豊満な胸をことさら押し出すようなポーズをとっては、自慢気に言ってのけた。
「は?」
「ふぇ?」
「なんですのー!」
この言葉には、セレスのみならず、この会話に全く参加せずにつまらなそうにしていた冴草契と、ワゴン車の中から漏れる忍者の言葉に耳をダンボにして聞き入っていた桜木姫華も、何故か食いついてきた。
「ね? 久遠。そうだよねー?」
「……」
俺は返答に困った。困ってしまってニャンニャンニャニャーンだった。
今や、俺には三人の女性の強烈な視線が注がれてしまっている。おいおい、そんなに見つめられたら答えられないぜ……。ってか、逃げたい……。
しかし、セレスはともかく、どうして冴草契と桜木さんが食いついてきているのかさっぱりわからない。あいつら、俺が誰のオッパイを揉もうが関係ないだろ? いや、女子中学生のオッパイを、どさくさに紛れて揉んだ男というのは、それだけ問題なのか? そうなのか? 裁判なのか? 有罪なのか? 死刑なのか? なら仕方がない。
「そこのテンプレお嬢様は、揉んでもらおうにも、そのオッパイじゃねぇ……。ぷぷぷっ」
花梨の視線は、なだらかな平原を思わせるセレスの胸に注がれていた。
セレスはその視線に気がついて、即座に腕で胸を隠す。簡単に隠れてしまうサイズなのが、悲しいところだった。花梨ならば、隠しきれずに溢れ出るような感じになったに違いな。
その横で、何故か冴草契と桜木さんも胸のあたりを気にしては、少し悲しそうな顔をしていた。
「お、オッパイの大きさが、全てだと思わないでくださいまし! 女の価値というものはオッパイの大小で決まるものではございませんのよ! ねぇ神住様?」
「……」
その問に、俺は答えられなかった。全世界の女性を敵に回しても、答えることが出来なかった。なぜなら、俺はオッパイ大好き人間だから……。大っきいオッパイ大好き人間だから……。
「何故! 何故黙っていらっしゃるの! お答えになってくださいまし!」
「神住……。お前はそんな奴だったのか……。見損なったぞ!」
「神住さん……。そういう考えは良くないと思うんです! 色んな大きさがあって良いと思うんですよ!」
ちなみに、ここにいるよ人の女子のオッパイのサイズを比較してみると……。
花梨>>>>>>桜木さん>冴草契=セレス
といったところだ。
つまりは、ここに居る女性四人のうち、三人を敵に回してしまうのは必然なのだった。
そんな俺達のやり取りを、老紳士はカイゼル髭を撫でながら微笑ましく見守っては、ウンウンと頷いていた。
「いやはや、青春ですなぁー。わたくしも四十歳若かったら……。おっと、そんな話はさておき、そろそろシュラウドのお召し替えが終わるころですよ?」
そう言っては、ワゴン車の方を指さした。
その言葉に、俺に詰め寄っていた女性三人は、ワゴン車に注意を向ける。
「災難でございましたね」
老紳士が、こちらを向いてウインクしてみせる。
どうやら、俺の状況を察して助け舟を出してくれたらしい。
いやはや、この老紳士の助け舟がなかったら、俺は貧乳トリオに査問会を開かれては、懲罰を受けるハメになるところだった。
「ありがとうございます」
俺は少し緊張して、ぎこちなく頭を下げた。
「そんなことより、シュラウドを見に来ませんか? きっと見ものでございますよ」
老紳士は不敵な笑みを浮かべた。どうやら、この老紳士も、忍者の女装姿に興味津々のようだ。
「ねぇねぇ? ワゴン車ってなんなの? 花梨、実は今の状況さっぱりわかってないんだけど……」
「安心しろ! 実は俺もあまり状況を理解できてないから!」
「それって、安心できないんじゃん!」
的確な花梨のツッコミが飛んでくる。
「気にするな! そんな事より、ワゴン車のところに行くぞ」
俺の心は高鳴っていた。あの忍者が女物の衣装を身につけて登場するのだ。期待しないわけがない。
「わ、わかったよ、行けばいいんでしょー。もー」
俺と花梨は、急ぎ足でワゴン車に前に向かったのだった。
ワゴン車の前に勢揃いした六人は、固唾を呑んでワゴン車のドアが開くのを待ったのだった。




