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47 新メンバー加入! 忍者の悲しき定!


「なんなのこの状態……」


「まぁまぁちーちゃん。仲良く、仲良くだよ」


 冴草契さえぐさちぎりは、目の前に座って、物珍しそうにキョロキョロしている金剛院こんごういんセレスの姿を、苦虫を苦々しい顔つきで見つめていた。


七桜璃なおり、わたくしファミリーレストランというのは初めてですわ。こんな狭い席に並んで座らないといけないんですのね」


「わたくしのようなものが、お隣に座る失礼をお許し下さい。このような男を、セレス様の隣に座らせるわけにはいけませんので……」


 このような男とは、間違いなく俺のことだった。実際、俺は今脇腹にクナイを突きつけられた状態だ。流石忍者、甘さがない。


 つまり、現在のポジションは、冴草契、桜木さくらぎさんが隣り合うように座り、その向かいに、今後員セレス、忍者、俺、と言った具合になっている。

 この謎めいたメンバー、冴草契でなくても、なんだこの状態と言いたくなる気持ちは十分にわかる。

 

「まぁ、それでだな、今日の話なんだけどな……」


 このままでは埒が明きそうにないので、俺は強引に話を切り出した。


「いいの? 変なのがいるのに話を始めても」


 冴草契は、あからさまに金剛院セレスを邪魔者だと視線で訴える。

 しかし、金剛院セレスはその視線のビームを優雅に回避して、さらにカウンター攻撃をぶつける。


「変なの? あらあら、そのような人、何処にいるのかしら? ああ、ご自分のことを変だと自覚していらっしゃるのね、それは素晴らしい心がけだと思いますわよ。おーほほほほ」


「殴りたい……」


「ちーちゃん、平常心平常心だよ!」


 怒りで拳をプルプルと震わせる冴草契を、どうどうどうーとまるで暴れ馬を扱うようにして、桜木さんはおとなしくさせていた。

 もしこの場に、桜木さんが居なければ、第二次ファミレス格闘戦が勃発していたことだろう。


「ほらほら、神住かみすみ様、お話しをお続けになってくださいな」


 誰のせいで話が中断しているんだ! とツッコミを入れたかったが、ツッコミを入れると、俺の脇腹に忍者による血しぶきが飛び出るタイプのツッコミが行われるであろうことが安易に想像がつくのでやめておいた。

 

「コホン、それじゃ、話をしたいと思う。……いきなりだが、みんなの力を貸してほしんだ」


 俺はファミレスのテーブルに頭を擦り付ける。これが地べたであるならば、土下座をしていたところだろう。

 俺の行動に、周りの皆はあっけにとられているだろうか。俺は顔面をテーブルにつけているために、その様子を見れないでいる。もし見れたとしても、恥ずかしくて目を閉じてしまうかもしれない。人に頼み事をするなんてのは、俺の人生の中で初めての事なのだ。(家族を除く)

 

「か、神住さん、頭を上げてよ。そんなことしないでいいよ。だって、私たちは秘密結社FNPの仲間だよ!」


 桜木さんの言葉に、俺はゆっくりと顔をあげる。次第に周りの様子が俺の視界に飛び込んでくる。

 そこには、唖然とした冴草契、心配そうにしている桜木さん、頭の上にクエスチョンマークをつけている金剛院セレス、俺の脇腹にクナイを突き付けたまま表情一つ変えていない忍者の姿があった。

 俺はテーブルに両手をついた状態で、背筋をピンと伸ばして、真剣な表情でみなを見つめた。

 暫くの沈黙の間ができる。

 それを破ったのは……

 

「秘密結社FNPってなんですの?」


 金剛院セレスの一言だった。


「え? そっちなの? ねぇ、アンタそっちなの!? 今の流れで気にするところはそっちなの?」

 

 金剛院セレスが一番気にとめていたのは、俺の懇願などではなく、桜木さんが口から漏らした秘密結社FNPと言うワードだったのだ。

 忍者のせいでツッコミが出来ない俺に変わり、冴草契がツッコミの役目を見事に果たしていた。

 そのツッコミを横目に、すっくと立ち上がっては、コホンと咳払いを一つして、語り始める人が一人……。


「えっとですね、秘密結社FNPというのは、わたしと、ちーちゃんと、神住さんで作った、部活みたいなものなんですよ。ふろんてぃあにゅーぱわー。略してFNPなんです。秘密結社っていうのは、なんか秘密だとカッコイイじゃないですか? 結社は……よくわかんないです、えへへへ」


 桜木さんだった。

 桜木さんは、秘密結社FNPのことを、家で飼っているペットを自慢するかのように、嬉しそうに語ってみせた。


「……ずるいですわ」


 金剛院セレスは顔を伏せて、しかめっ面でテーブルにつぶやきをぶつけた。


「ずるいですわ、ずるいですわ、ずるいですわ。わたくしに内緒で、秘密で、そんなものを作るなんて、ずるいですわ!!」


 金剛院セレスは、テーブルをお行儀悪くバンバンと豪快に叩き鳴らした。その音は、ファミレス中に響き渡った。


「お、お嬢様?!」


 金剛院セレスの突然の行動に、忍者は慌てふためいては、俺の脇場に突きつけていたクナイを地面に落としてしまう。

 なるほど、冷酷非道な忍者も、主君の事になると動揺するというわけなのか、忍者は奥が深い……。 


「わ、た、く、し、も! その秘密何とかに入りたいですわ!」


 金剛院セレスのあまりの迫力に、桜木はたじたじになって、及び腰になってしまい、助けを求めるように、俺と冴草契に視線を飛ばす。けれど、どう助ければいいのかがわからない。何故ならば、命名したこの俺自身が、この秘密結社FNPがどういう組織なのか把握していないからだ。だって、勢いでやっちまったんだもん! 家に帰って恥ずかしくなって悶えたんだもん! 

 助け舟が一艘いっそうも現れない桜木さんは、金剛院レセスに詰め寄られ続ける。金剛院セレスの金髪ツインテールがまるで攻撃をするかのように、真上に釣り上がっては威嚇行動を繰り返していた。

 こいつの本体は、この金髪ツインテールなんじゃなかろうか……。


「え、えっと、あの、その……。でも、この組織、秘密組織は、と、特殊な能力を持っていないと入れなくて……」


 桜木さんは、半分泣きそうになりながら、ファミレスのソファーにぴったり張り付くくらい身体をそらして、金剛院セレスから距離を取ろうとしていた。逃げ出さないだけ勇気あると言えた。俺ならば既に逃げているかもしれない。

 ってか、そんな決まりありましたっけ? 作った本人そんなの知りませんよ。いつから、そんなXーM◯Nみたいな組織になったんですか……。


「あらあら、それならば、あなたも特殊な力とやらを持っているんですの?」


「え? え? わ、わたしですか? わ、わたしは……」


ひめ、そいつなんてもう相手しなくていいから、ほっときなよ」


 やっとのことで、冴草契と言う助け舟が一艘現れた。


「まぁ、あなたはあれでしょ。岩をも砕く馬鹿力とかが、特殊能力なんでしょ? それくらいはわかりますわ」


「誰が馬鹿力だ!」


 が、助け舟は泥船だった……。


「けれど、あなたはどこからどうみても、普通の女の子にしか見えませんわ。まぁ少し可愛らしくはありますけれど、特殊能力というには程遠いですわよ」


 その言葉に、冴草契がこめかみに血管を浮き上がらせる。背後に燃え上がる炎のようなオーラが見えた気がした。


「な、なんだと! お前は何もわかってない! 姫の可愛さは特殊能力を超越したレベルなんだぞ! 超超超超可愛いだろ! 可愛いって言葉は姫のためにあるような言葉なんだからね!」


「ち、ちーちゃん、恥ずかしいからもうやめて……」


 桜木さんは、冴草契の制服の裾を必至で引っ張って止めようとしていた。

 よく見ると、桜木さんは金剛院セレスに責めれていた時よりも、顔を真赤にさせて泣きそうになっている。

本人は意識していないだろうが、冴草契の可愛い連呼はいじめレベルと呼んでいいだろう。

 金剛院セレスと冴草契の舌戦は苛烈を極めて続けられていく。それを横で必至で耐えていた桜木さんは、大きく息を吸い込むと、決意を決めた表情で、二人の会話に割って入った。


「わ、わたしの、特殊能力は……電波テレパシー……なんです!」


 桜木産の声は尻すぼみで、電波テレパシーの部分は、もはや喉から空気が出る音しか聞こえていないレベルだった。

 けれど、金剛院セレスは地獄耳なのか、金髪ツインテールが聴力を秘めているのか? それをきっちり聞き取っていた。


「あら? 電波テレパシーと言いましたの?」


「あ、はい……。でも、あの、その……。か、神住さんだけにしか届かないんですけど……。え、えへへ」


 こっちを見て気弱そうに笑われても、俺はどうして良いのかわからない。だって、その能力……無いんだもの。嘘なんだもの。


「なるほど……」


 金剛院セレスは暫くの間考え込んで、答えを出したようだった。


「ならば、わたしもこの秘密何とかに入る資格は十分にありますわ。だって、わたくしも愛の電波テレパシーを、神住さんと交わしていますもの!」


 どこぞの宝塚のヒロインかよ! と、ツッコミを入れたくなるようなポーズを取りながら、この女はとんでも無いことを言いやがった。


「え? え? そうなんですか、神住さん?」


「はぁ? そんなことあるわけ……。交わしてます。それはもう交わしています」


 俺の言動が途中から急変したのは、俺の脇腹がチクチクと痛み出したタイミングと同調していた。

 俺が横にいる忍者を見ると、とても嬉しそうにしていた。が、目はまるで笑ってはいなかった……。


「と言う訳で、わたくしもこの秘密なんとかにはいらせてもらいますわ。神住様、いいですわよね?」


「はい! 喜んで!」


 その返事以外の選択肢はなかった。何故ならば、俺の横の忍者がそれ以外を選ばせてくれないからだ。


「あと、七桜璃も一緒に入りますわよ」


「え? お、お嬢様、今何を……」


「だから、七桜璃も一緒に秘密何とかには入りますの。七桜璃は忍者という特殊能力を持っているのだから、問題ありませんわよね〜」


「お、お嬢様、わ、わたくしは忍者では……」


 と、忍者が言いかけたところで、金剛院セレスは口元に指を一本立てては、一見優しそうに微笑んだ。が、金髪インテールが『わかってますわよね?』と口よりも雄弁に語っているように見えた。

 それを見た忍者は、感情を全て殺したような能面の雹所になる。

 そして……。


「はい、わたくしは忍者です……。秘密結社にはいらさせていただきます……」


 きっと、この忍者の心の中は涙にあふれていることだろう。

 ああ、悲しき忍者よ、どのような命令でも主君の言いつけは守らなければならないのだ。ああ、そんな忍者もカッコイイ!

 こうして、何がなんだか分からない内に、秘密結社FNPは新メンバーを二人加えることになってしまったのだ。

  


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