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36 愛の電波(テレパシー)は無敵ですわ。


「うおっ! 俺はいつの間に瞬間移動を身につけてしまったんだ!?」


 我が家の玄関の前に俺は立っていたが、ここまでも道のりは何一つとして思い出せないでいた。

 今一番わかることは、腹部に異様な痛みを感じているということだ。


「まさか、身体の一部を犠牲にして瞬間移動をする能力なのか……。へへへ、対価を求める計の能力ってなんかカッケエよな……」


 自己犠牲で他者を助ける。これってば、主人公の基本だよな。とか、思ってみたが、実は俺はどうしてこうなっているか、わかっているのだ。

 あれだろ、どうせ俺はまた冴草契さえぐさちぎりにぶっ飛ばされたんだろ? 流石に、そろそろ学習するわ。


 俺は家に入ると、すぐさまリビングのソファーに横になった。

 鉛のように重い身体が、ソファーに沈み込んでいく。重力から解き放たれた感覚がとても気持ち良い。

 疲れた、疲れ果てた……、

 あまりにも色々ありすぎた一日だった。

 このゴールデンウィークは、とんでもないハードスケジュールをこなしたような気がする。


「ふふふ」


 思わず笑みが漏れた。

 だってさ、ほんの数週間前には、こんなことになるなんて誰が想像した? 神様だって驚愕して『オーマイゴッド』なんて言っちまうぜ。


「しかし、一番驚かされたのは……。アイツが黒レースの大人おパンツを履いていたことだな……」

 

 普通ならば、驚くべきところは、冴草契が桜木姫華さくらぎひめかを愛してしまっているというところなのだろうが、視覚的に強烈な印象を受けたのだから仕方ない。

 今度から空手バカ一代女ではなく、大人黒レースおパンツ女と呼んでやるべきだろうか……。勿論、心の中でだが……。

 

 さて、明日からはまた学校生活が始まる。

 そして、俺には考えなければならないことが多数ある。

 まずは、花梨かりんからの依頼の件だ。次は、冴草契からの同盟の件。そして、金剛院こんごういんセレスからの求婚の件……。

 まぁ、求婚云々はきっとあの場での気の迷いに違いないから考えないでいいとしても、それでも問題は山盛りだ。

 何が問題かって、どちらも人間関係に係る問題だってことだ。自慢じゃないが、人間関係とか超わからない! 人間関係を熟知している奴が、十六歳までボッチやってるわけがない。しかし、発想を転換してみれば、ボッチだったからこそ知り得る解決方法ってのがあるのかもしれない。


「まぁ、冴草契の件は置いておくとして……。向日斑むこうぶちの方は明日から取り掛からないとかなぁ……」


 遠回しに向日斑から本心を聞き出すことから始めるとしようか……。


「ああ、メンドクセ……」


 おっと、思わず本心が口から漏れた。

 きっと、この性格が友達つくりに向いていないに違いない。

 誰かと一緒にいて合わせることよりも、一人で気を使うことなく好き勝手している方が、面倒くさくなくて楽なのだ。これはきっと誰でも思うことだろうに、なぜに人は触れ合いを求めるのだろうか? 寂しいからか? 今の時代インターネットがあれば触れ合わなくてもそこそこ寂しさは紛れるぜ?


「触れ合わないと、オッパイの感触は味わえないけどな……」


 残念ながら今のインターネットでは、オッパイの感触を再現してくれはしないのだ。だからか? だからなのか? 俺が花梨のからの依頼を受けた理由はそれなのか! それならば納得がいく。


「オッパイの為ならちょっとは頑張れるかな」


 この理論で行けば、冴草契の方は、おパンツのために頑張れるということになるな。

 我ながら、最低な理由付けだなと思う。

 だが、俺は男子高校生だ。女子との触れ合いがネトゲのレアアイテムゲットばりに低確率な男子高校生だ。

 そうさ、女子のおパンツ視聴は、超レアアイテムと同価値なのだ。

 俺は今日見たものを、忘れてしまわないように、記憶の中で何度もプレイバックさせた。ああ、人の記憶とは何故に薄れて色あせてしまうのか。今ほど憂いたことはない……。

 そんな時だ。不意にスマホの着信音が鳴り響いた。

 俺は嫌々ながら、上半身をソファーから引き起こした。


「なんだ、冴草からかな……」


 そう思ってスマホの画面を見るも、そこに表示されたのは登録されていない番号だった。


「誰だ……?」


 不思議に思いながらも、俺は何の考えも無しに電話に出てしまった。


「こ、こほん……」


 小さな咳払いの後に、しばしの無言の間があった。

 いたずら電話なのかと、俺が電話を切ろうかと思い始めた頃。


「か、神住かみすみ様でいらっしゃいますか。わ、わたくしですわ」

 

 このお嬢様口調。名前を名乗らなくてもこの口調だけで、誰からなのか俺には一瞬で察しがついた。


「こ、金剛院セレスですわ。神住様ご機嫌いかがですか?」


 少し緊張しているお嬢様というのは、愛らしく思えるものだと思った。が、俺が今問題にすべきところはそこではない。


「なぜ俺の電話番号を知っている……?」


「え?」


 そうなのだ。俺はこいつに電話番号を教えた覚えはない。なのに、どうしてこいつは俺に電話をかけてくることが出来るんだ……?」


「ああ、それならば七桜璃なおりに個人情報をハッキン……。こほん、愛の力ですわ」


「おい、今明らかに、個人情報をハッキングしたって言いかけたよな?」


「そんな事、わたくし一言も言っておりませんわ。愛の力、愛の電波テレパシーが、神住様のお電話に繋がったのですわ。まさに、奇跡、愛の奇跡ですわ」


「またか、また電波テレパシーなのか……」


 呪縛か? 呪縛なのか? 俺はこの電波テレパシーとやらに呪われてでも居るのか?

 俺は急に頭が痛くなってきた。

 

「勿論、愛の電波テレパシーで、神住様のご自宅の住所、ご両親様の勤務地、年間所得、その他諸々も知っておりますわ。わたくし、あの冴草契などと言う女よりも、完璧パーフェクトに神住様のことを存じておりますの」


 意気揚々と得意気に語る金剛院セレスの言葉を聞いているだけで、俺の頭痛は激しさを増していった。

 何なのこれ……。俺ってばストーカーされちゃってるの……。このお嬢様、完全にヤバイやつだわ……。通報しないとだめなやつだわ……。


「す、凄いんだな愛の電波テレパしーってやつは……」


 俺は嫌味のつもりで言い返してやった。


「はい! 愛の力は無限ですわ。そういう訳で、今後のわたくしたちのお付き合いですけれど……」


「ちょっと待て、お付き合いって……。俺って金剛院さんと付き合ってることになってんの……」


「当たり前ですわ。何を言ってらっしゃるんですの?」


 まるで間違っているのは俺だと言わんばかりの、揺るぎのない自身に満ち溢れた声だった。

 そうかー。恋は知らないうちにスタートしてるとか言うけれど、彼女ってのも本人の知らないうちにできているものなのかー。しかも選択権皆無の強制的に……。

 俺ってば、恋愛に疎いから知らないわけだが、世の恋人たちもこんな感じで付き合っているのか? 本当にそうなのか? 誰か教えてリア充の人!

 

「そうですわね、手始めには……やはりデートですわね。うん、恋人同士といえばデートをするもの……ですよわよね?」


 不安げに俺に尋ねてくるのは何故なのか? そんなの、彼女いない歴どころか、友達居ない歴がほぼ十六年の俺に聞かれても、困ってしまってワンワンワワーン、ワンワンワワーンだ。


「えっと、金剛院さんは今までに彼氏がいたことは?」


「はっ! えっ? あの、その、あの、えっと……。おーほほほほほ、ありませんわ……。わたくしは穢れを知らぬ純白の乙女ですもの。彼氏が居たことなどあるわけがありませんわ!!」


 今までに彼氏が居なかったことを、これ程までに偉そうに語れる女が他にいるだろうか? ある意味凄いと感心してしまう。


「という訳で、デートのお約束を致しましょう?」


 どういう訳なのか、何一つわからないうちに、今まさにデートの約束が取り付けられようとしていた。


「……」


 俺は返答に困った。このままではなし崩しに的に付き合うことになってしまう。そして、デートに行く羽目になってしまう。

 いや、別にそれは悪いことではじゃないか。だって、お金持ちのお嬢様の彼女だぜ? 上手くいけば逆玉だ! 遊んで暮らせる待望のヒモ生活が待っているのだ! こんな素晴らしいことはないのではないか。

 その時ふと、桜木姫華の顔が俺の脳裏に浮かんできた。

 俺と電波テレパシーで繋がっていると勘違している女の子。

 今この時だって、俺に電波テレパシーを送ってきているかもしれない。届くはずのない電波テレパシーを……。

 俺に彼女が出来たとしても、そんな事は桜木姫華からしてみれば、関係ないことかもしれない。けれど、今と同じような関係を保つことは、きっと難しくなるだろう。そうすれば、秘密結社FNPなんて意味不明な団体も消え去ってしまうだろう。

 悲しい顔を桜木さんはするだろうか……。それを見た、冴草契は更に深い絶望に落ちていくだろう。

 そんな事を、俺は望んではいない。


 ……正直に言おう。俺が金剛院さんと付き合うことになったならば、きっと冴草契が俺を半殺しにするだろう。うむ、その様を安易に想像することが出来る。そうなっても良いくらいに、俺が金剛院さんを好きになっていれば問題ない。けれど、俺は別にこの金剛院セレスという女性に対して恋愛的感情など抱いてはいないのだ。まぁ、これから先どうなるかはわからないとしても、今は恋愛感情を持ってはいない。

 だから、ここはデートの誘いを断るべきなのだ。

 けれど、なんて言えばいいんだ? デートに誘われたこともなければ、断る台詞なんて思いつきもしない。

 その俺がとった行動とは……。

 

「あ、あの……うわああ、スマホの電池がァァァ」


「え? え? なんですの?」


 俺は金剛院セレスからの電話を有無をいわさず強引に切ってしまった。

 そして、何事もなかったかのように、スマホの電源を切ると、ソファーに寝転がって、全てを忘れるようにくだらないテレビ番組を死んだような瞳で見たのだった。



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