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03 ファミレスでメニューを選ばせてもらえない。

 

 学校近くにあるファミレス、これはもはやファミリーレストランと呼ぶよりも、ハイスクールレストランと呼ぶべきである。何故ならば高校に近い立地のせいで利用客の大半が高校生だからだ。

 しかし、懐事情の寂しい高校生が相手で、このファミレスは採算がとれているんだろうか? ドリンクバーだけで長時間粘られまくりだとやってられないだろうなー。等と、店の心配をしている場合ではなかった。今心配すべきは自分の置かれている立場なのである。

 

「三名様ですねー。こちらになりますー」


 大学生くらいのバイトの店員さんに導かれるままに俺達はテーブルに向かう。

 バイトの店員さんの俺を見る目が


『なんだこいつ、女二人も連れやがって……。リア充か? 二股か? ハーレムか!』


 と、いう風に見えてしかたがないのは、俺が自意識過剰過ぎるからだろうか……。

 もし本当にそうだったなら、ドヤ顔をして大手を振って歩くものを……。今は借りてこられた猫のように小さくなってそそくさと女の子二人の後を付いていく始末だ。


 四人がけのテーブルに、俺と女子二人が向かい合う形で座る。

 向い合って座っているわけだから、自然と視線がこちらに注がれているのがわかる。

 俺はその視線を避けるべく、ファミレスのメニューに手を伸ばし、シールドのように視線を防ぐと

「あぁ、何を頼もうかなぁー」

 と、棒読み台詞のようにわざとらしい言葉を言った。

「ドリンクバー三つでいいな?」

「え……」

 俺のメニューシールドは、突如上空から飛来した腕力女の腕によって奪われてしまった。

「いや、あの、ここのファミレス色々おすすめメニューとかありますし……」

「ドリンクバー三つでいいな?」

 先ほどと一言一句同じ言葉だったが、凄みだけは三割増しにされていた。

 掴まれているメニューが腕力女の腕力によってグニャッと歪んでく。

 腕力腕力と連呼していると、ワン力、犬の力か……。等と意味不明なことを考えてしまうが、勿論今はそんなことを考えている場合であるはずがない。

「はい、ドリンクバーがいいと思います。いや、むしろ、ドリンクバー以外にありえない。そうだ! 僕はドリンクバーを飲むためにこの世に生を受けたと言っても過言ではない!!」

 はい、わたくしドリンクバーを飲むために生まれてきた男です。情けないと言いたいならば言えばいいさ!!

「姫もそれでいいな?」

「うん、いいよ」

 姫と呼ばれる人物に向ける優しげな表情の、ほんの数%でもこちらに向けてもらいたいものだ。

 

 こうしてめでたくドリンクバーを三つ注文した俺達は、各々にドリンクを取りに行き、テーブルへと戻ってきた。

 俺の持ってきたドリンクはコーラ。腕力女は烏龍茶。妖精さんはミルクティーだった。

 妖精さんのミルクティーはなんかイメージ通りだ。腕力女はイメージを考えるならばプロテインを選ぶべきである。勿論、ファミレスのドリンクバーにプロテインがあった場合だが。

 そんな俺の思考を察知してか、それともただ俺の顔がムカつくのか、腕力女は鋭い眼光を俺に向けてきた。

 それに対して、俺は睨み返す……わけもなく、視線を窓から見える風景に向けたりなんかした。

 

「ねぇねぇ、ちーちゃん。そろそろお話しをしてもいいかな?」

「ん? あぁ、そうだったな」

 ちーちゃん。それが腕力女の名前、いやニックネームだろうか。

 そのニックネームだけを聞くならば、可愛らしい幼女ようなイメージだというのに……訂正を要求する。

 

「まず、お話をする前に、自己紹介をしますね。私は桜木姫華さくらぎひめかと言います。あの、高校二年生です!!」


 何故、高校二年生ですを強調していったのか。それは容易く推測できた。

 桜木姫華は身長が低い。辛うじて百五十センチを突破しているというところだろうか。さらに、これは外見より雰囲気だろうが、ほわわんとした俗世離れした空気をまとっているために、これまた子供のように見えるのだ。

 

「私は冴草契さえぐさちぎり。姫と同じ高校二年生だ。まぁ、姫は特別進学科で、私は三女の進学科だけどな」


 私立三条女学園の略称は三女である。

 しかし、この女……普通科かとおもっていたが、なにげに進学科なのかよ……。俺と同レベルの頭は持ち合わせているのか……。まぁあれだ、ゴリラだって進学科にいるくらいなんだから、いてもおかしくないのか、うんうん。

 

 なんてことを考えている間に、俺の自己紹介をする番が回ってきている。

 さて、まともに答えるべきか。それとも、個人情報は伏せるべきか……。とは言え、同じ高校なわけなのだから、嘘をついてもすぐバレてしまうだろう。そうなれば、腕力女が何をするかわからない。いや、何をするかはわかっている……わかりたくないがわかっている。

 

「ぼ……お、俺は、三条学園二年の、神住久遠かみすみくおんだ。し、進学科だ……」


 俺は自分の名前が好きではない。苗字も好きではない。

 平凡な俺に対して、あまりにかっこ良すぎるのだ。

 神住とか……神が住んでいるって書くんだぜ?

 さらに、久遠って……どこの漫画の主人公だよ!!

 俺がこの苗字名前に負けないくらいの存在であったならば、胸を張って名乗っていただろうが、悲しいななこの十六歳の今現在では、完全に名前負けしている状態だ。

 いつか! いつの日か! この名前が似合うような男になってやる! 俺は沈みゆく夕日にそう誓ったのだった。

 おしまい。


「おいおい、何窓から夕日見てるんだ? さらに、何で涙ぐんでるんだ? 大丈夫か?」

 腕力女あらため、冴草契が俺を心配して声をかけた。多分『大丈夫か?』の後に『頭』という言葉を続けなかったのは、優しさだろうか。

「へ、ちょっと夕日が目に染みただけさ!!」

 意味の分からない返答をして、俺は目尻を制服の袖口でこすった。

 あれ、俺ほんとに少し泣いてたんだろうか? うわー、恥ずかしい。

「そうか、てっきり頭がおかしくなったのかと思ったよ」

「うわぁ、やっぱりこの女、優しくなんてねぇ!!」

 あれ、これ言葉に出しちゃダメな台詞だ。

「初対面で、この女呼ばわりとか……。随分じゃないか……」

「いえあの、この女、優しくって言葉をですね。漢字で続けて書くとですね。ほら! 女優じょゆうって読めますよ」

「だから、何なの!!」

 腕力女が椅子から立ち上がり、握りこぶしを作ったところで。

 

「こ、こほんこほん」

 

 わざとらしく可愛らしい咳払いが、俺と腕力女のやりとりを遮った。


「仲良くしている所悪いですけど、お話しをしたいんですけど……」

 これを仲良くしてると思えるならば、この少女から見た世界は平和に違いない。


「そうだ! そうそう、お話しをしに来たんだったよ! えっと、電波テレパシーがどうってあれだよね?」

 俺は見事に話の矛先を変えることに成功した。


「はい! そうなんです! 電波テレパシーなんです! 私の頭からビビビッて出したやつなんです!!」


 変えた矛先が、良い方向を向いているとは思えはしなかったけれど……。


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