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23 はみ出てないからギリギリセーフ



「ああ、もう朝か‥…」


 いつ寝てしまったのか覚えていない。

 ベッドに寝転がったところまでは記憶があるのだが、その後さっぱりだ。きっと、疲れてすぐに眠りに落ちてしまったんだろう。

 今日は四連休であるゴールデンウィークの三日目だ。残りの二日間を高校生活の思い出に残るくらい出来る限り怠惰に満喫したいものだ。え? だって出かけるのとかダルいやん?


「あ、そっか、それどころじゃないんだっけか……」


 俺は昨日のメールを思い出した。確か、花梨かりんと遊ぶ約束をしていたのだ。

 だが、当日の朝になっても、場所も時間も指定されてこないということは、その場のノリだけのメールだったのかもしれない。まぁメールなんてもんは信憑性が薄いもんだ。『愛してる』なんてメールも、実は鼻くそをほじりながらテレビを見て書いたメールかもしれない。文字が表すような感情が、本当にこめられているかどうかなんて知りようがないのだ。それに比べれば、電話はまだ声の抑揚でいくらか分かるぶん信頼できるといえる。まぁ、実際に面と向かってあって話すのが一番気持ちが伝わるんだろうけどな。

 あれだ、メールでいろんなことを話す人が増えたっていうのは、自分の心を隠したいってことなのかもしれない。とすると、今の中高生なんてものは、本心を出来る限り相手に知られたくない奴らの集まりなのかもしれない。いやまぁ、俺も御多分にもれず高校生なわけだけれど、つい先日までメールをする相手すら居なかったので、考えたこともなかったのだ。


「朝飯でも食うか……」


 俺のお腹がくぅーと可愛く鳴った。そういえば昨日の夕食は酷いもんだった。まぁ食ったけど……食べ物を粗末にするのはいけないからな。

 俺はTシャツにトランクスという格好で、寝ぐせ頭をかきむしりながら階段を降りて台所へと向かう。

 食パンくらいどっかにあるだろうと、俺はゴキブリのように台所をがさごそと漁る。

 チャララチャッチャチャー! 俺は賞味期限ギリギリの食パンを発見したー!

 俺はゲームのように、手に入れたパンを天高くかざすと、その場で一回転してみせた。


 さて、食パンをそのままかじるのも悪くはないけれど、それじゃ味気ない。

 俺は食パンをオーブンにぶち込んで焼きあげると、バターをたっぷり塗りつける。

 ただトースト作るというだけでも、パンを焼く、バターを冷蔵庫から出す、パンに塗る、そんな手順を踏まなければいけない。コンビニだったら、パンを手に取ってレジに持っていく。これだけで済むのに。本当に、飯を作るとはなんと手間のかかることだろう。いや、トースト焼いただけで何言ってんだよ! と思うかもしれないが、実際面倒なんだから仕方ない。こんな作業を毎日のようにやっている母親ってやつは偉いもんだ。俺ならば、全部の食事をレトルトで済ますに違いない。


「お母様ありがとうございます」


 なんて柄にも無い感謝の言葉を述べて、俺は食パンを口の中に放り込む。

 きっと、母親が目の前に居ないからこそ言える言葉だ。きっと、母親が目の前に居たならば。


『けっ、なんだトーストかよ……』


 なんて憎まれ口をきいたに違いない。

 ああ、人間というものは基本ツンデレな生き物なのです。


 食事を終えて、俺はリビングのソファーに寝転がってテレビを見る。

 さて、誰も居ないことだし、また全裸パーティーでも始めようか……。と俺がTシャツを脱ぎ捨て、次にトランクスを脱ごうとした時だ、スマホの着信音が鳴りやがった。


「なんだよ、なんだよ」


 俺は半分ずり下がってブツがはみ出しそうになった状態で、メール画面に目をやった。

 そこには……。


『今から久遠くおんの家に遊びに行くねー!』


 それは花梨からのメールだった。


「はっ? あれ? 今から? 家に? 行く?」


 俺の頭上に巨大なクエスチョンマークが出現する。

 もしかすると、今から久遠の家に遊びに行くというのは、今から俺の家に遊びに来るということなのではないだろうか? うん、むしろ他の意味に取りようがない……。

 まてまて、今から? 今っていつだ? 今って今だろ? いやいや、時間にしていつなんだよ! 一時間後か? 五分後か? それとも……。

 そんな事を考えながら、リビングを右往左往していると、玄関からチャイムの音が鳴り響いたのだ。


「え……。まさか、まさかですよね……」


 俺は動揺していた。動揺さえしていなければ、服装を正してから玄関に向かうというごく当たり前のことを忘れるはずなどなかった。全ては動揺が悪いのだ。そう、半分ずり下がっているトランクス以外なにも身につけてないない状態で玄関に行ってしまったのは、変態プレイなどではなく、精神的動揺によるものなのだ。

 俺は頭の中が真っ白な状態で玄関の扉を開けてしまったのだ。

 そこに待ち受けていたものは……。


「やっほー! 久遠! 遊びに来ちゃったぜー!」


 そこに立っていたのは、身体のラインがはっきりと分かるピチピチのTシャツと、フラワープリントのショートパンツに、スポーツメーカー性の機能的なサンダル、そして天使が地上に舞い降りたかのようなプリティフェイスを持つ向日斑花梨むこうぶちかりん、その人だった。


「お、おう……」


 毎度のことだが、つい見蕩れてしまう。それは、豊満な胸に? 艶やかな太ももに? いますぐ美少女コンテストで優勝できそうな顔立ちに? 天真爛漫なオーラに? きっと、全てに見惚れてしまう。

 はてさて、俺が花梨の姿を目に焼き付けるのと同じように、当たり前だが花梨も俺の姿を目にするわけで……とすると、起こりうるとことは一つなわけで……。


「キャァァァァ!!」


 我が家の玄関から、近所一体にまで少女の悲鳴が轟いたのだった。


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