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02 妖精さんと腕力女

 俺は言葉を無くしたまま、直立不動で魚のように口を開けたままパクパクと空気だけを喉に送り込んでいた。

 もし今ここに鏡があって、自分の姿を見ることが出来ていれば、すぐさまにその鏡を叩き割ることうけあいだろう。

 鏡なんてものを見るときは、誰だって幾らかカッコイイ顔をするもんだ。それなのに、魚みたいに口をパクパクしてキョドっている顔が映ってご覧なさい。自分の人生とは何だったのか、軽く人生振り返っちゃいます。

 はてさて、いつまでも挙動不審で居る訳にはいかない。俺だって、絶えず挙動不審な人物なわけではないのだ。数秒、数十秒の時間があれば、立派な紳士へと変わってご覧に入れられるのだ……多分。

 が、そんな時間を与えるてもらうことなく、予想外のところから言葉は飛んできた。


「ねぇ、このキョドってるのが本当にひめの言ってる相手で間違ってないの?」


 俺の自転車の後ろから顔を出したのは、身長百七十センチ近い女生徒だった。

 勿論、初対面の人物だ。

 どうやら、俺の自転車のリアキャリアを捕まえて俺の動きを止めたのはこの女子らしい。

 俺は、自然とこの女子の姿に、上から下まで視線を這わせてしまっていた。

 毛先に動きのあるショートカットの髪型と、カモシカのように引き締まった太もも。察するに、きっと何かしら運動をやっているに違いない。更に、俺の自転車を引き止めた腕力、これは相当なものだ。まさか、アームレスリングのチャンピオンか!? そして意思を強く相手に伝えるであろう力強い瞳に、俺は些か尻込みしてしまっていた。


「ねぇ、何ジロジロ見てんの? キモいんだけど……。姫、やっぱこいつじゃないんじゃないの?」


 この腕力女の言葉には、明らかに俺に対する嫌悪感が含まれていた。いや、嫌悪感だけで構成されていた。


「ううん、この人だよ」


 逆に、この妖精の言葉には、明らかに俺に対する羨望の眼差しが含まれていた。


 この両極端な言葉の投げかけに、俺はどう反応すればいいのかさっぱりわからないでいた。もし、誰か良い回答を知っているならば教えてもらいたい。赤ペン先生に添削してもらいたい。

 とは言え、誰だって人は、自分に好意を持っていそうな方に寄り掛かるものだ。だから、俺は姫と呼ばれている妖精さんの方に声をかけようと、意を決したその時だ。


「この人が、私の電波テレパシーを受信してくれた人だよ!!」


 この電波的発言に、俺は口から出かかった言葉を強引に喉の奥に押し込めた。

 ホワイ? 何を言ってくれちゃってんのこの妖精さん、頭の中まで本当に妖精さんだったの!?

 

「姫! ちょっと待ってってば……。こんな他にも人がいるところで、その発言はちょっとやめときなよ!」


 腕力女は、そう言って周りを伺いながら、姫と呼ばれている女生徒の口をふさいだ。

 しかし、妖精さんも負けない。口を抑えられているのに、その塞がれた状態のままでモゴモゴと言葉を続けていた。どうやらこの妖精さん、見かけによらず結構根性ある性格らしい。 

 

「イタタっ」


 腕力娘が、これまた見かけによらず可愛らしい声を上げた。

 どうやら、妖精さんが手を噛んだようだ。何やってんだかこの子達……。

 ってか、俺はいつまで傍観者としてここにいればいいんだろうか。このドサクサに紛れて帰っちゃってもいいんじゃないだろうか? 実際問題、今俺ら三人をまるで見世物のように見つめる周囲の視線がかなり恥ずかしい物になってきているわけだし、逃げちゃっていいよな?

 俺が意を決してトンズラを決めようとしたその刹那。


「わかった。わかったから、ファミレスにでも行こ? そうしよう。そこでお話しよう。ね? 姫」


 その言葉に、妖精さんはコクリと首を縦に振った。


 もしかしなくても、多分このファミレスに行こうというメンバーに俺は入れられてしまっているのだろうか? 多分、入れられているような気がする。

 

「じゃ、そう言う事だから」


 どういう事なのか、勿論説明なんてしてくれるわけはない。そして、俺に何の決定権も与えられていないことは、この腕力女の目を見ればわかる。

 これはあれだ。喜んでファミレスについていくか、力尽くでファミレスについていくか、という理不尽な二択を迫られているわけだ。

 ならば、選ぶのは一つである。


「はい、わかりました! ファミレス、喜んで行かせていただきます!!」


 俺はとても良い返事をしたと思う。

 基本、俺はヤンキーに絡まれたら一目散に逃げる。

 もし、逃げそこねたならば出来る限り従順に振る舞って、事なきを得るタイプだ。

 まぁ、最近はゴリラ、もとい向日斑むこうぶちとつるむようになってヤンキーに絡まれることも怖いと思わなくなったわけだけれど。あのゴリラは見かけどおりに糞強い。番ゴリラとして最適なのだ。いやいや、友情ですよ? ちゃんと、あとでバナナあげてますし。

 もし、今ここに向日斑がいてくれれば……。と思っても実際居ないのだから仕方がない。

 俺は自転車を引きながら、この二人の後に付いて行くことになったのだ。

 

 ファミレス着くまでの道のりの約二十分間、俺達は何の言葉もかわさなかった。

 この無言の圧力というものが、俺の貧弱なガラスのハートをメキメキと叩き割りそうになる。

 二十分とは、色々なことを冷静に考えるのに足る時間だ。

 今の状況を正確に把握すべく、俺は脳細胞を活性化せた。

 うむ、妖精さんはどうやら電波がどうでアレらしい。そして、腕力女は怖い。以上!!

 俺の脳細胞は基本的にダメな子だった……。

 自分の頭の悪さに愕然としている時、そんな俺の表情を察したのか、はたまた別の理由なのか、妖精さんはこちらに満面の笑顔を向けてくれた。俺はそれに答えるように、ぎこちない笑顔を返す。そうすると、更に笑顔を返してくるので、さらに俺はさっきよりも頑張ったぎこちない笑顔を返す。そうすると、またまた笑顔で返してくるので……まさにエンドレススマイルである。

 もしかすると、この笑顔に、電波テレパシーとやらの秘密がこめられているのかもしれない……。

 まぁ、だとしても可愛らしいのでオッケーとしておく。俺にとって可愛いは正義なのだ。もしこの相手がゴリラだとしたならば、ゴリラスマイルならば……想像しただけで吐き気がしてくる。いやいや俺はゴリラを思い浮かべたわけであって、向日斑お前のことではないからな? うん、他意はないが明日バナナをあげておこう、そうしよう。

 

 そんな謎の笑顔合戦をしているうちに、俺達はファミレスへと到達したわけだ。

 

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