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183 唐突に里里の回想なのですよ−。


「ふむー、オーバーヒートしたお嬢様に冷却水をかけるべきでしょうか? むしろ液体窒素で一気に……」


 まるでセレスをオーバークロックさせたCPUのように表現しながら、里里りりは照りつける日差しに目を細めた。


 ――そう言えば、あの日もこんな強い日差しの日だったような気がしますです−。


 はい、ここで唐突に里里の回想には入りますですけれどもー。メイド三人娘の中で、出番が一番少なかったので、許してもらいたいのですよー!



 ※※※※


 時は二十数年前に遡ります。


 里里こと、黄影里里おうえいりりが産まれたのは普通の病院ではありませんでした。天才が生まれるのにふさわしいような、それはそれは立派な施設……だったと思います。だって、いくら里里が天才とはいえ、産まれた直後のことはわかりませんですのでー、そこら辺は想像にお任せいたしますのですー。

 産まれた里里を優しく抱きかかえてくれたのは、お母さん……ではありません。お父さん……でもありません。血のつながりなんてこれっぽっちもないおじさんでした。ちなみに、このおじさんの名前は今でも覚えていません。

 どうしてお父さんもお母さんもいなかったのか?

 それは里里が、提供された優秀な遺伝子によって産まれた試験管ベビーだったからなのですー。

 他にも里里と同じように、試験管ベビーがいっぱい居たみたいなのですけれど、会ったことはありません。きっと、里里ほど賢くはなかったに違いありません。

 

 そして里里はある施設の中で育てられました。

 まるでスポンジが水を吸収するかのように、里里の天才的頭脳はありとあらゆる知識を吸収してきました。五歳になった時には、すでにそこらの学者レベルをぽいっと軽く追い越していましたほどだったのです。

 けれど、里里は施設の外の世界を何一つ知りませんでした。世界で一番頭が良いはずなのに、世界一番、世界の事を知らなかったのです。おかしいですねー?

 ああ、ディスプレイの中に映し出される映像では、外の世界は知っていましたですよ? ただ、『太陽の日差しが肌に当たるとどんな感じになるのか?』とか、『海の波に身体を浸すとどんな感じになるのか?』とかは知りませんでした。

 知識で知ることと、五感で知ることは別物なのです。

 ゆえに、外の世界に対する探究心は増していきました。

 けれど、十歳になる頃には……


「世の中ってそんなもんですよねー」


 と、天才らしく達観してしまっていたのです。

 

 里里の毎日のお仕事は、大人の人が持ってくる数式から答えを導き出すことでした。

 その数式がなんに使われるのか、天才の里里には薄々わかってはいました。わかってはいましたが、わかっていてもどうにもならないこともわかっていたので、それについて考えることはしませんでした。

 だって、外の世界のことは里里にとって無意味なことなのですからー。無意味な世界のことを考えるのは、無意味なことなのです。無意味なことなど天才にする必要はないのです。

 実際、数式を解いていくのは楽しかったですしー。それを見て大人たちが、いやらしいほど喜ぶ姿を見るのも嫌いではなかったのです。

 

「ああ、この人達はきっと可哀想なくらいにお馬鹿なのですねー」


 と思えて、滑稽だったからです。

 きっと、こういうのが世間一般的に言う『かわいげのない子供』だったに違いありません。

 まぁこの頃は、かわいいかどうかを比べる対象もなかったので、自分のことはよくわかっていませんでしたけれどもー。

 

 そして時は流れて、里里は十二歳になりました。

 この時の里里には友達がいました。里里が開発した人口AIを内蔵したロボットさんですー。

 子犬のような大きさのそのロボットは、里里と一緒にすくすくと育ち……はしません。ロボですのでー。まぁ里里が改造を施してヴァージョンアップはされていきましたけれども。

 いつの日か、そのAIのデータが勝手に持ちだされました。

 軍用に使うとかなんとか? そんな話を耳にしました。

 この時ばかりは、里里も少しばかり怒りという感情を持ちましてー。こっそりコンピューターをハックして、この施設のデータを外に流してみたりしました。

 それから数日後のことです。

 大人たちは大合わせてで右往左往しているではありませんかー。

 慌てふためく大人というものは、まさに《THE愚民》といった感じで、それはそれはとても面白いものでしたー。

 

「どうしてこの施設の場所が漏れたんだ!」


 はい、里里のせいです。えっへん。


「この施設のセキュリティーは完璧なはずだろ!」


 いいえ? 里里にとってはザルでしかありませんでした。うふふ。


「奴だ! 奴がやってくる!! 死神が……」


 奴? それは何でしょうー。死神と言う言葉の響きに、なんだか心がワクワクします。

 そして、少しばかり時間を置いて、死神さんはやってきました。

 その死神さんは、カイゼル髭をたくわえた老人です。

 特殊合金で作られているはずの壁を、難なく破壊して施設の中に侵入しては


「こんにちは、お嬢さん」

 

 と、里里に向かってにこやかに挨拶をしてくれました。


「……」


 里里は言葉を返すことができませんでした。それは初対面の老人さんに緊張した……のではありません。その老人さんが、挨拶をしながらも、無数の弾丸をまるでダンスでも踊るようにかわし、指先ひとつで警備のものを気絶させていったからなのですー。

 それが怖くて声が出なかったかって? 違うのですよー。


 ――なんて機能美にあふれたお爺さんなんでしょー。


 里里は感嘆のあまり声が出なかったのです。

 微塵も無駄のない動き、物理法則を覆すような縦横無尽さ、人間の域を軽々と凌駕するその存在は輝いて見えたものなのですー。

 気が付くと、里里はその老人に自分の手を差し出していました。

 老人はその手を取ってくれると、そのまま里里を抱きかかえて外へと連れ出してくれました。

 

「眩しい……」


 外は夕暮れ。夕焼け空がまっかっかー。夕日が目に染み入りましたですー。

 見上げるとそこには、カイゼル髭。ついつい引っ張ってみたくなって、それを行動に移します。


「お転婆なお嬢様ですね」

 

 髭を引っ張られて苦笑いをしながら、老人は里里の頭を優しく撫でてくれました。

 これが、金剛院こんごういん家の執事長ブラッド様との出会いだったのですー。

 その後は、トントン拍子に金剛院家のお屋敷で働くことになり、今に至るということなのですー。


 そうそう、後で聞いたのですけれども、あの施設は違法な平気を開発するところだったらしいのです。まぁどうでもいいんですけれどもー。

 

 金剛院家で働きながら、里里が目指すもの……。

 それは、いつの日か『執事長ブラッド』を超える存在を生み出すことなのです!!

 現在の里里の科学力では到底到達できない高みに存在しているブラッド様。けれど、今の里里は一人ではありません。

 東子とうこの怪しい医術と、虎道こみちの野性的パワー。この二つと里里の化学力を合わせることで……遂に、遂にぃぃぃぃ、ある一点においてブラッド様を超えることに成功したのです!!


 それは……。


 破壊力!!


 虎道の潜在能力を、東子のドラッグにより限界まで開放させ、それによって耐え切れなくなる肉体を、里里の開発した完全武装虎道フルアーマードラゴンロードによって強化させることにより、この時虎道の放つ全力のパンチは、大陸を粉砕する程の破壊力を生み出すことが出来るのでよぉぉォォォォ!!

 

 とは言え、威力が強すぎるので実験もできませんし、これを放った虎道は死……こほんこほん、凄いダメージを追ってしまうのですー。

 いつの日か、ブラッド様の異空間異動も、自力で解明してみせたいものなのですよー。それに、ブラッド様がたまにこっそりと口にする《ゲート》とはなんなのでしょうかねー。

 

 おっとっと、こんな回想をしている間に、セレスお嬢様は突っ走りかけてしまってますー。

 


 ※※※※


「二人が動き出しましたわ! 追跡しますわよ!」


 セレスは光学迷彩でまわりの人並みを弾き飛ばしながら駈け出した。

 里里は『やれやれ困ったお嬢様ですねー』といった面持ちでその後を追従する。

 

 こうして、長い回想をはさみながらも、久遠くおん姫華ひめかはデートの場所へと動き出すのだった。

 


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