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180 デートまでのカウントダウン。


「準備はバッチリ……だよね?」


 姫華ひめかは一人部屋の中で、鏡で髪型を丹念にチェックしながら、誰ともなく問いかける。勿論、姫華の守護霊が返事をしてくれる……はずもなく。その問いかけは部屋の空気に消えていくだけだった。

 姫華が鏡に向かうことかれこれ二時間。デートの待ち合わせ時間はお昼だというのに、朝の五時に目をさましてしまった姫華は、心臓の音をドラムのように鳴り響かせながら、自室で苦悩し続けていた。

 

「頑張れ、頑張れわたし! 負けるなわたし!」


 鏡に写る自分に向けて、激励の言葉を数限りなく送り続けても、不安な気持ちは消え去ってはくれない。


「おかしいよね。デートなんだもん、喜ぶべきなのに、嬉しいって思うはずなのに……。なんでこんなに不安で胸がいっぱいなんだろう……」


 姫華は胸に手を当ててみる。トクントクンと心臓の鼓動が手のひらを通して伝わってくる。その音がまるで『怖いよー怖いよー』と言っているように思えた。

 

「怖くないよー! 怖くないよー!」


 姫華は心臓の鼓動に返事をしてみせる。すると心なしか、心音が和らいだような気がした。


「気合入れていくよぉ!!」


 デートの待ち合わせ時間まで……後四時間。



 ※※※※


「うーむ、デート……。この俺がデート……。世の中ってのは油断できないもんだよな……」


 久遠は、柄にもなく気難しそうな顔をして、自室で腕を組んで唸り声を上げていた。

 この男、自分が世間一般的にモテるタイプの男でないことは熟知していた。それが大金持ちの金髪ハーフのお嬢様に求愛され、さらに別の女性からもデートのお誘いを受けることになろうとは……。タイムマシンで過去に戻って、過去の自分にその話をしても『へっ、夢は布団の中で見てろよ!!』と鼻で笑われたに違いないであろう。

 久遠も一応デートのために服装やら髪型やらを考えてはいたのだが……

 

「水が高いところから低い所に流れるが如く……なるようにしかならねぇんだよ」


 と言う一見もっともらしいようで、何の意味のないことを呟いては、髪型のセットもお洒落な服を選ぶことも早々と断念していた。


「よし、取り敢えずオシッコとウンコだけはちゃんとしておこう」


 漏らしてしまっては一大事。いや、普通ならば高校生がデート中にお漏らしなど、ありえない話なのだろうが、この久遠にとってはそうとは言えないから、本当に油断がならない。

 長時間トイレを占拠して、母親から文句を言われながら、久遠はデートの待ち合わせ時間までの時間を過ごしていた。


 デートの待ち合わせ時間まで後二時間。



 ※※※※


「どうしてこんな大事な時に、七桜璃なおりは居ないんですの!」


 大豪邸の私室で、セレスは苛立ちを隠すことができないでいた。

 何時もならば一声かければ、いや一声かけなくとも空気を読んで即座に現れるはずの、忍者こと七桜璃が姿を見せないのだ。


「あの別荘以来、なんだか七桜璃の様子がおかしいのはわかっていましたけれど……」


 セレスは七桜璃が現れないことに怒りを感じているのではなく、心配をしているのだった。


「ワンワン!」


 ミニチュアダックスフンドのチョコが、セレスの足元をグルグルと元気よく駆けまわっては、『どうしたの? 大丈夫?』と励ますように鳴き声を上げた。


「うふふ、大丈夫ですわよ。神住かみすみ様が別の女性とデートしようとも、ぜぇ〜んぜぇ〜〜ん大丈夫ですわよ!!」


 言葉とは裏腹に、セレスのこめかみには血管が浮かび上がり、知らぬ間に般若のような形相へと変化していた。


「キャン!」


 ご主人様の見たこともないような表情と殺気に、チョコは飛び跳ねて椅子の裏に隠れてしまった。

 何故セレスが姫華と久遠のデートの情報を得ているのか? それは言うまでもなく、金に物を言わせた金剛院財閥のネットワークによるものである。


「こんな大事なときに限って七桜璃は姿を見せないし、青江あおえは、自分より強い奴に会いに行くとか訳のわからないことを言って旅に出ているし、赤炎せきえんは新薬の開発だとかで研究室にこもりっぱなしだし……。いざというときに、役に立たないですわ」


 セレスは大きなため息を一つ付いた。

 

「むーむー。ここにとっても役に立つメイドが一人いるのです!」


 声のする方に視線を落とすと、そこにはちびっ子、もとい白衣姿の黄影里里おうえいりりが、わたしに任せるのですよ! とばかりに自信満々の表情で立っていた。

 二秒ほど視線を合わせた後、セレスは何も見なかったことにして、窓の外に視線をうつした。


「仕方ありませんわ。わたくし一人でデートを監視するしかありませんわね」


「里里が居るのですよぉぉォォォォ!」


 椅子の上に昇って、セレスと同じ目の高さに到達した里里は、もう視線は外させまいと、まるでキスでもするかのように、頬を手で支えてつぶらなお目目で見つめ続けるのだった。


「……わかりましたわ。でもロボは禁止ですわよ!」


「え?」


「だーかーらー! ロボは禁止ですわよ! 特に戦闘に特化したロボなんて以ての外ですわ!」


「えええええええ!?」


 里里は絶望に天を仰いだ。


「こんな時のために、合体変形ロボを用意してきたのに……」


 一体デートの尾行に、合体と変形の機能がどう役に立つのかさっぱりだった。


「米軍と単独で戦えますですよ?」


「戦わなくていいですわ! これは戦いは戦いでも、恋のバトルなのですわ!」


 ご自慢のロボを否定され失望にくれる里里を他所に、セレスはメラメラと闘志を燃やした。

 そしてチョコは、『困ったご主人様だ……』と可愛らしく首ひねるのだった。


 デート開始まで、後一時間。


 

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