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173 意外な決着。


「モグラかよ!」


 虎道こみちは完全に虚をつかれた。自身の直下に攻撃を加える方法も、防御を試みる方法も皆無なのだ。

 ここで真宙まひろが攻撃に転じていれば勝負は決していたのかもしれない。が、真宙は攻撃を加えようとはしなかった。懐から数個の球体状のものを取り出しては直上に投げつける。それは空中で爆発すると、白煙を上げて瞬時に周囲数百メートルの視界を奪い去った。

 

 もしこの時、真宙が煙幕などではなく、物理的なダメージを与える攻撃を試行していたならば、結果はどうなっていたのか?

 虎道の周囲には、物理的ではなく霊的? 精神的? とでも呼ぶべき防御フィールドが無意識化に展開されており、生半可な攻撃などはオートで防御をしてしまうのである。

 真宙のマスターニンジャとしての直感がそれを察知していたのか、それともただ戦うことを避けたかったのか、真実のほどは分からないが、結果としては真宙にとって良い方向に推移していた。

 

「おいおい、真っ白けっけで、なぁ~んも見えねぇ~ぞ!」


 白煙に数十センチ先の視界すら完全に塞がれた虎道は、目を煙から守るように左手で覆ってみせる。だが、すぐさまニヤリと不敵に笑みを見せると、その手を自分の腰に構えてみせる。

 

「けど、見えようが見えなかろうが、わたしにゃ関係ないもんね!」


 もはや虎道は、《相手を狙って攻撃する》という戦いにおいて至極当たり前のことを思考から除外していた。

 周囲を全部吹き飛ばせば、ついでに真宙も吹き飛ぶに違いない。

 そんな大雑把かつ、はた迷惑極まりない思考で、虎道は盲滅法めくらめっぽうに渾身の力で拳を打ち込んだのだった。

 計算してか、はたまた偶然からか、虎道の撃ち込んだ拳の風圧によって周囲の白煙は拡散され、視界を取り戻すことができた。

 熊は人間を倒すのに、テクニックなどを用いない。ただ暴れるだけで事足りる。

 虎道はそれを地で行って見せたのだ。

 

「女の人に、こんな表現は使いたくないけれど……バケモノだ……」


 もはや虎道を人外認定した真宙は、すでに土の中から這い上がっており、虎道との間に大きく距離をとっていた。

 それでいても、虎道の鉄拳による衝撃波はあちこちに飛び火しており、吹き飛ばされる瓦礫や木々を回避するのに一苦労といった有様だった。

 しかし、一番迷惑を被ったのはこの島に住む赤炎東子が生み出した、ドラゴンモドキや、グリフォンモドキ、マンティコアモドキなどといった、ファンタジー世界さながらの遺伝子改良生物たちである。

 完全なとばっちりを喰らった彼らは、四方八方から迫り来る虎道の攻撃から逃げ惑わなければならなかった。

 ファンタジー世界で最強の生物と呼ばれているドラゴン、いやさモドキであったとしても、それが慌てふためいて逃げ惑うさまは滑稽と呼ぶべきものだった。が、当人? 当ドラ? からすれば生き死にの掛かった必死の逃走に他ならなかった。


「ああ、島の自然と動物たちに被害が……」


 真宙は攻撃を見事に回避し続けながら、破壊されていく島の地形と、吹き飛ばされていく島の動物キメラたちを見やって、心の中で合掌をしていた。


「オラオラオラオラ! 全部吹き飛んじゃえよっ!」


 虎道は完全にハイな状態に入ってしまい、力の尽きるまで拳を打ち続けるマシーンと化していた。

 すでに島の地形は削られ、雄大だったジャングルは見る影もなくなっているという有様だというのに、虎道の視界にはそんなものは何一つとして入ってはいなかった。まさに戦うだけの兵器、バトルマシーンである。


 ――こうなったら、攻撃を止めるために一か八か懐に飛び込んで、動きを封じる高位の術を試みるしか……。


 と、真宙が悲痛な決意を固めたその時。


「こういう無意味な破壊行動に力を使ってはいけないと、教えておいたはずですぞ?」


「あ……」


 恍惚状態で拳を放ち続ける虎道の前方の空間に突如とした出現したのは……執事長ブラッドだった。

 その姿を確認した瞬間、高揚していた虎道の顔色がみるみるうちに青ざめていく。

 

「これはお仕置きをしないといけませんな」


 やれやれといった感じの困り顔を浮かべたブラッドは、虎道の直ぐ側までスタスタと歩いて行く。


「ちょっ! ちょっとこれにはわけがッッッ!!」


 虎道は超高速で後ずさるのだが、ブラッドのスタスタ歩きはそれを凌駕していた。そして数センチの距離までに達すると、ブラッドは右手の人差し指をピンと弾いて、虎道のオデコに命中させる。いわゆるデコピンである。

 

「うぎゃぁぁぁァッッッッ!!」


 それはただのデコピンであるはずだった。だが、それを受けた虎道は大絶叫を挙げて地面へと倒れこみ、のたうちまわりだしたのだった。

 百メートルほど離れた場所で様子を伺っていた真宙は、何が起こっているのかまるで見当がつかなかった。

 その刹那。


「一応喧嘩両成敗という言葉もありますので……」


「ふぇ?」


 気配などまるで無く真宙のすぐ背後に現れいでたのは……またしてもブラッドだった。


「そ、そんな僕が気配を感じることなく後ろをとられるなんて……」


 マスターニンジャとして、幼少の頃から厳しい修行を課せられた真宙である。数キロ先の針の落ちる音すら聞き分ける、とまで言われている察知能力を持つというのに、ブラッドの接近はまるで感知することが出来なかったのだ。

 

「それでは……えいっ!」


 先程よりも幾らか手加減を加えた感じのデコピンが、真宙のオデコに炸裂した。

 真宙は即座に身体を後にそらしてダメージの軽減を図ろうとしたのだが、その命令が脳に到達するよりも数倍早くブラッドのデコピンはオデコに命中してしまっていた。

 

「キャッ!」


 まるで女のような悲鳴を上げて、真宙はその場に倒れこんで気を失うのだった。

 どうやら、身体の頑丈さにおいては、虎道のほうに軍配が上がるようだ。


「しかし……はてさて、この惨状どうしたものでしょうねぇ……」


 ジャングルであった場所は、まるで虎刈りにされた頭のように無残にえぐり取られており、新しく地図を書きなおさなければならないレベルにまで達していた。

 それよりも何よりも……。


「お嬢様の別荘が……半壊していますわね……」


 赤炎東子せきえんとうこは、眼鏡のフレームを指で支えながら、瓦礫に変わってしまった別荘を見て、大きくため息を付くのだった。


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