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15 女の子の服装って一々褒めないといけないの?


 来てしまった……。

 二人との待ち合わせ当日が来てしまった。

 そりゃそうだ、次の日なんだから、世界が滅びでもしなきゃ当たり前のように、やってくるわけだ。

 

 俺は、カーゴパンツに、フード付きパーカー、そして靴はアディ◯スのコンバースと言う、極々無難な服装で待ち合わせ場所へと向かった。


『うむ、何一つカッコよくなど無いが、おかしいってほどでもないだろう……』


 俺は待ち合わせ時間丁度に駅前へと到着した。女の子より先に着いて待っているのというのが、デートならば基本なのかもしれないが、残念ながらこれはデートではない。それに、ドギマギしながら女子を待つという行為に俺のシャイなハートは長時間耐えられはしないのだ。

 天気はまさに日本晴、気候は花咲き乱れるうららかな春といったところだ。

 そして、俺の視線の先には、その花に負けること無く咲き誇る女子二人が待ち構えていた。

 

「遅いぞ」


 冴草契さえぐさちぎりは、両腕を組んで些かご立腹のようだった。

 俺は時計を見るが、時間は午後一時丁度を指していた。


「遅いぞ」


 二回言いやがった。

 つまりはこういうことだ。冴草契より、後に来てしまえば、それはどんな時間であろうと遅いということなのだ。納得。

 冴草契は、七分丈のダメージジーンズに、ハイカットのバッシュ、ポートネックのTシャツの上にベースボール風のシャツというボーイッシュ風味の出で立ちだった。

 うむ、自分のキャラクターをしっかり理解した装いだと言えよう。


「ん!」


 何ジロジロ見てんだ! という言葉がこの『ん』と言う一文字の中に内包されていた。


「こんにちはー。良い天気でよかったですね~」


 春の木漏れ日のような笑顔で迎えてくれるのは、桜木姫華さくらぎひめかだ。

 桜木姫華は、名前に合わせたかのような桜色のワンピースに、白のニットのカーディガン、足元は春らしいサンダルで決めていた。

 なんだろう、こんな女の子と、普通にデートできればどれだけ幸せなことか……。


「どうしましたー?」


「いやいや、可愛いなぁって……あ、服装が、あ、そうじゃなくてあの……」


「神住さん、ありがとうございます」


 ペコリと頭を下げる。

 顔を上げた所で、俺と桜木姫華は笑い合う。


 おいおい、ラブコメっぽい空間がここに形成されつつあるじゃないか! と思った刹那。


「おい!」


 風切音が俺の耳元で響く。

 冴草契からの腰の入った正拳突きが、顔面の横、耳スレスレを貫いたからだ。


ひめを口説こうっていうの? ねぇ、死にたいの? 今すぐ地獄に落ちたいの?」


 冴草契の顔は笑っていたが、目は一つも笑っていなかった。そして、この言葉は比喩表現でも何でも無くきっと事実のみを言っているに違いなかった。


「い、いやぁ、さ、三人揃ったわけだけど、どこに行くのかなぁーなんて」


 俺は引きつった愛想笑いを浮かべながら、全力で会話の方向転換をおこなった。ラブコメ展開と命ならば、今の俺には命のほうが惜しい。死んで花実が咲くものか!


「え? 神住さん、どこに行くかわからないんですか?」


 桜木姫華は俺が行き先を知らないことに驚いていた。


「!?」


 むしろ驚くのは俺だ! 俺は動揺を隠せないでいた。

 まさか、昨日送ったらしい電波テレパシーに、今日の行動の内容まで含まれていたのか? そんなの事前に冴草契から聞かされてないぞ……。

 俺は焦って横の冴草契を見たが、これもまたわかりやすいくらいにあたふたと狼狽していた。なるほど、こいつも聞かされてなかったようだな……。

 ならば、ここは俺の力の見せ所のようだな……。

 俺の力『超能力』――などではなく、その場しのぎの適当誤魔化しトークだ!

 全ての問に、あやふやな答えをすることによって、決定的なミスを出さないで会話を続ける! 出来るだけ固有名詞を避けて話すのがコツだ!


「ああ、勿論わかってるよ。アレだよね! アレ! アレはいいよね!」


「ですよねー。凄く可愛いですよねー」


「な!?」


 可愛い? 可愛いのか? アレは何が可愛いんだ!?


「そ、そうそう、アレはま、丸っこくて可愛いよねぇ……」


「そうなんです! ふわふわまるまるしてて、ほんと見てるだけで、ふにゃ〜ってなっちゃんですよぉ」


 ふわふわでふにゃ〜だと……。

 行き詰まってしまった俺は、助け舟を求めるために冴草契に目配せをするが、冴草契は挙動不審者のように、目をキョロキョロさせるばかりだった。こいつ使えねえ……。

 兎に角、今のところは、なんとか上手く地雷を回避して会話を続けていられているようだ。しかし、これがいつまで続くことか……。


「ま、まぁこれ以上ここで話ししててもあれだし、目的地に行こうか!」


「そうですねー。さぁ行きましょう」


 俺に先頭を歩かせる桜木姫華は鬼だと思った。

 俺は一歩目をどこに向かって踏み出せばいいのか、さっぱりわからないでいた。

 前か後ろか左か右か、それとも天空高くフライアウェイなのか! 意表をついて地下に潜るのか!? くそぉ、俺にドリルがあれば……。

 そんな俺の苦悩の百面相を、桜木姫華は楽しげに眺めていた。俺は見世物か!

 

「もぉ。神住さん何面白い顔して遊んでるんですかぁ〜? 行きますよー」


「いや、これは顔面体操ってやつでだな、こうすると顔の筋肉がほぐれて健康にいいんだよ」


「そうなんですか? わたしもやってみようかなー」

 

 桜木姫華は俺の真似をして、にらめっこのように顔をしかめたりふくらませたりしている。ああ、俺がやると気持ち悪い顔になるというのに、この桜木姫華がやると、どれもこれもプリティに見えるのは何故だろうか。そうか、根本的に顔の作りが違うか、そうなのか、死にたい……。今ここに手頃なカッターナイフがあったら俺の手首が危うかったことだろう。


「ひ、ひめ、駅前でそんなことをしているとバカが移るぞ!」


 冴草契がたしなめるように言う。そうか、俺の行動はバカか、あっはっはっは、殴りてぇ。


「ちーちゃんもやってみなよー。結構楽しいよ?」


「え、いや、それは、ちょっと……やります」


 相変わらず、この力関係は見ていて心地よい。どこからどう見ても、冴草契の方が力関係で上位に見えるのに、実のところは完全に桜木姫華の独壇場なのだから。

 しぶしぶ顔面体操を始める冴草契の姿を見て、俺は腹を抱えて笑いそうになった。が、殺意の篭った眼光が俺の笑顔を奪い去っていった。怖えぇ……、冴草契怖えぇ……。

 

「それでは、みんなスッキリした所でー。小動物ふれあいランドに出発だよー」


 えいえいおーとばかりに、桜木姫華が声高らかに宣言する。

 こいつ、自分で行き先を言いやがった……。

 どうやら、先ほどの顔面体操のやりとりで、それまでの電波テレパシー云々のことを完全に忘れてしまっているようである。

 どうやら、俺は桜木姫華の天然ボケのお陰で命拾いしたらしい……。


「って、小動物ふれあいランド?!」


「ですよー?」


「小動物ふれあいランドって、もしかすると、小動物と触れ合っちゃうランドなんじゃ」


「当たり前じゃないですかー。もし、その名前で小動物と触れ合えなかったら、訴えられちゃいますよ?」


 桜木姫華の言うことは至極もっともだった。

 とすると、異種族との電波テレパシー実験というのは、そういう事になるのか。どういうことだ!

 こうして、我ら秘密結社FNPの面々は電車に乗り込んで、三駅先にある小動物ふれあいランドに向かうことと相成ったのだ。


 ゴールデンウィークの電車は、どこかにお出かけする家族連れとカップルなどでいくらか混雑していた。これだけ大勢が車両の中にいても、まさか俺たちが秘密結社であると想像できるやつは一人たりとも居ないだろう。もし居たならばそいつがきっと超能力者だ。

 俺たちは座る席がなかったので、さん人仲良く並んで立っていた。まぁ、たったの三駅だ、立ってた所で大したことはない。

 よく見ると桜木姫華はつり革ではなく、冴草契の腰に捕まっていた。

 冴草契は琉球空手の奥義であるサンチンを会得しているかのように、電車の揺れに身動き一つすること無く完全なバランス感覚を保っていた。何ものだよこいつ……。

 一見百合の匂いをかもちだしそうだったが、どちらかと言うと、姫とそれを守る騎士と言ったところだ。

 俺は桜木姫華に聞こえないように、こっそりと冴草契に耳打ちする。


「なぁ、なんで小動物ふれあいランドなんだよ……」

 

「姫は、小動物が大好きだからな」


「おい、そういう情報は前もって言っておけよ……」


「は? どうして、そんな姫のプライベートな情報を、お前に教えなきゃいけないの? セクハラで訴えられたいの?」


「いや、その情報があったら、さっきのやりとりも、もう少しスムーズにだな」


「何を話しているんですかー?」


 流石にこの至近距離での内緒話には無理があったようで、桜木姫華が会話にひょっこりと顔を突っ込んでくる。



「え? いや、昨今の世界情勢について色々と、な?」


「そ、そうだな。最近は円安だとか」


「円安ですかー。それは大変な問題ですねー。で、――ほ ん と う は何の話をしてたんですか?」


 ニッコリ笑顔の奥には、きっと別の何かが潜んでいるように思えてならなかった。


「いや、あれだ。桜木さんはどんな小動物が好きなんだろうなぁーって」


「うふふ、それは着いてからのお楽しみですよー」


 おっと、今度は何の裏表も無さそうな普通の笑顔で、ほっと一安心。

 こうして、俺たちをのせた電車は、正味二十分の旅を終えて、我らの目指す小動物ふれあいランドのある駅へとたどり着いたのだった。


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