141 NASAの技術。
「キサマぁぁ! 何でこんなところにィィィ!」
男である久遠が、男湯に入ってくることは至極当たり前の事なのだが、今の七桜璃にとってそんな事はどうも良かった。
――どうにかしなければいけない…。
七桜璃は超高速で思考を走らせる。
――ここで、攻撃を食らわせるて意識を奪うべきか? しかし、今ここで蹴りなど繰りだそうものならば、さらに色々なものを見られてしまう……。それならば、ここは一旦身体を隠すために、湯船の中に沈むのが得策くか?? ボクの肺活量を持ってすれば、数分間の間水の中に潜ることなんて容易いことだ。その間にさらなる方法を……。
七桜璃が超高速で思考を巡らせているのと同じく、久遠もこの時、超超高速で思考を走らせていた。
――なに、なに、なんなのここ男湯なのに、めっちゃかわいい子が居るんですけど! 記憶を無くして、オッパイ大好き人間であること以外は何も覚えていない俺だというのに、巨乳どころか、無乳であるこの少女を見みて、心臓が飛び出して成層圏を突破してしまいそうになっているのは何故なんだ! これはまさか……愛? 愛なのか? しかし、俺には彼女が居る。金髪ツインテールお嬢様の彼女が居る! それに、巨乳美少女のオッパイも揉んでいる! それなのに、なんだ今までにないほどのこのハートビートは! あれか、もうするしか無いのか! アレするしか無いのか!
七桜璃が持ち前の俊敏さを活かして、湯船の中に潜ろうとしたよりも早く、久遠は言葉を投げつけた。
「結婚して下さい!」
「は……」
久遠の出した答えとは、真っ向直球勝負のプロポーズだったのだ。
彼女以上に愛を感じていしまう人物がここに居るならばどうする?
求めるは、彼女以上の存在、彼女を超越した次元に至らしめなければならぬ。
そう! 嫁にするに決まっているのだ!!
それこそが記憶喪失の久遠の脳がはじき出した答だった。
プロポーズの言葉を耳にした七桜璃の意識は、あまりの衝撃に身体から解き放たれ、遥か大宇宙へと旅立っていってしまったのだった……。
そして、意識を失った七桜璃は、まるで機能停止したロボットのように、直立不動の姿勢で固まってしまった。一糸まとわぬ姿で……。
その時運悪く不意に風が吹いて、七桜璃の大事な部分をうまく隠していた湯気が何処かに消えていった。
「つ、ついてる……だと!?」
久遠は見た。視認した。凝視した。
七桜璃の下半身に、かわいらしい象さんが付いていることを……。
久遠は自分の目を疑った。
――こんなかわいい子に、象さんが付いてるはずがない! 付いていて良いはずがない! そんなの宇宙の法則が乱れてしまうじゃないか!! そうだ……これは何かの間違いで、偶然下半身に謎の物体が付着しているだけで取り外し可能に違いない!
取り外しが可能な象さん。
NASA辺りが秘密裏に開発していたとしてもおかしくない……。それならば、取り外してしまえば、この美少女は普通の女の子に戻るわけなのだ。
そうと決まれば、このNASAが作り出した擬似象さんを取り外してしまえばいい。
だがしかしだ!
よしんばこれが擬似象さんだとして、女性の下半身に触れるなんてことをしても良いものなのか? これはすでにポリスメンにご厄介になるような案件なのではないのか?
記憶喪失になったとはいえ、久遠は一般常識、一般道徳が欠落したわけではないのである。
――しかし、もしこの象さんは地球の技術ではなく、悪の異星人がこの美少女を影で操るためにつけたコントローラーだとしたならばどうだろうか? そうならば、下半身に触れるという犯罪的行為も、この美少女を助けるための行動となるわけであり、それはむしろポリスメンとNASAも賞賛してくれるのではないだろうか?
訂正しよう。
久遠は記憶を失っていようが失ってなかろうが、一般的常識が些か欠落した男だったのだ!
将来の嫁を助けるため、地球の平和のため、そして自分の欲望ため、久遠は勇気を振り絞って、その手を七桜璃の股間へと……持って行こうとして、何故かオッパイを触っていた。
何ということだろうか、生まれながらのオッパイニストである久遠の手は、脳の命令を無視して勝手にオッパイに向かってしまったのである。
「か、硬い……」
当然のように、七桜璃の胸には女性特有の弾力性などなく、まだ熟さない青い果実のような硬さを誇っていた。
普通の人間ならば、この胸の感触で七桜璃が男であると気がつくものなのだが、久遠は悪い意味で普通ではない。
『硬ければ、ほぐしてやろう、ホトトギス』
久遠は心のなかで一句詠むと、両手で七桜璃の胸を鷲掴みにして一気呵成に揉みしだきだしたのだ。
そこには、宇宙人の魔の手から美少女を救おうとする姿は何処にもなく、ただ己の欲望のみを遂行するマシーンが居るだけだった。
「あんっ……」
七桜璃から声が漏れる。
オッパイを揉まれた感覚により、七桜璃の意識はやっと自分の身体に帰還することができた。
そして、自分が今置かれている状況を目にして……さらに意識がアンドロメダ星雲まで飛んでいきそうになったのだが、そこは気合で踏ん張った。
胸を揉みしだいている両腕を掴みとると、巴投げを繰り出して、数メートル先の湯船の中へと久遠を沈めたのだ。
だが、久遠もオッパイ魔神である。
目の前にオッパイがあるというのに、この程度の事でへこたれたりなどする筈もなかった。
「オッパァァァァァイ」
ゾンビのように、両手をだらりと垂らしながら、七桜璃のオッパイめがけて駆け寄ってくる。
この時の七桜璃に、羞恥心は存在していなかった。
目の前に迫る、最悪最凶の敵を粉砕する。ただそれだけに意識は集中されていた。
久遠の意識は、七桜璃のオッパイだけに集中されていた。
二人の尋常ならざる集中力が、いま火花を挙げて激突する。
が……。
集中力は同等だとしても、戦闘力には天と地ほどの開きがあり……。
久遠は、どこぞの格闘ゲームの即死コンボのような連続技を決められて天高く舞い上がり、ジャングル風呂を覆うドームの強化ガラスに激突した後、ド派手な飛沫を上げてお風呂の中にダイビングしたのだった。
しばらくして、土左衛門のように久遠身体は湯船にプカプカと浮かび上がってきた……。
「ボク、オッパイ揉まれちゃった……」
七桜璃は自分の胸を、両手で女の子のように隠した。
出来ることならば、今完全にこの久遠の命を奪ってしまいたかったが、それでは忠義を尽くしているお嬢様であるセレスが悲しむことになってしまう。
溺死してしまわないように、完全に気を失っている久遠の身体を、湯船の中から引き上げると無造作に放り投げた。
久遠の身体は、投げ出されても意識を失ったままで、ぐでーんと仰向けになったまま転がっていた。
「うわっ!?」
七桜璃の視界には、意図したわけではないのに自然と久遠の大事な部分が目に入ってしまう。七桜璃は大慌てで顔を背けるのだが、網膜に焼き付いた久遠の下半身は、なかなか消え去ってはくれなかった。
「と、取り敢えず、タオルでもかけてやるか……」
七桜璃は、出来るだけ久遠を視界に入れないようにしてタオルを取ると、これまた放り投げるようにして身体にかけてやった。
久遠の一部分が盛り上がっていて、タオルがまるでテントのようになってしまっていた……。
「こ、こんなことをしている場合じゃない! この男が来たってことは、もしかすると……あのゴリラもここに来る可能性が……」
この時、七桜璃はやっと気がついたのだった。
赤炎東子が『今なら大丈夫だからお風呂に入りなさい』といったのは、自分をはめるための罠だったことに……。
しかし、時既に遅しとはまさにこのことで……。
「おぉー! ジャングルの中に湯船とは、こりゃ良いもんだなぁ〜!」
鼻歌交じりで上機嫌の向日斑が、下半身をタオルで隠しもせず、悠々とこちらに向かってきたのだった。




