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14 全裸になると気分爽快。


「おはよう」


「おう」

 

 翌日の学校で、俺はいつもの様に向日斑むこうぶちと挨拶を交わす。

 俺が昨日出した結論は、今まで通りに向日斑と付き合っていくことだった。

 俺が親友だと勘違いさえしなければ、今まで通りでなんの問題もないのだ。


 ふぅ、親友ってどうやって作るんですかね……。そんでもって、親友だと思う奴がいたとしても、そいつが本当に親友かどうかって、どこで判断すればいいんですかね? あれか、俺の命が危険になった時に、身代わりになってくれる奴が親友なのか? でもこれだと、親友だとわかった時にはそいつ死んじゃうわけだし駄目じゃん……。

 

 俺の脳内の葛藤など知る由もなく、始業となり授業は淡々と続いていく。

 教師の黒板を書き記す音が、あまりにも機械的で眠気を誘う。あいつら、ラリホーの使い手だろ?

 周りを見回すと、数人があくびをこらえていた。まぁこの春の陽気は更に睡眠呪文の効果を倍増させるよなぁ……。しかし、クラスの他の奴らって、何を考えて生きているんだろう。世界平和とか考えちゃってるんかな? でもまぁ、あれなんだよな、俺と関わりのないやつは、俺っていう人生のゲームの中ではモブキャラ同様なわけで、なんも考えてなくてもテンプレだけ喋ってるだけでも問題ないんだよな。ってことは、この世界にいる七十億人のうちの大半がモブキャラってことになるわけだ。うあぁ、もっとキャラ削ってもいいのに、処理重くて大変そう……。

 クラスメイトをモブキャラ呼ばわりしている時点で、俺には友達なんて出来やしないだろう。うん、気がついてた、前々から薄々気がついていた。

 仕方ないじゃん! だれだって自分は特別扱いなんだよ! 自分がメインキャラじゃねえ奴なんていねえよ!

 

 そんなビックリするくらいどうでも良いことを考えいているうちに午前中の授業が終わった。居眠りしなかっただけ良しとしておこう。

 昼休みになり、俺は机から出る謎の磁力にでも引っ張られているかのように、上半身を突っ伏した。


『ふぅ……』


 顔だけを持ち上げては、スマホの画面を何度も確認する。けれどメールの着信は一つもありはしなかった。

 今日は冴草契さえぐさちぎりからのメールに怯えなくていいな、と安堵の息をつく――よりも、世界中で俺一人だけが誰とも繋がりがないのではないかという孤独感が襲ってきた。

 メールのなかった時代は、こんなこと考えなくても良かったんだろうな。通信機器の発展がボッチをより際立たせてしまうとは……。恨むぞ科学技術!


「どした? スマホ見つめたままブツブツ言って」


 向日斑がいつものように、バナナを一房腕に抱えて俺のところにやってきた。

 

「スマホと喋りたくなる時もあるんだよ」


 俺は身体を倒したまま、顔だけを向けて受け答えをする。


「ほお、俺はないけどな。お前もバナナ食うか? 身体に良いぞ?」


 そう言って、向日斑は俺の机の上にバナナを一本置いた。

 あいつなりの気遣いと優しさなのだろうか。


「ありがとな、お前の大事な食料を分けてくれて」


「大丈夫だ、今日は何と……」


 向日斑は自分の鞄をがさがさと漁ると……。


「もう一房あるからな!」


 なんと、新たなバナナが顔を出したではないか。お前の鞄はバナナ入れか!

 きっと、こいつの主食は米ではなく、バナナなのではないだろうか。タンザニアとかの国の人ですか!

 俺は身体を起こしてバナナを頬張った。ゴリラご推薦のバナナはとても美味かった。

 


 結局、放課後になっても、メールが来ることはなかった。

 ということは、桜木姫華さくらぎひめかは、今日俺に電波テレパシーを送らなかったことになる。

 まぁ、あれだ、そんな日もあるだろうさ。むしろ、電波テレパシーを送る日がある方がおかしいんだからな。

 もしかしたら、昨日までのは事は全部ドッキリで、俺は完全に騙されているのではないだろうか? そんな思いがふと頭をよぎったが、あの桜木姫華の純真な笑顔が嘘だとするならば、あいつはきっと大女優になれるだろう。それに、俺を騙してなんの特があるというのか。

 

 もう考えるのはやめた。

 思考を停止して俺は帰り支度を始める。


「お前今日も用事あるのか?」


 俺は向日斑に尋ねた。


「お? なんでわかるんだ? お前エスパーなのか?」


「まぁな」

 

 俺は笑った。



 明日からゴールデンウィーク。四連休だ。

 勿論、俺のスケジュール帳は真っ白。ってかな、スケジュール帳なんてもってねえよ! 書くこと無いからな!




 ※※※


 ゴールデンウィーク初日。

 母親から単身赴任の父親のところに会いに行こうと誘われる。が、俺は嫌だと突っぱねた。

 ああ、俺の親父は単身赴任をしている。今まで食事風景に全く出てこなかったのはそういうわけだ。

 普通ならば、単身赴任先から帰ってくるのが筋なのだろうが、仕事の調整が取れないとか何とかで、戻ってこれないようだった。嬉しい事だ。

 いや、俺は親父のことが嫌いなわけではない。嫌いではないが好きでもない。一緒に過ごしたいなんてことは微塵も思ったりしない。家に親父が居ていいことなんてなんかあるのか? 仲良くキャッチボールでもするのか? 御免こうむるわ。

 母親はヒステリー気味に、俺が親父の所に行かないことを攻め立てた――が、疲れ果ててすんなりと諦めた。流石に母親である、自分の息子が説得の通じる相手であるかどうかよく心得ている。

 こうして、母親を見送った俺は、完全に一人っきりのゴールデンウィークを過ごすことになったのだ。


『わぁい、久遠くおんひとり大好きー!』


 これで、エロ動画をこそこそ隠れてイヤホンで見る必要もなくなったわけだ。

 さようなら、母親の足音に怯える日々!

 問題は飯だが、そんなものレトルトでも、冷凍食品でも、何でも気にしない。だって俺ってば現代っ子だもの。自炊とか面倒臭いことはしない。ってか、出来ない。料理がデキる男はモテるとか聞いたことがあるが、きっとイケメンに限るっていう注釈がついてそうなので無駄な努力なんてしない。

 

 こうして、怠惰の境地を極めた俺のゴールデンウィークがスタートしたのだ。

 俺は取り敢えず全裸になって、リビングで歓喜の踊りをひとしきり踊った後、喉が渇いたので牛乳を冷蔵庫から取り出して、胃の中に流し込んだ。むろん、全裸のままでだ。

 そんな全裸ヒャッホーの最中にスマホから着信音が流れだした。


「え……」


 その怠惰祭りをストップしてくれやがったのが、忘れた頃にやってくる冴草契からのメールだった。

 

『明日、午後一時に駅前に集合。秘密結社FNPの第一回活動を始めるらしいよ……。異種族との電波テレパシー実験だとか何とか言ってた……。あぁ、姫がだんだんおかしな子になっていく……。神住かみすみ! あんたのせいなんだからね!』


 メールから冴草契の苦悩が感じ取れた。が、何でいつもいつも俺のせいになってんだよ! 

 俺は急いでメールの返事を書く。あいつ返事遅いとガチで切れるからな……。

 勿論、全裸でメールを書いた。全裸で書いたメールを女子に送るというシチュエーションに興奮している俺は変態でしょうか? 違いますよね、健全な男子なら普通ですよね?

 送信ボタンをチンチンで押してやろうかという、変態チックな考えも頭をよぎったが、さすがにそれは超えてはいけないラインを超えてしまっているだろうと判断してやめておいた。


『わかった。でも、その異種族なんとかって、何するの?』


 俺の全裸メールはちゃんと届くだろうか?


『知らない。当日までの秘密とか言って、私にも教えてくんないから。兎に角、ちゃんと時間に遅れないように来るように、遅れたらわかってるよね?』


 いつもの威圧的メールも、全裸で受信すると余裕綽々になるのは何故だろうか?

 俺は明日、いっその事全裸で行くべきなのかもしれない……。


『わかりました。明日よろしく』


 と、簡潔にメールの返信をすると、もうそのあと冴草契からメールが来ることはなかった。

 全裸はさておき、何をするかはわからないが、女の子二人と休日にお出かけをするわけなのだから、いくらかお洒落をするべきかも知れない。

 俺は自分の部屋へと駆けこむと、衣装棚からありったけの服を取り出した。

 そこに並んだ、野暮ったい洋服たちを眺めて、自分が今までお洒落に全く興味がなかったことを悔いたのだった。

 


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