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133 夏休みは別荘で。

 気がつけば大所帯になったもので、今俺たちは九人で下校している。やろうと思えば野球ができてしまう人数だ。やらんけどな。

 数カ月前は、俺一人で買えるのが当たり前だった。それからゴリラの向日斑むこうぶちが増え、その後に桜木さくらぎさんと冴草契さえぐさちぎり、そんでもって向日斑の妹の花梨かりんに、セレスと忍者。んでもって、今日から蛇紋神羅じゃもんしんらと、禍神かがみくんが加わったわけだ。

 先頭に俺とセレスが横並びで、その後ろに忍者……んでもって、忍者にまとわりつこうとしているところを、花梨に力ずくで止められている向日斑。そして百合カップルの、桜木さんと冴草契。そのさらに後ろに、蛇紋が禍神くんの細腕に鞄を持たせて偉そうにふんぞり返りながら歩いていた

 

神住かみすみ様、もう夏休みなりますわよね?」


 セレスが俺の腕にしがみついたまま問いかける。


「ん? あぁそうだな」


「ご、ご予定はお有りでしょうか?」


「予定? うーん」


 俺は夏休みの予定を頭のなかで巡らせてみる。

 家でゲーム、家でネット、家でアニメ鑑賞&ラノベ読書。

 びっくりするくらいにインドアな予定しか存在していない。ってか、これは夏休みでなくても全部出来てしまうことだ。

 

「もし、ご予定が開いているようでしたらば……わたくしの別荘に行くというのはどうでしょう?」


「べ、別荘!?」


 別荘。ああ、なんて素敵な響きを持つ言葉だろうか。

 

 ――ちょっと、休みは別荘でバカンスなんだ。


 そんな台詞は、某猫型ロボットにでてくる、特殊な髪型をしたキザ男くらしか言わないものだと思っていたのに、まさか耳にすることがあろうとは、感動すら覚えてしまいじゃないか。


「はい。プライベートビーチもあるんですのよ? も、もしよろしければですけれども……」


 セレスが少し目を潤ませて上目遣いで語りかけてくる。

 俺はその言葉の意味するところを察するのに少しの時間を要してしまった。

 そう、プライベートビーチがあるイコール、水着姿を披露する事を意味しているのだ。

 セレスの水着姿……。お胸は少しばかり可哀想な感じではあるが、スラリと伸びた足と腕、そしてビーチの潮風になびく金髪ツインテール。うむ、悪くない。いや、悪く無いどころかとても良い!!


「うん……いい、凄くいい……」


 俺は思わず心の中の言葉を素直に声にだしてしまっていた。


「ほ、本当ですの? それならば、予定が決まりましたら、すぐにでもお迎えに参りますわ」


 セレスは俺の腕を一層強く抱きしめる。そしてセレスの心の中を現すように、金髪ツインテールが散歩に呼ばれたワンコの見たいに、大喜びでピョコピョコと激しく上下に動いていた。

 

「聞いたぞー聞いたぞぉー聞こえたぞー! 別荘? 海? 行くー! はいはーい! 花梨も行くー!」


 花梨は向日斑の背中によじ登りながら、両手を大きくあげて別荘に行きたいことを猛烈にアピールしていた。

 

「わ、わたくしは、あなたを誘ってなどいませんわ!」


「えぇー! お金持ちのくせにけち臭いぞー!」


 花梨は向日斑の背中をカタパルトのようにしてジャンプをすると、セレスの真横に綺麗に着地を決めた。


「どうして、わたくしがあなたを誘わなければいけないんですの?」


「えぇ〜友達でしょー?」


「友だちになった覚えはありませんわ!」


「花梨はあるけれど!」


「わたくしはありません!」


「ぶーぶー! 久遠もなんか言ってやってよ~!」


 花梨は俺の腕をセレスから奪うと、わざとらしく胸を腕に押し付けてきた。

 これだ! これだよ! セレスのお胸では味わうことの出来ないこの感触! この柔らかくもあり、押し返してくるような弾力性……まさに至高の存在! これこそオッパイ! ビバオッパイ! オッパイのオッパイによるオッパイのための何かしら!!


「いやぁ、まぁ大勢で行くのも楽しいんじゃないのか?」


 鏡を見なくてもわかる、俺の鼻の下はかなーり伸びきってしまっている。


「か、神住様まで……。わ、わたくしは神住様と二人っきりで……」

 

 セレスはプイッとソッポを向くと、両手を組みながら、人差し指同士を顔の前で突き合わせて、ゴニョゴニョと最後の言葉を濁らせていた。

 

「えぇ〜。大勢で行ったほうがきっと楽しいよー! それに、花梨の水着姿は凄いよ? もう、久遠なんてノックアウトしちゃうよ?」


 花梨の言葉に、即座に俺は脳内で花梨の水着姿をシミュレートする。うむ、砂浜を駆けまわり、プルンプルンと揺れるオッパイ、お尻……それはもう楽園と言って良いのではないだろうか? そして、花梨は俺に向かって『サンオイル塗ってよー』なんて事を言いだな、俺はヌルヌルとした液体を花梨の身体に……。

 と、ここまでシミュレートして少し鼻血が出そうなってしまった。

 

「だ、だから余計にダメなんですのよ! そんなの……お、お胸ではわたくし勝てませんもの……ぐぬぬぬ」


 セレスは、自分の胸を両手で隠すようにして弱気になって下を向いてしまった。

 どうやらセレスも自分で自分の身体のことはわかっているようで、お胸がささやかなサイズであることは、コンプレックスのようだ。

 うん、安心しろ、後ろにいる冴草契に比べれば、お前は十分オッパイがある方だぞ? まぁ五十歩百歩ともいわなくもないけれども。

 その俺の思考を読み取ったのか、突如として後頭部あたりに、殺気を帯びた視線が突き刺さる。

 もちろんその視線の主は、冴草契だ。あいつはきっと、胸というワードが出ただけで、敏感に反応するようにできているに違いない。悲しき貧乳の運命さだめよのぉ……。

 

「ちーちゃん、怖いよ! 顔怖いよ? ねぇねぇどうしたの? どうしちゃったのぉ?」


 横にいる桜木さんが、俺に向けられた殺気の余波を食らったらしく、ビクっと半歩飛びのいた。

 

「え? あれ、今わたしそんな怖い顔してた? あれれ、おかしいなー」


 冴草契は表情を取り繕うと、桜木さんに笑顔を向けた。


「きっとあれだね。ちーちゃんも、セレスさんの別荘に行きたいんだね?」


「えっ? 姫、何をどうするとそうなるの?」


「うんうん、行ってみたいよねー別荘。良いよねぇ別荘、憧れるよねー」


「いやいや、姫ってば、わたしそんなこと全く思って……」


 そう言いかけた冴草契の言葉を、桜木さんは口の前に人差し指を立ててシーッと押しとどめた。


「もぉ、ちーちゃんは素直じゃないんだから。よし! わたしから、セレスさんにお願いしてあげるからねぇー」


「え……あの……うん、もうそういう事でいいよ……」


 冴草契は何かを察したかのように、口をつぐんでしまった。

 冴草契ではないが、俺もなんとなく察することができた。どうも、別荘に行きたくて行きたくてたまらないのは、桜木さんの方なのだ。それを冴草契をだしに使うことによって話を進めようと言う……桜木さんなにげに策士だな……。

 

「もぉ、なんでこうなってしまうんですの……」


 セレスは頭を抱えていた。


「となると、向日斑お前はどうするんだ?」


「な、七桜璃なおりさんが、行くんだったら俺も行く! どうなんですか七桜璃さん!」


「……」


 忍者こと七桜璃は答えなかった。

 勿論、セレスが行くのだから確実に忍者は付いて行くだろうが、今ここでそう答えてしまったら……忍者は女装のまま別荘に行くことになってしまう。下手をすれば、水着姿にもなることに……。

 忍者の水着姿……。あれだろうか、流石にビキニなんて着た日には……モッコリしてしまうんだろうか……。気になる、気になって夜も眠れない。


「な、七桜璃は用があるので、別荘には……行けないんですのよ。ねぇ七桜璃?」


「は、はい!」


 セレスが絶妙のタイミングで助け舟を出した。その言葉に、忍者は心底感謝しているようだった。

 

「もぉ、お兄ちゃん、七桜璃さんが行こうが行くまいが、可愛い妹が行くんだから付いて行くのは決定に決まってるでしょー!」


「お、おう……」


 忍者が行かないと聞かされた向日斑の凹みっぷりは半端無く、巨体を誇る向日斑の身体が小さく見えるほどに肩を萎めていたのだった。

 

「はぁ……。結局、二人っきりで過ごす夏休みの計画はパーになってしまいましたわ……」


 セレスが大きなため息を一つこぼす。

 けれど、俺の目には心底嫌がっているようには見えなかった。

 なんやかんや言っても、セレスもこのメンバーでの珍道中を楽しみにしているに違いないのだ。

 こうして、俺たち七人は夏休みにセレスの別荘に行くことになったのだ。


「うむ、さっきから俺が会話に入っていないように思えるのは気のせいだろうか? どう思う禍神?」


 この場にいる全員に聞こえるようなボリュームで、わざとらしく言ってのけるのは蛇紋神羅だった。


「あ、はい……。わたしにはそれは少しわかりかねますので……」


「さぁみんな! この蛇紋神羅を別荘に誘うが良い! さぁさぁさぁ! 特別に参加しようではないか!」


 無礼千万。この言葉がこれほどまでに似合う男が居ただろうか。

 勿論、この言葉に反応するものは誰も居なかった。

 それ以前に、桜木さんからすれば、この蛇紋神羅という男は初対面なわけで、何故一緒にいるのかすらわかっていないことだろう。

 

「どうした! どうして黙っているのだ! さぁ誘うが良い! 遠慮などせずともよいのだぞ!」


 どうやら禍神くんは状況を理解してくれているようで、周りのみんなに対してコメツキバッタのように『すみません、すみません』と頭を下げ続けていた。

 

「何故だ! 何故何も言わんのだァァァァ!」


 こうして、蛇紋神羅を無視しつつ、俺たちは数日後の夏休みに向けて、心を躍らせるのだった。


「なぜだァァァァァァァァっァァァァァ!」


 蛇紋神羅の絶叫は、誰のリアクションも貰うこと無く、ただ空に消えていくのだった。


これにて、第一部『一学期編』は完結です。

番外編を数話経て……。

ドキッ! ポロリもあるよ? 夏休みバカンス編!

に突入いたします。

これからは神住久遠の一人称視点から、いろいろな視点へと変化していきますが、ご了承くださいまし。

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