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118 謎のイケ㍋


 大魔王からは逃げられないように、空手バカ一代女からも逃げることは出来ない。いや逃げるという行為を選択することすら許されないのだのだ……。

 俺は心の中で涙を流した。

 ああ、ギャルゲーのように三択の選択肢を選ぶことが出来たならば……。それどころか今の展開は、選択肢すら出ない一本道の鬱ゲーだもんな……。


「という訳だから、行くわよ!」


「は? ちょっと待ってくれ。行くって、今からなのか?」


 俺は倒れたままの状態で尋ねた。


「そうよ? 何か問題でも?」


 これは一見疑問形のように語尾が上がっている口調だが、疑問形ではない。ここで問題があるなどと答えたならば、鉄拳制裁は免れないのだ。

 なので、俺がここで選ぶべき道は、引きつり笑いを浮かべたまま立ち上がり、この暴力女帝に従うしか無いのだった。


「急がないと、金剛院こんごういんの奴もやってくるかもしれないしね。アンタも、アイツに見つかると色々面倒でしょ?」


 色々面倒になるように仕向けたのは誰だよこの糞野郎! と、心の中で三度呪文のように繰り返した。

 俺とセレス、二人の関係と気持ちを確かめようという時に、何故俺はこの暴力女帝とデートをしなければならないのか……。世の中ままならなさすぎだろ!

 いや待てよ……。こんな暴力に屈していいのか? 俺とセレスの愛は、こんなものに負けるようなものなのか? 今ならばまだ間に合う、勇気を出して『俺はこんな茶番には付き合えない! 勝手にデートでも何でもやってくれ!』と、言い放ってしまえばいいのだ! 身体の痛みなんて、心の痛みに比べれば一瞬だ。


「あのさ、冴草契さえぐさちぎり……俺やっぱり……」


「はぁ? なんか言った?」


 周囲の猛獣を一瞬で黙らせるようにな眼光が、俺の決意に満ちた身体と心を瞬時に貫いて粉砕した。


「何でもないです……」


 あれだ、身体の痛みって入院とかしたら、延々と続くわけで……うん。やっぱり健康って大事だよね! 僕チキンじゃないよ! だれだって自分の身体がかわいいんだよ! それが人間って生き物だろ!

 と、自己弁護をひとしきり脳内で終えると、俺はすごすごと冴草契の後についていった。


 ――すまない、セレス……。俺は悪い彼氏(仮)です……。



 ※※※※


「それじゃ、作戦を説明する!」


「お、おう」


 俺と冴草契は駅前商店街のビルの路地裏にて待機していた。

 

「わたしはこれから、ターゲットとショッピングと食事をすることになる。そこに神住、お前が偶然を装って乱入する。そして『俺の彼女になにしてるんだ!』等と因縁をつけて、その男を排除してくれ」


「……」


「どうしたのよ?」


 あまりにも穴だらけのガバガバ作戦に、俺は頭が痛くて立ちくらみがしそうだった。この女、脳みそまで筋肉で出来ているのではないだろうか……。


「取り敢えず、これつけて」


 と言って、冴草契が俺に手渡したのは、どこぞのメンインブラックがつけていそうな、怪しさ満点のサングラスだった。


「これをつけてどうしろと……」


「いや、アンタだって正体ばれたくないだろうから、一応変装をと思って。やさしいでしょわたし?」


「……」

 

 これがまだ私服ならば、少しはマシなのかもしれないが、こちとら下校中だ。つまりは学校の制服でサングラスって……。おっと、つい先日学校の制服に、忍者の仮面をつけた変態が居たようだが、そんな事はもう記憶の中から消去されていた。黒歴史はすぐさまイレイザーするべきなのだ。


「それじゃ、そろそろ待ち合わせの時間だから、わたし行くね」


 冴草契は、デートの待ち合わせ場所だという、駅前にある伝説の魔獣グリフォンをモチーフにしたという銅像に向かい走っていった。なんでそんな銅像があるんだ? との突っ込みがあるとおもうが、実際にあるんだから仕方がない。これは、町の名所とするために、この町の町長がわざわざ作らせたらしいのだが、町長はきっと、いまだに心に中学二年生が息づいている好人物に違いない。

 ここで俺は気がつくべきだったのだ。


 ――あれ? 冴草契がデートに行かなければいいだけのことなのでは……。


 そうなのだ。別にデートなんてぶっちしてしまえばいいのだ! まぁ、相手の男は涙にくれるかもしれないが、そんなこと、あの暴力女帝からすれば大した事ではないはず……。なのにどうして、あの空手バカ一代女は馬鹿正直にデートに向かっていったのか? 馬鹿なのか? 毒電波にでもかかっているのか?

 ともあれ、もはや走りだした馬鹿は止められない。止めてもきっと殴られる。

 冴草契は、グリフォン像のところまで行くと、辺りをキョロキョロと忙しく伺いながら、そわそわと相手が来るのを待っていた。

 俺はその姿を物陰から伺い見ると……心を決めた。

 

「よし、帰ろう!」


 走りだした馬鹿はもう止めれれないが。俺は今すぐ帰宅をするという方法が残されているのだ。この間合ならば、冴草契の拳も飛んでくることはない。まぁ、花梨の《ソニック・トルネード・ストライク》のような、必殺技を持っていたならば、間合いの範疇かもしれないが、た、多分大丈夫だろう……。

 しかし、帰る前に冴草契にデートを申し込んだという、命知らずの大馬鹿野郎の顔を見てみたいという、好奇心がむくむくと沸き上がってきた。それ以上に、あの冴草契が男相手にドキマギする姿を見てみたいという気持ちもあったということも付け加えておこう。


「うむ、乗りかかった船だ。その船に乗る気はないが、出発するギリギリまでは船の中を楽しんでやろうじゃないか……」


 そう心を決めると、俺は待ち合わせ相手が来るのを今か今かと待ちわびた。

 冴草契がギコチナイ動きを繰り返すのを、眺めること数分。

 遂に、冴草契のデート相手と思われる人物がやってきた。

 

「なんと……普通に良い男じゃないか……」


 俺は驚愕した。

 やってきた男は、スラリとした長身で、細めのフレームのメガネをつけた秀才風イケメンだったのだ。しかも、あいつの背景だけやけに少女漫画チックに見えるのは何故だろう……。おい! 作画スタッフ間違えてるんじゃねえの! 花とか背負わせてんじゃねえよ!

 うーむ、あの少し尖った感じの顎もいかにもといった感じだ……。

 これで『やぁ、待ったかい?』なんて、手を振り上げて爽やかに言おうものならば、普通の女子ならば大喜びするところだろう。だが、相手はあの冴草契だ、そんな普通の女の子のような返しをするはずもない。


「やぁ、待ったかい?」


 なんと、そのイケメン眼鏡は、略称イケ㍋は、俺の予想通りの台詞をほざいたではないか……。

 さて、我らが暴力女帝はどのような返しをするのか、オラわくわくしてきたぞ……。


「え、あ、あの……。わたしもいま来たところだよっ。え、えへへ」


 冴草契はイケ㍋と目が合うと、魔法にかかったかのように頬を赤らめた。そして、恥ずかしさあまりイケ㍋を直視することが出来ずに、斜め下四十五度に視線を外して言ってのけたのだ。


「は……? なん……だと……」


 俺は夢でも見ているのではないかと頬を強くつねった。

 痛かった。

 つまりは、これは夢ではない。

 あの、あの冴草契が『えへへへ』だと?!

 どうしたんだ、あのイケ㍋の眼鏡から催眠光線でも出ていて操られでもしているのか!? まさか、あのイケ㍋はギアスの使い手で、絶対遵守の力が発動しているのか!

 

「というか、あんなに嬉しそうにしているのなら、余計に俺が彼氏を装って邪魔をする必要なんて無いんじゃないだろうか……」


 そんなことを思っているうちにも、二人は談笑を初めて、歩き出したではないか。しかも、よく見てみれば、二人は手を繋いでいる!?

 おかしい、話が噛み合わない。

 そう言えば、前に相談された時に冴草契が『なぜか、そいつの話に乗せられて、断ることが出来ない』ふうなことを言っていた。それが、俺の胸につっかえ棒のようにひっかかっていた。

 そして、今の状況。

 冴草契は、ガチの百合であり。本気で桜木姫華さくらぎひめかを愛していたはずだ。しかもその愛は小さいころから延々と培われたものなのだ。それなのに、こんなパッと出のイケ㍋に、心を奪われるはずがない。少なくとも、俺はそう思っている。

 ならば、この状況には裏があるに違いない……。何かが、何かが隠されているのだ。そう、俺の心に宿る中学二年生の獣が叫んでいる……。

 

「よし、やってやろうじゃないか!」


 俺はスマホを手に取ると電話をかけた。


「あ、母さん。今日は夕飯いらないから、うん、帰るの遅くなりそうだから」


 家にきちんと電話をする俺ってば偉い。

 こうして、俺の備考はスタートしたのだった。

 見ていろ、謎のイケ㍋よ、キサマの秘密は俺が絶対に暴いてみせる! まぁ、秘密があるのかどうかしらんけどなっ!!


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