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116 呪い?


 おかしい、何かがおかしい。

 普通ならば、セレスの許嫁の事を一番に考え悩むのが、正しい主人公のあり方だろうに、どうして俺は、忍者の足の指に興味が行ってしまっているのだろうか……。

 さらに、桜木さくらぎさんからも告白されているわけなのに、これは一体……。

 普通ならば、ここで三角関係がうんたらかんたらに突入するのが、正しい学園ラブコメではないのだろうか? 

 そんなことを考えながら、俺が学校に向かう準備をしていると、スマホにメールの着信が一件。


『ねぇ、あの後どうなったの?』


 それは、冴草契さえぐさちぎりからのメールだった。

 昨日は途中で挨拶もなしに逃げやがって……。しかし、そのお陰であの後のゴタゴタ話を聞かれないで済んだのだから、不幸中の幸いと言ったところだろうか。

 さて返事だが……。


『別に何もなかった!!』


 と、送り返しておいた。

 どう考えても隠し事をしているとしか思えない文面だと自分でも分かった。最後につけた《!!》が余計にそれを強調している。

 しかし、それはメールを送る相手が普通の人間だった場合だ。俺がメールを送る相手は冴草契なのだ。

 するとすぐに、


『ふーん、そうなんだ』


 との短い返事が帰ってきた。

 そうなのだ。冴草契は俺に関する面倒事になど関わりたくないので、何も無いと言ってんのなら、そういうことにしておいてスルーする気満々なのだ。

 もしこれが、桜木さんの絡む問題ごとならば、俺の首根っこをひっ捕まえてでも問いただしてくるに違いないのだが、悲しいかなこの問題ごとの中心は俺なのだ。糞ゴミ扱いの俺に、そんな感心を寄せてくれるほど、この女は慈愛に満ちてはいないのだ。

 まぁこれは仕方がない。

 俺だって、興味のない人間からのメールは出来る限りスルーするだろう。全部の人間に関わって生きていたら、時間がいくらあっても足りないし、命だって足りないだろう。取捨選択をきっちりしないで生きていけるほど、人生とはゆとりのあるものではないのだ。

 


 ※※※※


 学校の教室で俺は悩んでいた。

 向日斑むこうぶちに、許嫁関連の話を相談すべきか悩んでいた。

 勿論、忍者関連の話は話す気はなかった。面倒なことになるのがわかっていたからだ。

 果たしてこのゴリラに、許嫁問題を話すべきか……。


「うん? どうしたんだ神住」


 気の回るゴリラである向日斑は、俺の様子がおかしいことを察したようで、向こうから声をかけてきた。

 

「なぁ、これはもしもの話なんだが……。もし、自分の付き合っている相手に、許嫁が居ることがわかったらどうする?」


 俺の質問を聞いて、向日斑のこめかみに三本の青筋が浮かび上がる。


「な、なんだと……七桜璃さんに許嫁だと……。どこのどいつだ! その不埒者は! 俺が今すぐに原子に分解してやる!」


 向日斑は分厚い胸板をドラムのように殴りつけながら、怒気と殺意の篭った雄叫びを上げた。その声に、騒然とした会話が続いている教室が一気に静まり返り、クラスメイト全員の視線がこちらに注がれる。


「ま、まぁまぁ落ち着け向日斑。もしも、もしもの話だから……」


「ウホ……ウホォ……」


 向日斑は、口からフシュルフシュルと、暗黒魔界の魔素を帯びたような息を吐き出しながら呼吸を落ち着けた。数分を経て、やっとのことで向日斑は、暗黒魔界のゴリラ魔王から、人間とゴリラのハーフレベルまで戻ることが出来た。


「ふ、神住も人が悪い。もしもの話にしても、例えが悪すぎるぞ。それに、七桜璃さんに許嫁が居るわけがないだろう。許嫁がいるのに、俺に愛の告白なんてするわけがないんだからな、が〜っはっはっは!!」


 向日斑は豪胆に笑い飛ばした。

 なるほど、これが好きな女に許嫁がいた場合の一般的男子の取る行動というものなのか……。

 そうかー原子分解しちゃうかー。俺の力でそんな高レベルの魔法習得できるかなぁ……。

 ――って! これが普通であってたまるか! 質問した俺が馬鹿だった。向日斑に質問したところで、世間一般的な答えが返ってくるわけがなかったのだ。むしろ野生のゴリラに聞いた方がマシなレベルに違いない。

 しかし、行動のレベルは無視するとして、彼女に許嫁がいた場合、普通の男子ならば怒り狂うものらしい。俺はあの時、怒り狂っただろうか? そこまで強い負の感情を、あの変態男に対して抱いただろうか?

 さらに、向日斑はもう一つ良いことを教えてくれた。


『許嫁が居たならば、他の男に好きだと告白するわけがなない』


 確かにそうだ。とすると、セレスは許嫁が居ることをつい最近まで知らなかったのかもしれない。これは、セレス本人に問いただすしか無いだろう……。


「相談に乗ってくれて、ありがとうな」


「おう。気にするな。しかし、何でそんな質問したんだ?」


「いや、あの、その、気にすんなよ!」


「おう! 気にしないぞ!」


 向日斑は笑顔で親指を立ててポーズを決める。

 俺は向日斑のこういうサッパリとした性格が好きだ。

 あ、あれだぞ! 好きだっていうのは性格のことであってだな、恋愛感情ではないんだから! って、俺誰に向かって話しかけているんだ!!


 俺は自分の邪念が吹き飛ぶように、机にガンガンと頭を叩きつけだした。頭が痛いことなどこの際どうでもいいのだ!!


「ど、どうした? さっき以上におかしな感じになっているんだが……」


「い、いや、何でもない。ほんとーになんでもない!」


 俺は頭から血を流しながら、全力全開の作り笑顔で返してみせた。


「そ、そうか……。お大事にな……。まぁ、バナナでも食べて元気出せ」


 向日斑は俺の机の上にバナナを一本置いて自分の席に座り直した。

 太くて長いバナナ……。

 違う違う違う! バナナから変なことを想像したりなんてしてないな! なんだこれ!? あの夢を見てから俺おかしいぞ! あきらかにおかしいぞ? 誰か俺に呪いでもかけているのか? あ、あれか、蛇紋じゃもん家には魔導師でも居て、俺に呪いをかけているのか!? 超能力者が居たのだから、あながちあり得ないと言い切れないところが怖い……。


 兎に角、放課後セレスに会ったら聞いてみよう。

 


 ※※※※


 そして、放課後……。

 セレスはいつもの様に、校門前で俺の前に姿を現したのだった。

 

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