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115 変態の夜明け。


「ねぇ、神住……。ボクの足って綺麗かな……」


 忍者が照れくさそうに右足を俺の眼前に差し出す。


「おいおい、綺麗とかそういうレベルじゃなくて、これはもうルーブル美術館に展示すべき世界的遺産レベルだぜ……」


 何を言ってるのかわからないと思うが、安心しろ俺もわかっていない。ただ、目の前にある真っ白で汚れのない忍者の足に、俺の思考と視線は釘付けになってしまっているのだ。

 

「えへへへ、そこまで言われると、流石に照れるだろ。馬鹿……」


 忍者は艶かしく足を組み替えてみせる。

 俺はその動きを、まるで猫じゃらしに弄ばれる猫のように、必死になって追いかけた。

 ここは俺の部屋のベッドの上。

 そこに、何故か忍者はセクシーな忍者装束で、ベッドに腰掛けて俺を挑発しているのだ。

 何故こうなったのか? その俺の思考を停止させるかのように、忍者は可愛くウィンクをした。

 

「ウォッ!」


 そのウィンクは俺の脳内に入り込み、俺の人格すべてをハッキングしていくかのように狂わせる。

 ハァハァハァハァハァハァ……。忍者のきれいな銀髪……。忍者のきれいな脇、忍者のきれいな足、忍者の小さい唇。

 わかっている。男の子だということはわかっている。わかっているのになんだろうか、この俺のリビドーを突き動かすものは……。

 しかし、俺はもう気がついている。とっくの昔に気がつてしまっている。

 あり得ない、あり得ないのだ!

 忍者が俺の向かってウィンクする事も、俺のベッドの上に腰掛けて足を組み替えることも、それどころか俺を挑発するようなことを言うことも……。

 つまり……


『これは夢なのだ……』


 しかし、一夜の夢であっても、今の俺にとっては至福の時間であることに違いはない。夢でも夢の中の間は現実なのだ! ならばそれを目一杯楽しんでこそ男ではないだろうか! ――って何言ってんだ俺!?

 

「どうしたんだ? ボクの足の指……舐めたくないのか?」


 忍者が少し拗ねたように、足を引っ込めて体育座りをしてしまう。


「はっ!? 舐めたいです! ペロペロしたいです!」


 夢の中のせいか、俺の欲望はだだ漏れ状態だ。


「ふ〜ん、でもやっぱり男同士でこういうのはおかしいよな?」


「……おかしいか、おかしくないかで言えば、おかしいだろうな……」


「だよね。――だから、やめておこう」


 やめる? なにを? ペロペロを?

 忍者は立ち上がって、いつもの様に窓から帰っていこうとする。


「待て! 待つんだ! おかしいかおかしくないかで言えば確かにおかしい! しかし、俺の魂が忍者の足の指をペロペロしたいと叫んでいるのだ! この魂の叫びは誰に求めることが出来ないのだ! ゆえに、俺はペロペロするのだっ!」


「あっ……」


 俺は忍者を押し倒す形で上に覆いかぶさった。

 流石夢、普通ならこんなに簡単に忍者が俺に押し倒されるわけがない。現実ならばカウンターで攻撃を腹に入れられて、胃液を逆流させているに違いない。

 さぁ、俺の求める忍者の足は直ぐ目の前にある。

 さぁ、小指からか? 人差し指か? どれから行く? ふぅ……目移りしてしまうぜ……。

 忍者は観念したかのように、目を閉じて身動き一つせずに、俺が指にむしゃぶりつくのを待ち構えていた。

 

「違う……」


「え?」


「違う! 俺の求めているものはこんなものじゃない!」


「神住、お前何を言っているんだ……?」


「俺の求めるものは、こんな高尾山レベルの容易さではないのだ! そう、チョモランマレベルの険しい道程の果てにあるガンダーラなのだ!」


「あ、頭大丈夫か?」


「たとえ夢の中とはいえ、こんな容易く実現できてしまってはいけないのだ!!」


 俺はすっくと立ち上がり、拳を頭上へと掲げた。

 

「俺の求める忍者の足の指とは、果て無き研鑽の末、血と汗を流し尽くした先に辿り着ける至高の場所でなくてはいけないのだ!!」


「あ、はい……」


 忍者は、口をポカーンと開けて、俺の演説を聞いている。

 達成感の無い成果などに、何の意味があろうか! そんな事を、夢の中で叶えてしまって何とする!

 

「見ていろ忍者! 俺は現実世界で、実力によってお前の足の指をペロペロしてみせるぜ!」


「な、なんて……一見男らしい風のゴミクズ糞野郎発言なんだ……。神住、お前は天才的な変態だよ……」


「へっ、褒めるんじゃねえよ! ほら見ろ! 変態の夜明けだ……」


 俺と忍者を、大きな大きな変態の太陽が照らし出したのだった。


 ……

 ……………

 …………………………


 というところで朝になり目が覚めた。


「う、う、ウワァァァァァァァァァァっァァァァァ!!」


 自己嫌悪の塊となった俺は、目を覚ますやいなや部屋中を駆けまわった。

 

「恥ずかし恥ずかし恥ずかし恥ずかし恥ずかしぃぃィィィ。なにが変態の夜明けだよ! 何がガンダーラーだよ! アホか? 俺はアホでなおかつ変態なのか!?」


 穴があったら入りたいとはよく言うが、地殻を掘り抜いてブラジルまで行ってしまいたい気分だ。

 

「落ち着け、落ち着くんだ俺。俺は変態じゃない。俺はホモじゃない。そう、変態でもホモでもないんだ」

 

 そんな時、俺の脳裏に忍者のスラリと伸びた真っ白に透き通る足が浮かび上がってきた。

 

「違うちがーーーーうっ!」


 俺は頭を大きく左右に振って、邪念を吹き飛ばそうとした。

 

「俺は男の子が好きなんじゃないんだ! そう、忍者が好きなだけなんだ! それはきっと、恋愛感情とは違ってだな……なんて言うんだろう、そのあの……わからんわァァァァ!」


 下の階から、母親の怒声が響き渡るまで、俺の葛藤は続いたのだった。


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