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11 勢いで喋った次の日の朝は、恥ずかしさと後悔でもだえ苦しむ。



「超能力研究会って言うと、まさか、まさかですけど超能力を研究したりするんですか……」


 俺は口内のコーラを胃袋の奥深くに流し込むと、我ながら頭が悪いと思う質問を投げかけた。


「え?」


 桜木姫華さくらぎひめかは眉を少しひそめ顎に右手の人差指を当て、思案を始めてしまった。あれだろうか、今の『え?』は、この人脳みそあるのかしら? もしかしたら月曜の燃えるゴミの日に出してきちゃったのかもしれないわね。なんて思われているのだろうか。


「研究……は、しないかもです」


「え? しないの?」


 予想外の返答に、俺は口をあんぐりと開いてしまった。俺の可愛い喉ちんこが丸見えになっていることだろう。


「ねぇ、ちーちゃん、私たち研究とかするのかなぁ〜?」


 桜木姫華は、助け舟を求めるような眼差しを隣で烏龍茶を飲んでいる冴草契さえぐさちぎりに投げかける。その問いかけに、烏龍茶を飲んでいた冴草契の動きがピタッと静止する。


「え? わ、私? 私なの!? 私に聞いてるの?」


 お前以外に『ちーちゃん』が何処に居るのか。居もしない他のちーちゃんを探すかのように、冴草契は店内を見渡してみる。勿論『ちーちゃん』はこいつだけだ。


「そ、そんなこと私に聞かれても……」


 途方に暮れたこの女は、なんとこの俺に向かってチラチラと『助けろよこのやろう!』と訴えかける視線をレーザービームのように飛ばしてくるではないか、何と厚かましい女だ。ってかな! なんとかして欲しいのはこっちの方だってえの!

 

「そうだ! そ、そういう事はやっぱり、男子に決めてもらったほうがいいんじゃないかなー!」


「お、俺かよ!?」


 何の得にもならないキラーパスが俺の胸元に飛び込んでくる。


「そうだね。やっぱり、男の人のほうが決断力ありそうだし」


 そのパスに桜木姫華も乗っかりやがった。


 おいおい、今時代は男女平等の時代ですよ? それに、俺ってば決断力皆無の男ですから、この前だって幼馴染ルートに行くか、ツンデレお嬢様ルートに行くか、小一時間ばかり悩んだところですから。あ、勿論ゲームの話ですけど。


「さぁ、神住。お前はどうしたいんだ? 心して答えろ」


『心して答えろ、変なことを言ったら……キサマの命は保証しない』そんな冴草契の心の声が丸聞こえだった。


「神住さん、どうしたら良いと思いますか」

 

 上目遣いで、俺に助言を求める桜木さんは可愛かった。


 四つの瞳が俺を見つめる。

 女の子二人に見つめられている。というシチュエーションだけを抜き出せば、嬉しい事この上ない状態なのに、俺の心は全くときめかない。まぁ、心拍数は上がってるけどな。このまま心筋梗塞にでもなったらどうしよう……。

 俺の額から嫌な汗がにじみ出る。こういうプレッシャーは大嫌いだ。もっと、こうお気楽ご気楽に生きていくのが俺の信条だというのに……。

 一秒ごとに、二人からの俺に向けられるプレッシャーは強さを増していく。なんだこいつらニュータイプかよ! 戯言はやめろよララア!

 限界だ。もう限界だ。

 限界に達した俺は、決めたのだ。

『適当な事を言おう。脳みそなど通さずに、適当な言葉を適当に言おう』

 俺は全てを俺の適当さ加減にかけることにした。

 おもむろに俺はすっくと席を立ち、堰を切ったように口火を切った。


「みなさん! 超能力、ESPなんてカテゴリーにとらわれてはいけない。俺たちは常に新しい力をみつけていかなければならない。そう若者とは開拓者、フロンティアなのだから! 新しい力で世界を開拓していく。それこそが、我ら若者に課された使命ではないだろうか!」


 うわあぁ……。何言ってるんだ俺、完全にアレな人になっちゃってるじゃないか。止めなければ、今すぐに止まらなければ。しかし、俺の言葉はブレーキの壊れたダンプカーの様に止まってくれはしなかった。勿論行き先は崖の下だ。


「若者とは、道無き道を進む存在なのだ! 我が前に道はなく、我が跡に道はできる! そうだ! この未来を開拓する新しい力に名前をつけようではないか! Frontier New Power 略してFNP! 立てよ国民! 今こそ我らは、立ち上がらなければならない!!」


 何故俺はいま左拳を頭上に突き上げているのか? そんなことわかるわけがない。すでに俺の身体は俺の脳みそ切り離されているのだから。誰か俺を止めてくれ……。殺してくれ……。

 演説は終えた俺は、感極まって瞳を閉じた。あれれ、もしかすると、俺ってば涙ぐんでいませんか?

 俺は閉じている瞼を、恐る恐るゆっくりと開く。きっとそこには、キモい物体を見るような視線があるだろう。それだけのことを今俺は言ってしまったのだから、その視線をしっかりと受け止めるべきなのだ。

 だが、目を開けた俺を待ち受けていたのは、まるで初めて動物園でライオンを見たみたいな純粋な憧れの眼差しだったのだ。

 その眼差しの主とは桜木姫華! 


「えふえぬぴー!!」


 桜木姫華は、俺に合わせるようにして勢い良く左拳を突き揚げ出したのだ。ナンデ、ナンデそうなるの?


「お、おい姫!?」

 

 冴草契その常軌を逸したであろう行動に戸惑いの色を隠せないでいた。何をどうすればいいのかわからずに、桜木姫華の横でオロオロする始末だ。

 しかし、こいつは生粋の桜木姫華大好きっ子である。

 ならばどうする?

 答えは決まっている。


「え、えふえぬ……ぴー」


 冴草契は、肘も伸びきらないくらいの弱々しさで左拳を掲げた。声も一メートル先の人間にすら聞こえないレベルだった。顔面は真っ赤っ赤だ。きっと姫一人に恥ずかしい真似はさせられないと思ったからに違いない。


 こうして、謎のカルト集団がこのファミレスに誕生したのだ。

 誰だよ! このクソ恥ずかしい集団! なんだよFNPって!!

 え、俺? 俺のせいなの? 違うよ。きっと異世界からの電波が俺の身体を無理やり動かしたに違いないんだよ。だから、悪いのは異世界人! くそぉ、異世界人の野郎め……いつか俺が異世界に転生したら、あんな事やこんな事をしてやるからな!!

 責任転嫁を心の中で終えた俺は、見たくもない現実へと向き合った。さて、この惨状……一体どうやって沈めればいいものか……。ああ、頭がいたい……誰かバファリン持ってこいよ! 優しさ増量でな!

 バファリンを飲んでいる場合ではないことはよくわかっていた。だから、俺の性分ではないが動くことにしたのだ。


「す、ストーップ! こ、これ以上はいけない。FNPは進化していない人類にはまだ早い力だ。これは秘密にしないといけないのだ! そうだよな、冴草契?」


 どさくさに紛れて呼び捨てにしたのは内緒だ。


「え? あ、ああ、ああああ。そうそう! 秘密にしないと、えふえぬぴーは凄いアレだから、みんなには内緒にしないと、そうだよね、姫?」


 いまだ左手を掲げてFNPコールを続けていたいた桜木姫華は、その言葉に我に返ったのか、キョトンとした顔でこちらを見た。


「え? そうなんですか? 秘密なんですか? こんなに素敵なのに秘密なんてぇ‥…。でも、秘密の組織って言うもの、ミステリアスでどきどきしちゃうかも……。――そうだ、秘密結社FNPって名前どうでしょう?」


 すでに超能力研究会の原型は何処にも残ってはいなかった。ってか、どこから秘密結社出てきた!

 この女、見かけは可愛いのに思考が総じて奇想天外過ぎる。あれだろうか、残念系美少女ってジャンルに入るんだろうか。


「神住、姫はお前に聞いてるんだぞ? 早く答えてやんなさいよ」


 あいも変わらずこの女は、返しにくい発言は全部俺に振ってくる。たまにはパスじゃなくてドリブルをして敵陣に切り込んでいけよ!


「いやいや、ここは親友である所の、冴草さんに問いかけているに違いないんで、答えてやってくださいよ迅速に!」


 俺と冴草契は、導火線に火がついた爆弾をお互いに放り投げ合うような言葉を交わした。


「どうでしょう、 ふ た り と も」


 ニッコリと微笑む桜木姫華の言葉で、俺と冴草契の退路は完全に絶たれてしまった。大魔王からは逃げられないのと同様に、この姫スマイルから逃げる術などありはしないのだ。

 俺たちは観念した。

 いや、このファミレスに入った時点で、既にこうなることはきっと決定していたのだ。

 初対面ファーストコンタクトの時の儚げな印象とは裏腹に、この子はこうと決めたら、絶対に自分の意志を曲げることのない子だったのだ。

 俺と冴草契は目配せしあうと、力なく首を縦に振った。これにて『秘密結社FNP』が承認されたわけである。


「ああ、なんでこうなったの……」


 冴草契は頭を抱えて、ヴーヴーと言葉にならない唸り声をあげていた。俺もできることならば、夕日に向かって叫びたい気分だ。夕日のばっかやろー!


「じゃ、私たちの秘密結社に乾杯しましょー」

 

 そのな俺達の気持ちなどまるで意に介さずに、桜木姫華は片手を紅茶のカップを持って乾杯の準備をしていた。


 俺と冴草契は、しぶしぶ桜木姫華に合わせるように、グラスを差し出す。


「あ、秘密結社だから小さな声でこっそり乾杯しましょ?」


 桜木姫華はカップを持っていない方の手で口元を隠すようにした。

 

「小声でかんぱーい」


 こうして、秘密結社FNPは誕生したのだった。

 

 


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