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続4話.心の機微は見辛いです

雅さんに肩を抱かれ三人でリビングに向かう。勝手知ったる彼氏の家。


「雅さん、飲み物頂いていいですか?」

「ああ、そうだね。奈央、俺淹れるから、奈央は座ってちょっと落ち着かせな?」

「ううん、本田君と二人きりになりたくないから私が淹れますね」


本田君が驚いた顔をしているけど、どうして好かれているなんて思えるんだろう。思わせぶりな態度なんてこれっぽっちも示してないはずなんだけど。どうして誤解させたんだろう。全く思い当たらない。


「あ、雅さん。玲奈呼んでいいですか?あと、もし捕まえられたら本田君の保護者役の大沢君も呼びたいんですけど。駄目ですか?」

「うん、いいよ。奈央がそう判断したならそうしてみなよ」

「はい。ありがとうございます、雅さん」


本田君が居ることを忘れて軽くチュッと触れるだけのキスをする。


「雅さん、コーヒーでいいですよね?」

「ああ」


コーヒーをセットしてから玲奈に電話をすると。


『あ、奈央、無事だった?不審者居ない?ちゃんと魔王サマ一緒なんだよね?今、大沢君と居るんだけど、本田君の様子が変だったからって心配してくれて、あたしの所に奈央のこと聞きに来てるんだけど』

「来た来た。今、雅さんに居るよ。もうね、話をつけちゃおうと思っているの」

『奈央達と一緒に居るって。』

『俺、直ぐ迎えに行きます。先輩に伝えておいて下さい。あ、場所分かんなかった。玲奈先輩、教えてください!』


人の話を聞いてくださいな。二人とも慌て過ぎなんだから。何気に似てるね、二人。ってことはやっぱり、私って…すごいショック。凹んでもしょうがない。いや、私の見方が偏っている?でも今は印象が底辺だから悪いところだけが目に入ってしまう。ああ、そうじゃない。切り替えよう。


「玲奈、ちょっと落ち着いて。二人一緒なら丁度いい!少し急いで藤沢家に来て欲しいな。お願い!」

『了解。あたしが死ぬ気で走って10分以内にいってみせるわ』

「うん、待ってる」


雅さんがニコニコと素敵に黒く嗤って…笑っていた。


「相変わらず片桐さんの声はでかいねぇ。で、奈央。『大沢君』て誰かな?」


だから、ただの後輩で、本田君の保護者で人畜無害ですから。



宣言通り、10分かからずに到着した。ぜぇぜぇと息を荒げる玲奈。その玲奈の鞄と自分のを両方持って走ったと思われる、薄く汗を滲ませている大沢君。健人くんみたいに可愛いカッコイイ系じゃないし、藤沢兄弟のようにきれい系カッコイイでもないし、お兄ちゃんみたいにキラリさわやか系カッコイイでもないけど、実は大沢君もカッコイイかも。ちょっとだけ見入ってしまう。

私の視線に気付いた玲奈は、隣の大沢君を見て顔を赤らめる。そして、私に向けて親指を立てた。それに応えて私も親指を立て返す。

雅さんが声を低~くして、「奈~央~」と私の耳元で注意をしてきた。地を這うようなその声は玲奈にも届いていて様で、二人でビクッと姿勢を正す。


「ま、魔王サマ、アタシ達、オオサワクンに見とれてなんかイマセンヨ」

「う、うん。ソウソウ、カッコイイなんて思ってイマセンヨ」

「そうだよねぇ。まさか、この状況で、健人と和維とオレに見とれて心駄々漏れトリップした時の様になりそうだったなんてこと、無いよねぇ?」

「「はい」」


玲奈がポツリとつぶやいた。


「魔王女サマも魔王サマの前じゃ形無しね」


雅さんが珍しくフンと鼻を鳴らす。


「奈央はオレの婚約者なんだから。奥さんになる人なんだよ?『魔王女サマ』じゃなくて『魔王妃サマ』でしょ」


突っ込むところそこですか。なんかもう好きにして下さいと言いたい気分ですが、そうも言っていられません。

本田君と大沢君の申し訳なさそうな視線を感じるが、それはどれについてのどっちの意味でしょうかね?

小さく「うわっ」て言ったの聞こえたから。ここはこの空気を無理矢理流すことにして。


「じゃ、玲奈も落ち着いたみたいだし。話、していいかな」


私は、軽く咳払いをしてからコーヒーに口を付けた。


◇◆◇


雅さんも居るので、ここまでの出来事を説明した。三人からもその内容について虚実がないという解釈でいいのか、特に解説や言い訳めいたものも無かった。


「で、じゃあ、奈央は何で泣いたのかな」


雅さんからの質問が出たことで、漸く皆の口から言葉が出始めた。


「奈央、泣いたの?魔王サマが付いていてなんで泣かすの?」

こう、おまえ、先輩に何かしたのか…」

「奈央先輩!俺のせいなんですか?」


ああ。私が話をそこで止めちゃったせいで誤解させてしまったようだ。


「ううん、違うから。話すから聞いて?」


ぐるりと見渡して、再び渇いた口の中を潤した。集まる視線に少々緊張する。


「あのね、自分に幻滅というか、がっかりしたの。情けなくなっちゃって涙が出ただけだったんだよ。驚かせたり、誤解させちゃってごめんね」

「ねぇ、今更なんだけど、あたし達なんで呼ばれたの?」


あれ?説明してなかったか。


「えっとね、話し合いには第三者が居たほうがいいでしょ?本田君、日本語が通じないタイプみたいだし」


本田君は「うっ」と言葉を呑み、玲奈と大沢君は大きく頷く。


「雅さんが居てくれるけど、万が一暴力に訴えられた時、私だけじゃ本田君の命の保障できないし。だから最初から保護者の大沢君が居てくれれば、うっかり手を上げるとか掴み掛かるとかいう早まったことしないだろうし」

「俺が手を上げ、しかもられる前提ですか」

「日ごろの行いからの印象だ。お前が悪い」


雅さんも笑顔だが顔をひくひくとさせていて、笑顔の魅力が4割減だ。残念。


「続きいい?ほら、私の周りって、玲奈も和維くんも健人くんも。勿論、三人だけじゃないけど、学校の友達にしても皆、多少の変わり者は居ても基本、自分とそう大きく価値観が違うとか嫌な感じを受ける人って居ないじゃない。

雅さんみたいな素敵な人に好きになってもらえて。当たり前の環境過ぎて気付かなかったけど、そういう素敵ないい人達が周りに集まっているって事は、私も実は私の好きな人達みたいに成れているんだって、そう思っていたの」


でも、その先を考えたら、やっぱり情けなくなってくる。


「そう、皆と同じだって思っていたの。萩野はぎのさんについては事故だとしても、中学の時にしつこくされたのも、雅さんが女性に言い寄られて苦労していたのもお互いがまだまだ青く硬い渋柿のように未熟故のことで。今もまだまだ未熟だけど、青さが抜けてきた渋柿程度だと思っていたの」

「言いたい事は解るけど、非常に解りにくい表現だと言っておくわ。続けて」

「けどね。……こうやって言葉を通じ合わせることの出来ない子に纏わり付かれてしまった…。彼は、私を追いかけて受験をしたっていった。広い視野を持つ、将来の可能性の幅を広げる、選択の幅を決める要素のひとつになる。高校選びってそういう事にも大きく係わってくるでしょ。誰かを追ってっていうのが悪いことだって言っているわけでもないの。でも、自分の将来を軽く見るっていうか、他人に責任転嫁しているように見えるっていうか。

そんな人に好かれてしまうって事は、私にも同じようなことがあるってことなのかなって。だって、『類は友を呼ぶ』っていうでしょ。嫌いな人は自分の鏡だとも云うし。実は私も全然人の話を聞かない迷惑女なのかなって。無自覚なのをいいことに暴走して嫌がられてるのにも気付いてないのかなって。全く空気読めていないのかなって。大事な友達を下僕のように従えているようにみられているのかなって。

雅さんに好かれているっていうのも、もしかしたら気のせいで、本当は私の片思いなのに自分の思いだけを振りかざして押し付けている嫌われ者なのかなって…自惚れている上に勘違いってどんだけ能無しのイタイ女なのかって…。考えれば考えるほど情けなくって」

「な、奈央…ライフゼロになっている人がいるわ」


本田君が突っ伏していた。しゅるしゅるとナニカが立ち昇っている。


「先輩、孝は確かに嫌われているのにも気付かず暴走し且つ非常に押し付けがましいやつではありますが、高校はそれだけで選んだんじゃありません。それを決め付けるようなことを言ったことについては謝罪を求めます。それと、俺がこいつの下僕のように見えているなら大変不本意ですが、そう見えていたなら気をつけます。教えてくださってありがとうございます」

崇士たかしのいうこともガリガリくるぜ。けど、ありがとう」

「ああ、痛々しい。本田君、敵味方からの攻撃で満身創痍ね」

「援護射撃の誤射も命中すれば致命傷…だけどね、奈央。聞き捨てならないな」

「魔王サマ?」

「うぉっ」

「流れ弾がきた…」


雅さんと玲奈が珍しく意気投合しているように見える。仲が悪いのも微妙だけど良いのはそれはそれで不愉快なものなのね。雅さん、あんなに私を大事にやさしく扱ってくれるけど、もう飽きたのかな。女の子の胸はやっぱり玲奈みたいにしっかり挟めるくらい大きい方が好きなのかな。

また涙が滲んできたけど、先に謝っておこう。


「本田君。私も勝手に決め付けていた。ごめんなさい。けどね、もう、雅さんに飽きられているかもしれないけど、やっぱり雅さんのことが大好きなの。だから、本田君とは付き合えません」

「いやっ、それはもういいですけど。あのっ、すいませんでしたっ!!!!!!崇士っ、帰るぞっ、おじゃましましたっ、お幸せにっっっ!!!!!!」

「ひっ…!!!さ、さよならっ…ヒィッ、先輩方、お先にし、失礼しまっすぅ~~~」


玲奈が鞄を持って後ずさる。


「…片付けお願いしていいよね!あたしも帰るから。あ、今夜は連絡しないで!!じゃ、また明日っ」


玲奈とは思えない猛ダッシュで帰っていった。


ここまでがキリのいいところ…のつもりですが、よくないでしょうかねぇ?

次回はご想像通りの展開が訪れるでしょう。


ここまでお読み下さりありがとうございます。


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