続3話.まさか類友ですか
翌日、昨日のあの状態なら今日はもう着いて来られる事はないだろうとすっかり安心していた。朝、校門で二人に会ったが大沢君が挨拶をしただけで本田君は無言だった。それもあって、もうすっかり彼等のことは頭から抜けていた。
「奈央ちゃん、今日はミヤ兄とデートなんでしょ?デートの日の朝ってすっごいご機嫌だから直ぐ分かるんだよね。我が兄のことながら、可愛すぎて、顔が引きつるよ」
「雅先輩が可愛くなるって…。奈央ちゃんすげー。『魔王女サマ』だな」
「何よ、その『魔王女サマ』って。あたしの奈央になんて黒い名前付けるのよ。奈央は天使よ、妖精さんよ。ったくもう」
「健人くん、さすがにそれは嫌だなぁ。ふふふ」
「え~、上手く言ったと思うんだけどなぁ」
「じゃあ、雅さんと待ち合わせしてるから行くね!」
「うん、バイバ~イ」
三人に手を振り教室を出た。
学校前まで来てくれようとする雅さんだったが、カッコイイ雅さんを人目につくところに立たせるのが嫌で、少し離れたところで待ち合わせをしている。
下駄箱のところで『今から学校出ます』とメールを送っておく。足取り軽く待ち合わせ場所へと向かった。
「雅さん♪」
「奈央、おかえり」
「雅さんも」
どちらともなく手を繋ぐ。自然に恋人繋ぎになるあたり、十分バカップルなのだろう。
そんな甘さもスッと細められた目に背中が少しだけ冷える。…私、風邪気味かな。
「ねぇ、奈央。オレに言う事あるでしょ?」
今はまだ優しい笑顔で言ってくれている。私、どこまで耐えられる?
「何のこと?」
私やましいことも困っていることも隠し事なんて何にもありませんよ。
「奈~央~?何もなくてもオレが聞きたいし知りたい。それじゃ駄目かな?」
ああ、そんな仔犬みたいな表情で言わないで下さい。うっ、負けました。降参です。
…和維くん、何か気付かせるようなこと言ったわね。和維くんのばか~。うそうそ、そんなこと思ってないから末永く友達でいてください。私ってば、一人心の中で何言ってるんだろう。
「奈央?トリップ頻度上がったよ?あんまり放置すると」
そういうと私の唇にやわらかいものが触れた。思わずいつもの様に小さく開けてしまう。すかさず温かいものが私のを絡めとる。…って、ここ外ですから!
「奈央か~わいい。クスッ。誰もいないよ。こんなに可愛い奈央を余所の男になんて見せたくないからね」
あーもう、すごいドキドキしちゃう。
「雅さん、外じゃなくて、今日は雅さんとくっつきたい…デス」
「じゃ、家に行こうか」
「はい」
繋いでいた手はいつの間にか腰に回されていた。いつも腰砕けにするんだから。
雅さんのエロエロモードにすっかり酔わされて、グッタリまったりしていると…。
藤沢家のチャイムがなった。
和維くんは部活だし、恭子さんと藤沢パパはまだ仕事から帰ってきていない。
「回覧板かな。ちょっと待ってて」
ハーイと返事を返して玄関へ駆け下りていった。今のうちにしっかり身支度を整える。
クリスマスの時から何度か今日みたいにいい雰囲気になっているが、まだあの時以上のことは致していない。雅さんも性急に事を進めることもなく、私がその気になるのを待っていてくれている。
きっとお父さん以外は、もう私達がそういうことを済ませていると思っているんだろうなって、思っている。
私ももう、今までみたいに頑なに拒もうとは考えていない。でも、やっぱり、まだ心の準備は出来ていなくて…おあずけ状態を強いてしまうことを心苦しく感じている。
甘えているんだろうと思う。我慢させても他の女の人の所へ行かないっていう自信、この考えは我が儘且つ傲慢だと思うけど。でも…。
考えに耽っていると階下から雅さんじゃない荒げる声が聴こえてきた。
足音を立てないようにそろそろと階段を下りていく。そのまま玄関に行くと。
「あ、奈央先輩!やっぱり居るじゃないか」
「本田君?」
「奈央、下りてきちゃったの?」
「だって、雅さん。誰かが声を荒げているからどうしたのか心配になっちゃったんだもん」
そそと雅さんに並び腕を絡める。腕が胸に当たってむにゅっとなっているが、不穏な空気にそんな瑣末事にはかまっていられない。
「奈央先輩、この男が彼氏ですか?」
「そうだけど、その言い方すごく失礼だよ」
私の発言が気に入らなかったのか存在自体が気に食わないのかもしれないが、雅さんを睨みつけている。
「奈央、和維が言っていた子かな?」
「はい…」
こんな風に押しかけられて雅さんにも迷惑かけちゃうんだったら最初から相談しておけばよかった。黙っていたせいで余計に心配かけちゃった。
皆が皆、1回で事が済むわけじゃないって忘れていた。断れば付きまとわれないって思っていた。ごめんなさいで、表面上だけでも諦めてくれるんだと思っていた。いちゃいちゃモードに当てられれば意気消沈するものだと考えていた。雅さんが社会人になるまでは心乱されるようなことなんて起きないに違いないと思い込んでいた。
中学の時みたいになかなかへこたれない人が居るって忘れていた。雅さんを好きだと言っていた女性みたいに嫌われてもそれに気付かないで突進する迷惑な人もこの世に溢れているって…もう他人事のようになっていた。
幸い、友人知人に恵まれている環境だったから、雅さんがやさしく守っていてくれるから、言葉が通じない日本人が世の中に意外と多いことなんてドラマの中や事件を起こしてニュースになるような人達の世界の話だと思っていた。
こんなに身近に居たなんて。人のふりみて我が振りなおせ。類は友を呼ぶ。それってつまり…。
そう考えたら情けなくて涙がポタリポタリ落ちてきていた。
「奈央先輩…!」
「奈央?どうした、泣いてるの?」
「お前が先輩を泣かせたんだ!」
本田君、何訳分かんないこと言ってるんだろう。雅さんのせいでもないし、本田君のせいでもない。
「奈央、奥に行ってな?オレが話つけるから。心配しないで、ね?」
ううん、そうじゃないの。首を横に振る。
「ほらみろ。先輩は本当はお前なんか好きじゃないんだ。俺の事好きになってるんだよ。でしょ、奈央先輩
」
そんなふざけた事言わないで。ありえないから。私は「違う」とかろうじて声を出して首を横に振り強く否定した。
「奈央から話すことがあるなら、彼にも上がってもらおうか」
小さく「はい」と答え、肯定した。
今週はキリのいい所まで進める予定でいます。




