番外編9 健人と和維と玲奈
高2の前に、彼らの話をひとつ。
─内田健人─
春休みになった。
基本的には割と誰とでも仲良くなれる俺は今まで「クラス替え」に特に何も思うところは無かった。
しかし、高2目前のこの休み、人生初めて、クラス替えのことで神頼みをしている。
結局彼女はできなかった…いや、作らなかったが、仲良くなった4人組ができた。
「また、来年も和維と玲奈と奈央ちゃんと同じクラスになれますように」
これを叶えてくれたら、親にスマホを買ってくれと言いません。今の携帯で文句は言いません。勉強だって今まで以上に頑張ります、多分、きっと、忘れなかったら、いや、約束します!…おそらく…。
奈央ちゃんと雅先輩がよく利用している公園の神社で手を合わせる。
賽銭は100円しか入れてないけど、どうか神様お願いします。
受験のときも成績に不安なんてなかったからお参りなんてしなかった。
修学旅行で行った京都・奈良でもとりあえず皆に合わせて手を合わせただけで特に何か願うことなんて無かった。今まで頼まなくても賽銭は5円ずつ入れていたんだから貯金できているだろ?頼む神様。また皆と同じクラスにしてくれ。
今年一年間、いろいろあったけど本当に楽しかった。充実していた。1番の願いは四人一緒だけど、できたら、クラス替えなんてしなくて、そっくりそのまま持ち上がりでもいいくらいだ。
あ、あと、部活、レギュラーになれますように。あと、大会で勝てますように。それと、小遣いが上がりますように。それと…。
あ、大事なことがあった。…雅先輩に八つ当たりされませんように!!
─藤沢和維─
母さんが病院から帰ってきた。
ここ何日も落ち着きがなかった。なんだかうきうきしていて、ちょっと気持ち悪かった。
出かける前も、行き先が病院なのに声がはずんでいた。
「母さん、どこか悪いの?」
心配になって尋ねたが、「ふふ、どこも悪くないわよ」と明るく返された。病気じゃないならいいやと軽く流した。
しかし、日が経つとやっぱり具合が悪そうになってきた。仕事人間とまではいわないが、仕事大好きな母さんが残業0に変わった。顔色が悪い日が続く。
夕飯の支度、特にご飯が炊ける音が聞こえ始めると気持ち悪いと言って、翔兄と俺が続きを引き受ける。そんな日が続いた。
「えっ?」
それは突然、家族に発表された。
母さんが妊娠したって?
父さんも母さんも、まだヤっていたのかと、正直ちょっと気持ち悪いって思った。
翔兄たちがヤってるのとは違う、なんか嫌悪感。ミヤ兄と奈央ちゃんだってしているんだろうと思うけど、それをなんか「うわっ」って思うのとも違う。
俺の微妙な表情に両親の表情も曇る。
数日後、奈央ちゃんから、井上家に家族が増えるというの教えてくれるメールが届いた。
電話をすると、奈央ちゃんは喜んでいた。傍に千里も居たようで、その嬉しさを爆発させ、超高いテンションでかっこいい兄ちゃんになるんだと熱く語ってきた。
それを聞いて、やっと母さんに「おめでとう」と言えた。
「これだけ歳が離れると、四人目は一人っ子と変わらないんじゃないかなぁ」
俺の言葉に、
「ふふっ、雅にはパパと間違えられないように出て行ってもらわなくちゃ…かしら?」
と、答えじゃない返事がかえってきた。
「兄ちゃんって、何したらいいんだろう」
答えは返ってこなかった。
─片桐玲奈─
仲の良い四人の中で最も勉強ができるのはあたしだ。なんだかんだで、今のあたしがこの中で引けをとらずにいられるのは勉強ができるからだと思う。
勿論、奈央も健人も和維もそんなことは思っていないことはわかっている。
それでも、あたしはやっぱり自分に自信が無いから、これだけは頑張っておきたい。
こんな風に思いながらあたしは陰で頑張る。これからは授業も選択が増えて、学年順位がどうとかいうのなんて関係なくなってくるだろう。
自分の将来のためなのは当然として、彼らに教えてと言われたらなんてこと無いようにさらさらとかっこ好く教えたい。
健人の明るくおおらかな所、和維の優しく穏やかな所、奈央の自分をしっかり持っている所。
こう見えてあたしは他人の顔色を窺って動いてしまうし、流されやすい。自分に自信もないし、口も悪いし性格だって好いとはいえない。運動だって人並みだし。顔がちょっとばかり良いほうだけど、彼らを始め見目が好いのは極近くにありふれている。だからあたしは勉強を頑張る。
「玲奈、英語ってどうやったらその位、点取れるわけ?どういう勉強してんの?」
「英語は、教科書全部覚えるだけだよ?」
「「「え?」」」
「んだよっ、俺無理~」
「単語とか文法とかだけじゃなくて全部?」
「うん、そうだよ。やれば案外できるもんだよ」
「玲奈、記憶力すげー」
あれ?そうなのかな。あたしもこれって教えてもらったこと実践しただけだったんだけど。
褒めてもらえてるのかな?
あたしもこの中で見劣りしてないよね?
奈央がニコニコとあたしを見る。
「皆、玲奈のことちゃんと認めているよ。大丈夫だから」
「…うん」
「心配性だなぁ。自信持ちなって。私達玲奈のこと大好きだよ」
「奈央ちゃんっっ、大好きって、大好きって、えっ、えっ?何??」
「何でもなぁ~い、ねっ、玲奈」
「そうそう、健人は気にしなくていいよ」
「ふ~ん、玲奈はまたくだらないことで悩んでたんだ。奈央ちゃんよく気付いたね」
「そりゃ、付き合い長いですから」
「俺にもおーしーえーてー」
奈央がこそっと言ってきた。
「そんなにナイーブになっちゃってどうしたの?」
「うん、クラス分けがあるでしょ。あたし中々馴染めないほうだからさ」
声が聴こえていたのか健人が入ってきた。
「俺、神頼みしちゃったよ!また同じクラスになりたいな!」
藤沢家で勉強会をしていたあたし達は、成り行きで神社へお参りに行った。
パン!パン!
「「「「四人で(が)同じクラスになり(なれ)ますように!!」」」」
あたし達の願いよ、届け!!!
今度こそ、次から高2編です。




