番外編5 吉田琴莉
続きではなく、クラスメイトからみた奈央たちです。
あたしは吉田琴莉。高校生になって1番嬉しいのは、クラスにカワイイ子が多い事だ。あたしも顔の造りは良い方だと思うが、このクラスの中では凡庸かもしれない。
あたしの中で最もカワイイと思うのは、璃子ちゃんだ。わりと小柄で小動物みたいな可愛さがある。明るく朗らかで、あたしのイメージするヒロインそのものだ。密かに、璃子ちゃんを含め女の子達を観察するのがささやかな楽しみである。
玲奈ちゃんも顔の可愛さでは璃子ちゃんに並ぶが、ちょっとだけ変な人なので1番ではない。
『カワイイが正義』と言い切ってしまうあたしだが、美人も大好きだ。美人は甲乙付けがたい。大人の美人と違って、まだ子供と大人の中間って感じの危うさが特に魅力的なのだ。
可愛い子の方は性格に難がある子も居て、性格を込みにすると本当に可愛い子は、璃子ちゃん・玲奈ちゃん・佳苗ちゃんしか居ないのではないだろうか。
なのに、美人組は皆、性格がカワイイのである。奈央ちゃんみたいなキツめ美人の天然さん、成美ちゃんみたいな知的美人の素直な努力家、貴子ちゃんみたいなほんのちょっとだけクールのクーデレさんなど、どの美人さんとも友達になりたくて仕方ない。
ああ、彼女達みんなを侍らせたい。璃子ちゃんの膝枕でお昼寝して、玲奈ちゃんの胸に顔を埋め、貴子ちゃんとお買い物に行き、奈央ちゃんと成美ちゃんと一緒にお菓子作りしたい。
ああ…夢と妄想が膨らんでいく。
『カワイイ女の子達』は琴莉のモノなんだからっ!
カワイイ女の子と友達になりたいあたしはみんなと連絡先を交換していった。夢を叶える第一歩だ。
そんな中で、奈央ちゃんから教えてもらったのはお母さんと二人で使っているという携帯電話の番号と固定電話の番号だった。後ろ暗いことは無いけど、お母さんが出るかもしれない見るかもしれない電話にメールや電話をするのは、携帯に慣れきってしまったあたしにはためらわれた。
でも、それはあたしだけではなく、奈央ちゃんに教えてもらった子達の男女共にだった様で、揃ってビミョーな顔をしていた。
結局あたしは、教えてもらったのにもかかわらず、1度も連絡を入れていない。メールも電話もだ。他の子に訊いて見たけど、やっぱりみんな奈央ちゃんには1度も連絡を入れていないそうだ。というか、登録すらしていない子達ばかりだった。
だって、打ち込むの面倒だし…しょうがないよね?
それでも奈央ちゃんのあたしたちに対する態度は変わらない。普通にお友達だ。
最初はあった、教えてもらったのに1度も連絡しないでいる気まずさも徐々に無くなっていった。
そんな事があったあたし達と違い、他の子から遅れて奈央ちゃん達と連絡先を交換した内田と藤沢は、気が付けば二人とよく一緒に居るようになっていた。
「奈央さん、玲奈さん、夜メールするねっ」
「じゃっ、俺達部活行くから、また明日!」
えっ?内田と藤沢は、アノ携帯にメールしてるの?
それとも、新しい携帯買ったのかな。
「ねぇねぇ奈央ちゃん、携帯替えた?」
「ううん、替えてないよ。どうして?」
アノ携帯にメールするつわものが居るとは思えないとは言えない。
でも、玲奈ちゃんは気づいているようでニヤニヤしている。…ちょっと意地悪だなぁ、ぷんだ。
「えっとね、内田と藤沢って、前教えてもらったアノ番号にメールしてるんだよね?」
「うん、そうだよ。お母さんと健人くん意外と気が合うみたいで、電話のときなんて私に用があるんじゃなかったのって突っ込む時があるくらいだよ、ふふっ」
「だって、香織さんと話すの楽しいもん。いいじゃん、奈央」
そうなんだ。驚きだ。でもやっぱりあたしには無理かなと思う。
それから益々彼女たちは仲良くなっていったようだ。
夏休み中には泊まりで海に行ったという話を男子も女子も聞き耳を立てて羨ましそうにこっそりと聴いていた。進んで目立つことを好むことは無い彼らだが、いつだって彼らが注目されていることに気付いているのだろうか。
そして、奈央ちゃんに彼氏ができてクラスの男子の何人かが肩を落としていた。四人が一緒に居る姿は、もうすっかり当たり前の光景になっている。
冬休みが明けると奈央ちゃんがネコのストラップを付けた白い携帯電話持ってきた。
新しい連絡先を聞こうと彼女の周りに人が集まる。携帯を取り出して奈央ちゃんに群がるクラスの子を冷めた目で見ている自分が居る。奈央ちゃんが鞄の中身を出すのにチラリと見えたそれに食いついた一人の子が騒いでこういう状況になっている。
「奈央ちゃん奈央ちゃんっ、教えてよ」
その声に返す答えは予想通りでもあり予想外でもあった。
「えっ、どうして?前に教えたときに1度も来なかったから、教えたことある人にはもう教えないよ。今まで無くて平気だったんだし、問題ないでしょう?」
当然のように容赦なく言った。
断るだろうとは思っていた。彼女が教える気があれば前教えた人くらい覚えているだろうから、玲奈ちゃん達から教えてもらって連絡するだろうし、自分から教えてと言える人だから。
でも、あんなにストレートに、少々冷たいくらいの答え方をするとは思っていなかった。
その答えに食い下がる子も居る。
「だって、前のはお母さんと一緒だったじゃん。見られるかもと思うと連絡しづらいもん。
一緒に使っていた奈央ちゃんが変だったんだよ」
「玲奈も健人くんも和維くんも彼氏も、その状態でも連絡くれていたよ?」
奈央ちゃんの隣には三人が立っている。
「別に俺達は見られたら困るような事は何も無いし、常識の範囲内の行動を咎めるような親御さんじゃないよ」
「香織さん、お母さんは、俺達のメールを見てから奈央ちゃんに繋ぐなんていう監視だってしてなかったよな」
「そうよ。ちょっと、むしがいいんじゃない?」
奈央ちゃんは苦笑いしつつも、三人の援護を嬉しく思っているように見える。
出された手を叩き落としたのは確かにあたし達だ。
あの四人は上っ面だけじゃなく本当の友達なんだなって羨ましくなった。
あの時、ほんの少し勇気を出してメールを送らなかった事を、この日初めて後悔した。
次話もよろしくお願いいたします。




