番外編4‐7
夕飯を食べながら、お兄ちゃんに事の顛末を話した。
お兄ちゃんは決着がついたのなら、もうどうでも良いらしく、自分と私達の身が安全になった事で興味を失った様であった。
「ちょっとねぇ、お兄ちゃん、聞いてるの?」
「ん?聞いてるけどさぁ。俺はそれより、DVDの方が気になるんだよ」
「別に、私が寝た後とかお風呂に入っている間に見ればいいじゃない」
「姉ちゃん鬼だ。姉ちゃんが母さんみたいになってきた」
お兄ちゃんはそうじゃないと溜息をつく。
「奈央さ、乙女なんだから、そういうのもうちょっと恥じらいなさい。
それから、俺のコレクションは見ないでよろしい。っていうか、お願いだから、もう、見ないで下さい」
うん、さすがにもう見るのはやめようと思っている。
そっち方面に何の経験も無いうちは、見たところで何も感じなかったのだが、雅さんと触れ合っている内に体が反応してしまう様になったので、もう見る予定は無いのである。恥ずかしいから理由は絶対言わない。
「うん、もう見ないから安心して良いよ。持ってきたのだって、伝票とタイトルしか見てないから。
中の映像なんて見てないし、こういうの見てああいう事してああなんだとかとか想像もしていないから安心して」
お兄ちゃんはハシっと手を組み、「あーカミサマ、俺は妹の躾を失敗しました。お許し下さい」って言い始めた。色欲に塗れるほどじゃなきゃ、ただの健全な青少年ですから!!もう、失礼しちゃう。
「ねぇ、お兄ちゃん。前から聞きたかったんだけど、レンタルじゃダメなの?」
「「ブーーーーっ」」
「本っ当、お願い。兄ちゃん泣くから、もうこの話止めて…」
お兄ちゃんのお金の使い方に疑問を感じたから聞いてみただけなんだけどな。まぁ、いいや。
「兄ちゃん風呂入ってくるよ」
「あ、待って、兄ちゃん。オレも入る」
「狭いぞ」
「え~、いいじゃん」
二人はワタワタと風呂場へ行った。男同士、交友を温めて下さい。
ちゃっちゃと後片付けをして、早いけど布団を敷いてしまう。
昨日は移動もあって体が疲れていたからすぐに眠れたけど、今日はどうかなと思案した。
明日はもう帰るのかと思うと、嬉しくもあり寂しくもある。
千捺さんとアドレスの交換をしたので、その後どうなったかメールをしてみた。すると直ぐに電話が掛かってきた。
「はい、奈央です」
『千捺です。今日はお疲れ様。それとありがとね』
お礼を言われる心当たりがないのである。むしろ厄介ごとを持ち込んでしまった私が詫びなければならないのではと思っていたりする。
『光一の事さ、実はちょっとヤバイかなって思っていたんだよね。けど、面倒だし、あたしが口出しすると余計変に思い込んで暴走するかもとか考えちゃって、ずっと放置していたんだよね。
あたしのこと好きなのなんてバレバレじゃん。わざと避けてるところもあったんだけど、奈央ちゃんたちのお蔭で、あのあとちゃんと決着つけたよ。やっと、自分のいけてなさを認めることができたみたい』
「それはよかったです」
暴力沙汰になるんじゃないか、ストーカーに変わるんじゃないかと心配したけど、そこまでイッちゃてる人ではなかったみたいで良かった。
『そういえば、何のことか分からないけど、魔王サマとその奥方は恐ろしいとか言ってたんだよね。漫画やアニメの見すぎかって、ね』
「全く。…何のことでしょうね。でも、ホント、決着ついて良かったです。
萩野さんも引きずったり、変に捻じ曲がったりしないといいですね」
その後、他愛のない話をして電話を切った。その途端、コールが鳴る。『藤沢雅』の表示だ。
お風呂から上がったお兄ちゃんと千里に見守られながら…生温かさが少々堪える…話題に上った『魔王サマ』と楽しくお話した。
やっぱり雅さんの声を聞くと安心する。早く会いたいな。
◇◆◇
翌日、お兄ちゃんがバイトに行くのと一緒にアパートを出て帰った。
地元の駅に着くと四人のお出迎えが待っていてくれた。
「奈央、おかえり」
「雅さんっ」
荷物を持ったまま駆け寄る。雅さんは、私を軽く抱きしめると手から荷物を奪い車に詰め込んでいく。
「千里も荷物よこしな」
「ありがとうございます。あの、母さんは?」
そうなのだ。予定では駅への迎えはお母さんが来てくれるはずだったのだが。何かあったのだろうか。
「ああ、少しだけ具合が悪いんだって。あ、でも心配ないよ。しばらく続くだろうけど、その内治まるから。
んっとに、どっちの親もいい年して一体何やってんだか」
「「?」」
首を傾げる私と千里を車に乗せる。
「オレは奈央と千里を送るから、お前たちは歩いて帰れよ」
「「「えーーー」」」
「ミヤ兄、俺、家ミヤ兄と一緒なんだからいいだろ?」
「よくないから。じゃ」
玲奈も健人くんも和維くんもブーたれている。
「奈央ちゃん、俺達にお土産は?」
「近いうちに持っていくから待っていてね。玲奈も来てくれてありがとう。
今日はお母さんが心配だからこのまま家に帰るね」
「うん、わかってる。あたしも香織さん心配だし、何かあったら連絡して。何も無くても連絡してほしいけどね」
三人とは駅で別れると、雅さんの運転で自宅へ向かった。
「今日のところは、オレ帰るから。お互い将来の練習だと思って頑張ろう。
あ、今度料理教えてよ」
「料理ですか?かまいませんが。……あの、やっぱり、アレですよね?」
雅さんは、苦笑いを浮かべるだけで、詳細は何も話してくれなかった。でも、本当に心配ないという。
さてさて。もしかしてと思うこと、それはきっと、多分、正解だと思う。
『どっちの親』とは、うちの両親を指しているのか、両家の両親を指しているのか……。
千里は全くピンとこないのか、心配そうな顔をしていた。




