番外編4‐5
「ごめんっ!ほんっと、ごめんっ!!だからお願いっ、勘弁してっ!」
萩野さんは涙目でテーブルに額をつけている。
「駄目です。赦しません。私達、とても傷付きました」
千里が腕をクイックイッと引っ張る。
「姉ちゃん、注目されてる。出ようよ」
ぐるりと見渡すと何人かのお客さんと目が合ってしまった。千里に萩野さんを逃がさないように腕をしっかり掴むように言って店をでた。支払いは当然、萩野さんである。
近くのコンビニに寄ってマジックを買う。この後の使い方を考えると油性は申し訳ないので、水性のマジックを選んだ。
「ねぇ、お願いっ!他の事なら聞くから、それはやめてっっ!!」
「嫌です。乙女心は大変深くえぐられました」
うなだれながらも諦めていない様だ。
「勝手に勘違いして、迷惑を掛けてきた上に、心を傷付けられたんです。この位しないと気が済みませんし、これで解決なんだからいいじゃないですか。男ならグダグダ言ってないで、やってしまいなさい」
「姉ちゃんの方が悪役に見えてくる。ほんの少しだけ同情するかも?」
「千里は逃がさないようにしっかり押さえてね。動かないで下さいね?萩野さん」
◇◆◇
携帯の写真を見た萩野さんは…
「うわっ、何?この人芸能人?王子並みじゃん。
ってか、何々?これ奈央ちゃん?どう見ても高校生になんて見えないよ。っつーか、いくら若く見せたいからって、社会人が…っぷぷ、無理があるでしょ!」
…ぷちん
「「…えっ?」」
まだ、笑える位の余裕はありますけどね…でも、ねぇ?
「おい、お前。姉ちゃんを怒らせるなよっ。っつーか、オレだって、この春から中3だっ」
「ねーねー、今、何か切れた音したよね?ぷちんってさ。これって、所謂アレだよね?ヤバイやつだよね…?」
まだ言うかこの男。謝罪はないのですね。
出てくれるかどうかわからないけど、雅さんに電話をする。コール中に千里に言っておく。
「絶対に逃がしちゃ駄目よ」
「了解」
千里は立ち上がると萩野さんの後ろに立って肩をおさえた。この一年でぐんぐん伸びた千里は、170cmはありそうだ。
『奈央?』
「雅さん、今、大丈夫ですか?」
『うん、バイト終わったトコ。タイムカード押すから、ちょっとだけ待って』
向こうで機械音のあとに「お先です。お疲れ様でした」「あらぁ~、藤沢くん、彼女?いいわねぇー」なんて声がきこえてきた。
『お待たせ。どうした?』
やっぱり雅さんの声を聞いたら安心してしまい、出した声は涙声になってしまった。
「今、千里と一緒にいます。雅さん、変な男の人に絡まれました。今、ソレを千里が押さえています。暴言だけで暴力はふるわれてないです」
『奈央、海斗は居ないの?本当に大丈夫?』
千里が、
「雅さんっ、姉ちゃんを泣かした奴はオレが押さえているからっ」
と、携帯に向かって言った。
電話越しでも、すーっと温度が下がっていくのが感じられた。
『奈央、泣かされたの?…へぇ。…そう。…ソイツと話せる?』
涙を拭うと、満面の笑みを湛えながら萩野さんの耳に携帯電話をあてる。
「えっ、何?」
「私の彼氏があなたにお話があるそうです」
ゴクリという音と共に喉仏が大きく動いたのが見えた。
『初めまして。海斗の高校の先輩で、奈央の婚約者の藤沢雅といいます。
ねぇ。オレの奈央に何したの?泣かせたんだよね?』
「何もしてませんっ。誤解ですっっ」
「嘘だよっ!姉ちゃんに向かって老け顔だって言ったんだ。しかも、何度も違うって言ってんのに、兄ちゃんの彼女だって疑うんだ。その上、姉ちゃんを待ち伏せするわ、兄ちゃんのアパートに勝手に入るし、兄ちゃんを貶めるんだ!」
『ふぅーん。名前も名乗らない非常識は、することも非常識で迷惑極まりないんだね。君の名前なんてオレにとってはどうでもいいから聞かないけどね。
奈央、超可愛いのにね。君なんかに奈央の可愛さはわからないよね。そんな奴が泣かすんだ。
しかも海斗の彼女?顔、兄妹って言われればそうかと思う位は似ているよね』
「ソウデスネ」
これがガクブルってやつなのかしら?珍しいので、つい観察してしまう。
『海斗が妹に手を出す程、女に不自由してる様に見えるんだ。って事は、少なくても奈央以上に美人顔で、超イケメンていわれるオレと海斗よりも、内面含めイイ男って事だよね?』
「イイエ、とてもその様な事は…」
『凄いな!それほどの男なら、これからぜひお目にかかりたいな。今から車出せば、いや、新幹線の方がいいかな。オレ達以下なら…覚悟できてるよね?』
「ホント誤解です。奈央ちゃん可愛いです」
『気安く呼ぶな』
「ハイッ、すいませんっ」
やっぱり頼りになるなぁ。相変わらず私、溺愛されているのね。これが玲奈がいう魔王サマね…うん、生では見なくていいかも。
『奈央、幾つに見えたの?もう怒らないから素直に言ってみてよ』
「あ、ハイ。23・4才?」
お兄ちゃんよりも上?
さすがにショックだなぁ。
『…バカじゃないの?バカだよね。海斗の妹だよ?16才の可愛い女の子に向かってそういう事いうんだ。……切る?潰す?…要らないよね?』
「要りますっ。ごめんなさいっ」
千里が引いてる。言わせたの雅さんだけどね、ぐすん。私、そんな風にみえるのかぁ。
私も大分鎮火したので、携帯を自分の耳に戻す。
怯えて股間を抑える萩野さんをみて小さく笑う。
「雅さん、ありがとう。もう平気です。後は自分で始末出来ます。
ふふっ、久しぶりにブラック雅さん降臨でしたね。明日、帰ったら会えるの楽しみにしています」
『心配だから夜電話してね。本当にもう大丈夫なの?』
「はい。雅さんのお蔭でもう平気です。ありがとうございました」
電話を切って、左手にはまっている指輪を撫でた。ネコももの言いたそうに見えた気がしたが、多分気のせいだ。
萩野さんは魂が抜けたように呆然としている。
私の前では、魔王サマじゃなくブラック雅さんで済む様に気をつけよう。こうは成りたくない。
千里が隣りに戻ってきた。
「萩野さん、どうですか?言う事あるでしょう?」
魂、戻ってこ~い。
◇◆◇
水性マジックで左側の頬に【エヘヘとわらう】と描いた。
オマケに額には定番の【肉】を書く。
「さぁ、これで愛の告白してきなさい」
満面の笑みで命令を下した。
ご存じだと思いますが、一応補足です。
【エヘヘとわらう】は【へのへのもへじ】の様なものです。
いつもお読み頂き、ありがとうございます!
次話もよろしくお願いします。




