番外編4‐3
投稿しようとしたら打ち込み忘れていました。
予定していた話数より多く…倍くらいになりそうだったので、思いきって書き直してみました。
いつもお読み頂きありがとうございます。
「お兄ちゃん、千里、お帰りなさい。遅かったね」
開いたドアの方へ顔を向けると、苦々しい表情のお兄ちゃんと千里の間から、私がちっちゃい頃よく見掛けた、今じゃあまり見掛けないかなり明るい髪色に染めている、お兄ちゃんと千里に比べると外見的に見劣りする男の人が顔を覗かせていた。笑顔だが、イヤな印象を受ける。
「あ、いたいた、美人さ~ん。こんちわー。おじゃましまっす!」
二人をグイグイと左右に押し割り、勝手に上がり込んでくる。
それにイラッとさせられる。
「へぇー、ここが井上王子の部屋かー。片付いているけどツマンナイ部屋だな」
何故か、私の腕をガシッと掴んで部屋に入ったその人は、聞きもしないのに感想を述べてドカッと座った。お兄ちゃんが直ぐに来てくれて、男の人の腕を外してくれた。そのタイミングを逃さず、透かさず私も直ぐに離れて千里の方へ駆け寄り、男の人と距離をとった。
「妹に触るな。人ん家に勝手に入るな。不法侵入だぞ。今すぐ帰れ」
お兄ちゃんが怒っている。千里の後ろから恐る恐る尋ねる。
「お兄ちゃん、その人誰?何なの?」
「大学の知人の知人。名前は…多分…根本?…ナントカ?……知らない」
えっ…えー?それって友達でも知り合いでもないよね。フルネームすら知らないって。名字も怪しいみたいだし。見た事があるっていうレベルだよね。あ、不審者ちょっとショック受けましたって顔してる。知人ですらなくて落ち込みそうだって?イヤイヤ。
本当にナニソレ。ナシでしょ。
「うん、分かった。お兄ちゃん、110番しよう」
我ながら良い提案である。私が携帯電話を取り出すと、
「あっ、待って待って!ごめん井上!調子に乗り過ぎたっ」
「お前に呼び捨てにされる覚えはない。奈央、電話しろっ!」
私は迷わず押し始める。
「ワァーーーッ!!!待って、待って!帰るからっっ」
私は、1・1・と押した手を止める。
男の人は大慌てで靴を引っ掛けて出て行った。
出て行く時に、「奈央ちゃん、また明日」という声が聞こえた気がしたが、聞かなかった事にしようと思う。
「奈央っ」
「姉ちゃんっ」
「お兄ちゃんっ」
「「「塩っ!」」」
………私ですね。私が撒きます。
ツカツカと歩き、調味料が並ぶ中から塩の容器を掴むとドアの外に出て、イライラをぶつけながら塩を撒いた。
まだアパートの前の道路を歩いていた男の人はこちらを見ていて、塩を撒いた私に手を振ってきた。当然、反応なんかしない。無表情で無視である。
私と一対一ならどうでもいい人であるが、お兄ちゃんと同じ学校でお兄ちゃんに迷惑をかけるという所がなんとも忌々しいのである。
「お兄ちゃん、何あれ。お兄ちゃんを下にみてる感じがすっごく嫌なんだけど。
私はこの部屋、すっきりしていて落ち着くから好きだよ。
あの感じの悪い三枚目のチャラチャラしているのがお兄ちゃんの友達じゃなくて良かったよ」
私が鼻息荒くしていると千里が、
「姉ちゃん危機感足りない」
「そんな事ないよ。男の子の家に簡単に遊びに行ったりしないし、信用できない人とは二人きりにはならないよ」
現に未だに、仲はいいし、もう親友だと思っている健人くんの家には入った事がない。信用はしてるけど用がないっていうのもあるんだけどね。皆で家の前までは行った事はある。
藤沢家だって、雅さんの部屋では二人きりになるけど、和維くんの部屋は新年会で初めて入ったくらいだ。玲奈達も居たし、その日は雅さんとご両親もご在宅だったのだ。…信用してるけど、嫉妬深い人がいるから一応です。変な誤解受けると大変だし。こういう対策は大事です。
自惚れや自意識過剰じゃなくて、テンション上がって変なノリで変な事がないとも限らないから。
「姉ちゃん、そうじゃなくて。今の奴、車返しに行ったら店の前で姉ちゃんを待ってたんだよ!変質者、ストーカー!」
「俺と歩いているのを見てつけてきていたらしい。店に行く時、手を繋いでいただろう?それで俺の彼女だと思って、興味が湧いたみたいだ。顔や雰囲気わりと似てると思うんだけどなぁ」
「本当にペラペラとうるさい奴だったよな、兄ちゃん」
えーっ、そういうのもういいです。顔をしかめる私に千里が追い討ちをかけてくる。
「でさ、店の中でも姉ちゃん達をつけてたんだって!そしたら、なんか姉ちゃんの可愛さにやられたらしいとか言ってた」
そんなうさん臭い事信じるなんて。その状況オカシイでしょ。
私達に気付かれない距離で尾行していて、私が可愛く見えるって。普通に考えたらバカバカしくて、そんな言葉を信じるわけがない。
お兄ちゃんだって、そんな言葉を鵜呑みにはしていないでしょ。
「帰りにまこうかと思ったんだけど失敗した。
あっちが地元で地の利が向こうにあった」
また明日って、もしかしなくてもそのまま、また明日って事なのかな?
「兄ちゃんの元カノが奴の友達らしくて、車返しに来るまでの間にアパートの住所聞いたんだって。ヤバイよ、姉ちゃん」
あー、本当に面倒臭い。
これって、私の問題じゃないよね、きっと。あの人と元カノとかその周辺の色恋沙汰に巻き込まれかけてるだけだよね、多分。本っ当に面倒臭い。
「お兄ちゃん、あの人と友達になる予定ある?」
「無いな」
「じゃ、放置でいいや。だって、私、明後日帰るんだもん」
お兄ちゃんが欲しい人脈でもなんでもないならどうでもいいのです。
さぁて、お昼ご飯の用意はじめよっと。
台所へ向きを変えた私の後ろでは、お兄ちゃんと千里がまだ何か言っている様だった。
無視する予定だけど、もし、しつこく私達に何かチョッカイかけてくる様なら、その時は相談しようっと。相談相手は何人もいるしねっ。…ただその時にストッパーどうしよう。どこかにいるかな?
奈央に仇なす者は赦さない、雅と玲奈、藤沢両親。海斗の舎弟状態の和維。娘と息子を守る井上両親。奈央の友達である健人と面白そうだと参加しそうな翔惟。
もし、相談したら…動き出した時に止める者はどこにもいない…南無南無。




