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番外編4‐2

私と玲奈で、千里と夕菜ちゃんの(千里の方が酷かったらしいが)重症な中二病の再発を防ごうと(あくまで重症が再発しなければいいって事なんだけど)、本を読んだ後、私達と感想を言い合ったりする機会を設けていた。私が玲奈の所へ行くより玲奈が来てくれる事の方が多かったのもあって、千里と玲奈が話す機会が増えていった。


千里と夕菜ちゃんの二人で話す時は、どこどこの場面がよかったとか誰々がカッコイイとか、そんな事しか話さなかったそうだ。

それが私達と話しているうちに、知的好奇心が高まり、深まり、満たされ、夕菜ちゃんと話すより私達と話す方が楽しくなってきたらしい。


そこにタイミング悪く―――中学2年、女の子がおませさんな頃である。―――夕菜ちゃんが友達に焚き付けられ、不安を煽られ、Hなことをしたいとかそういう話になり…。

千里が夕菜ちゃんを避ける様になり、逆に玲奈との接触が増え、年上のカワイイ、頭のいい先輩に憧れ、好きになり…。実は夕菜ちゃんの女友達も千里が好きだったとかで、まぁヒドいコトになり。


千里は夕菜ちゃんを振り、玲奈に振られ。

ホント幸いな事に、夕菜ちゃんの怒りと悲しみは(殆どの怒りは)女友達と(悲しみの大部分は)千里に向いてくれた事で、姉妹が険悪になることは無かった。が、夕菜ちゃんはその友達らと険悪に成り絶交状態になったそうだ。春休み間近なクラス替え目前であったのは大きな救いであっただろう。


夕菜ちゃんと千里も、全てが終わってみれば、いろんな方向から状況を見られる様になったようだ。日頃のバカップルぶりから予想はできていたが、二人の世界に入った時の人前でのイチャイチャに不快感を示す級友も割りといたようだ。そのくせ、成績もよく、別々なら性格も良好で、それぞれに好意を持つ人達からのやっかみも多かったらしい。お似合いであっても誰からも祝福されているわけではないなんて事、本好きの彼らなら気付いてよさそうなのに自分達だけは…なんて思っていたのだろうか。

私も鈍感な所も(・)あると自覚はあるので気をつけようと思う。

そんな彼らだが―その後、夕菜ちゃんは、まだ別れたばかりで千里と友達としては向き合えないけど、もしまた同じクラスになったら避けないで欲しい、今度は友達としてよろしく、その時までに大丈夫になっておくからと言ってくれたそうだ。

千里も夕菜ちゃんも勉強できるとはいえ(学年順位は教えてもらった事はないが男女一緒の教科別、英語や数学ね、だと二人がトップ2だそうだ)、これから受験生という事を考えるとこんな事があったのがこの時期で良かったと前向きに捉えたそうだ。

ほわほわと綿毛の様だった夕菜ちゃんが男前になっていく…片桐家の血だろうか。

逆に我が弟ながら千里に対しては微妙である。夕菜ちゃんに絆されその場の勢いに流される事なくしなかったのは、夕菜ちゃんを想えばのことであるし、大したもんだと思う。

けど、ねぇ…。気持ちが離れた途端、そこで玲奈に心移りって。そのタイミングってどうよ。もうちょい考えたらいいと思うんだけど。

…どのタイミングでも玲奈が千里にって無いだろうけど。

玲奈って、お姉ちゃん気質とか姉御肌って思われがちで甘え下手だけど、本当はもっと甘えたいんだよね。きっと千里じゃ玲奈の心と神経を緩めてあげられないもの。

健人くんと和維くんだと基本対等。信頼はできるけど、肩を並べる相手。だから張り合っちゃう事もあるし、友達止まりだよね。お互いそんな気もなさそうだけど。


◇◆◇


お兄ちゃんにポツリとこぼす。


「夕菜ちゃん言ったんだ。将来別れる事になっても、初めては千里が良かったんだって。私には分からないな」

「そうだな」

「この先、千里が守った事に感謝する時がくると良いなって思う。やっぱり軽い事じゃないよ、そういう事って」

「ホント、そうだな」


お兄ちゃんは大きな手を優しく頭にすべらせた。

二人とも店に着くまで一言も話さなかった。

でも珍しくお兄ちゃんが手を繋いでくれたのが照れくさかったけど嬉しい。

やっぱり私もブラコンなのかもなんて思った。


お店に着くと1万円以内で買えるセットがあったのでそれを選んだ。布団カバーにシーツ、枕カバーを揃えたら2万円は飛んでいった。

布団が2組になったなら、お兄ちゃんと千里が一緒に寝て、私が一人になったらどうかと提案すると、


「例えカワイイ弟であろうとも、野郎と寝るなんてヤダね。千里もう奈央よりデカいじゃん。暑苦しい」


と心底嫌そうな声で返された。じゃあ私が千里と寝ようかと言うと、


「それも駄目。無意識に何かするかも知れないだろ。それに、俺なら割り切れるけど、朝の生理現象を見られたら千里はショック受けるだろ。まさにそういうのが恥ずかしい真っ只中だ」

「そういうものなの?…もし私が寝ぼけてお兄ちゃんを雅さんと間違えてくっついたりチュッとかしたらどうするの?それはいいの?」

「いい!!」

「…いいんだ」

「そういうのは役得っていうんだ」

「……解りたくないけど分かったよ。それでね…もし本当に寝ぼけて変なことしたら、雅さんには内緒にしてね」


帰りもまた楽しく(…)話しながら買い物をして兄妹の絆を深めた。

アパートに着いて荷物を降ろすと、今度は私じゃなく千里がお兄ちゃんと一緒に車を返しに行った。

男同士でしか話せない事もあるから、それでいいと思う。



スーパーの袋から中味を冷蔵庫にしまう。その後、布団類にカバーを掛けていく。ついでにシーツも掛けちゃってから畳んでおく。糊が付いたままだけど、今から洗ったら乾かないからこのまま使ってもらう。

お母さんに持たされた新しいタオルはさすがに糊を落としてからじゃないと吸い取りが悪いので洗濯機に放り込む。

それから冷凍保存する食料の用意を始める。肉に野菜、調味料をフリーザーバッグに入れていく。肉の種類、味や野菜を変えて全部でフリーザーバッグ8個分作った。一つ目の冷凍室がかなり一杯になったが、これでしばらくもつだろう。

母の味じゃなく妹の味だがよしとしてもらおう。

残ったタマネギ、長葱、ニンジン、レモン汁は先に片付ける。ゴボウのササガキもキッチンペーパーでしっかり水気を拭いてフリーザーバッグへ入れる。あ、増えてしまった。とりあえずこの位でいいだろう。

油性マジックで今日の日付と一応入っている物を書いておく。…あれ?どっちが小松菜でどっちがホウレン草だっけ。ちょっとちぎって食べてみる。茹でる前に書いておけばよかった。

11個のフリーザーバッグをしまう。


時計を見ると、お兄ちゃんと千里が出掛けてからそろそろ1時間になる。少し遅いなと心配していると騒がしい音がしてきた。

近所の人かなと思っていると、この部屋のドアが開いた。

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