番外編4‐1 お兄ちゃんちへお泊まりです
春休みになって、お兄ちゃんのアパートに遊びにきている。と言っても私だけじゃない。千里と一緒だ。
バレンタインとホワイトデーを挟む1ヶ月半の間に、千里が夕菜ちゃんと別れるのに一悶着有り、それに玲奈が巻き込まれて散々であった。
振って振られて傷心気味…あくまで『気味』である…の千里をわざわざ連れてお兄ちゃんの所へ来たのは、ただただ、千里が非常にしつこくうっとおしかったからである。新幹線の往復代はそれぞれ貯めているお年玉からでている。
そして、もう一人、うっとおしい人がいる。
『もしもし?ねぇ、奈央聞いてるの?』
「はいはい、聞いてますよー」
相手は勿論、愛しい彼氏サマの雅さんである。
『せっかくの休みなのに。遠出するならオレとしようよ。風光明媚な温泉宿でしっぽりと…家族風呂で啼かせたり。
婚前旅行…いいでしょ?』
「あーきこえませーん。ちょっと電話遠いみたいデス。あー、あれ?きこえなーい」
『奈央?…ふぅーん。そういう態度とるんだ。
オレ、泣いちゃうよ』
「兄妹水入らずで過ごしているんです。水をささないで下さい」
『…ごめんね』
「帰ったら雅さん優先にしますから」
『………』
「雅さん、私も雅さんとお出かけしたいです。…二人っきりで。…泊まりは駄目ですよ?
もし、一緒に来てたら、イチャイチャもキスもお預けでしたよ。
だから、私が帰るまで待っていて下さいね。
私が好きなのは雅さんだけですから。浮気しないで下さいね」
『うん、わかったよ。奈央には敵わないなぁ。海斗によろしくね』
「はい、わかりました。夜、メールします」
お兄ちゃんと千里がジト目で見てくる。
「…何?」
「姉ちゃんスゲー!」
「奈央は先輩を転がしている(つもりなん)だね。可愛い奈央は(他人から見ると)小悪魔に(見える様に)なってしまったんだね。(奈央が駆け引きするなんて)兄ちゃん悲しい。ぐすん。(と見せかけておいて、自分の思い通りに誘導していく藤沢先輩はさすがだな。まだまだ奈央じゃ敵わないわ。たまに『天然』くらわせるだろうから良いのか?それにしても何つー黒い恋人達だ)」
「…お兄ちゃん(怒)」
無音生でかーなーり!酷いこと考えていたでしょ。千里ほど単純じゃありませんからね。
お兄ちゃんのアパートに着いて、お茶しながら休んでいると、雅さんから電話がきたのである。この人を足止めするのも骨が折れた。
雅さんは相変わらず素敵で魅力的であるが、前にも増して色っぽい時と妙にお子様っぽい時の両極端が増えた気がする。それも私にしか見せないモノだと思えば、少なからず優越感などもあったりするのだが。
「俺、バイト休みなの今日だけなんだけど、お前達、明日と明後日どうするの?っつーか、奈央は俺と一緒に寝るとして、千里は何処で寝るの?」
「えっ、ここで寝るに決まってるじゃん。むしろどうして姉ちゃんが兄ちゃんと一緒に寝るのか知りたい」
私すっかり忘れていたけど、もしかして。
「お兄ちゃん、それって布団が一組しかないってことだよね」
「当たり前だろ。一人暮らしなんだから」
「嘘っ!オレどうすればいいの?」
「俺言ったじゃん。奈央だけなら大丈夫って言ったのに、千里がゴネてくっついて来たんだろ。
…なんか千里、面倒臭いヤツになったな」
お兄ちゃんがやれやれと首を横に振る。仕方ないのでお母さんに電話する。
『はい、もしもし。お母さん仕事中なんだけど』
「ごめんなさい。あの、お兄ちゃんの所に無事に着きました。それで、お布団が一組しかなくて困ってます」
『海斗に代わって』
「はい、お兄ちゃん」と携帯を渡す。
『面倒掛けるわね。悪いんだけど、一組布団買ってちょうだい。奈央に多めに持たせてあるから、そこから2万円でどうにかして頂戴。シーツや枕込みで。
もし足りなかったら千里に出させて。おつりが出たら海斗が貰っていいから。
レシートだけ奈央に渡しておいて。じゃ、切るわね。よろしく』
千里に留守番をさせ、お兄ちゃんと二人で布団を買いに行こうとすると、
「何でオレ留守番なの?連れて行ってよ。一緒に行きたい!」
「店から無料で借りられる軽トラが二人乗りなんだから無理。奈央を連れて行く方が買い物が早く終わる」
返す言葉がなくうなだれる千里をおいて出掛けた。千里の買い物って、買い物好きの女の子みたいで目移りするし決まらないし時間はかかるしで、私も千里との二人きりの買い物は苦手…いや行きたくない。そういう子同士なら楽しめるんだろうけどね。
「店まで俺の足で歩いて30分位だけど歩ける?」
「うん、大丈夫。帰りにスーパー寄れそう?」
「俺がいつも行く所でいい?」
「うんっ」
車がある時に纏めて買ってしまいたい。
お母さんからお兄ちゃんの食事のチェックも頼まれているのだ。しっかりしているから大丈夫だろうけど、節約し過ぎて食べ物に不自由してたり、服や下着がボロボロになっても着続けているようなら買うようにといいつかっているのである。
103万円以内ギリギリをしっかり計算しながらバイトの計画を立てているお兄ちゃんは本当にすごい。なんだかお兄ちゃんだけ他の人より多く働いている様な気がしていたが、他の人が休みたい時に率先して働いているから、実は時給の高い時に入れる事が多かったり、他の人より纏まった休みが快く貰えるしで返っていいんだとか。
こうやって久し振りに海斗お兄ちゃんと歩く新鮮さを楽しんでいた。
お兄ちゃんは私に合わせて少しゆっくりめに歩いてくれている。
「奈央は先輩と仲良くやっているみたいだな」
「うん、お陰様で」
「千里も正直長くは続くとは思ってなかったけど…終わり方酷かったみたいだな」
「うん、まぁね。もう済んだ事だから触れないでおいて」
やっと片付いた出来事を思い浮かべた。
久し振りの更新です。
結局、予定していたのは没にしてこちらにしました。が次話が没にした話のダイジェストになってしまいました。
本日、新連載はじめましたので、良かったらそちらも読んで頂けると嬉しいです。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!




