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番外編2‐8

車の中でリップを塗るように言われ、その後まるでお父さんのようにブツブツと「ホントにもうっ」とか「あ~もうくそっ」とかきこえてちょっぴりコワイかもとか思ったりしながら私は隣りで大人しくしていた。


雅さんは車を暖めて待っていてくれた。

お母さんは持ってきた袋を雅さんに手渡して言った。


「必要になったら使いなさい。10時までにうちに送り届ける事」

「はい。…いいんですか?」

「…使わないで済めば尚結構」


そして私にも言う。


「奈央は頭で考えすぎ。いい所でもあるけど悪い所でもあるよ。たまには流れに身を任せてみてもいいかもよ」


ちょっとHなことをしたことを思い出し、つい、目を反らしてしまう。


「…雅くん。それ、やっぱり返してもらおうか」

「いいえ。いつか、使わせていただきます」


明らかに作り物である二人の笑顔がピキピキと音をたてている。


「そう。『いつか』、ね」

「はい、『いつか』」

「奈央、前言撤回。まだ高校生なんだから十分気をつけなさい。真面目過ぎる位がちょうどいい」

「はい…」

「奈央、一応お風呂保温したままにしておくから。万が一、冷・え・た・ら!風邪ひかないように直ぐに入るのよ」


推奨されたのかけん制されたのかどっちなんだろう。お母さんは言いたい事を言うと、とっとと帰って行った。




コートとバッグは後部座席に置かせてもらった。私から謝った方がいいのは分かっているけど、ドキドキし過ぎて、話そうとすると上手く声を出せない。

時々、雅さんの視線を感じるのがいたたまれなさを増幅させる。それで益々小さくなってしまう。そうしている内に、定番のカレンデュラ公園に着いた。


「ふふ、遠出すると帰りが間に合わなくなるから、ここに停めるよ。寒いからこのまま車の中でゆっくり話そうか」

「はい」


シートベルトを外して楽にする。肩の力を抜いて背もたれに体重を預けた。脱力して目をつむると唇に柔らかい感触があった。…と思ったらシートが倒された。


「きゃっ」


思わず雅さんにしがみついたがゆっくりそのまま倒れこんでしまう。クックッと小さく笑う声がしたが、そっと目を開けた先に見えたのは、とても優しい表情の雅さんだった。『ああ、大丈夫だ』何がかは判らないけど確信した。多分こういう小さな「大丈夫」の積み重ねが、私が選んだものへの自信と自分自身に対する自信になっているんだろう。


このままコトに及ぶのかと内心ドキドキしていたが、雅さんは静かに心の内を語ってくれた。

それは今まで私が大人だと思っていた雅さんとは違っていたけど、不思議とがっかり落胆することもなければ、知らない一面を知ることができて嬉しいなんていう事もなく、ただほんわりと温かく、ここだけ春の日差しの中にいるような錯覚を起こしてしまう。

雅さんの綺麗な顔をみて、その想いをゆっくり胸に刻む。そして、私の想いも何度でも伝えようと思った。


「もう忘れられちゃっているのかもしれないですけど、私だって不安はあります。雅さん素敵だから、きっと女の人いっぱい知っているでしょ?

高校生でお子様な私なんかじゃ物足りないだろうって、何度思ったか」


そんな事ないと口を挟もうとする雅さんの唇に「しーっ」と人差し指を当てる。困った様な顔をしたけどそのまま続ける。


「実は言わなかったけど、ここで女の子に囲まれている雅さんを見たことがあったのを思い出しました。あれだけの女子達に囲まれていたんだから、おそらく今だって大学で多くの女の人が雅さんを誘惑しようとしてるんじゃないかって思っています。実際そういう女の人に迷惑しているって言ってた事もあったし。

大学を卒業して雅さんの世界が広がったら、今まで以上に会えなくなるだろうし、ドラマみたいにしたたかな女性に引っ掻き回されるかもしれない」


何か言いたそうに口が動くけど更に続ける。


「それでも、それは避けて通れないし。高校生の私が言っても陳腐なだけだけど、お互いを信じるしかないって思うんです。そして、できる事をする。

ねぇ、雅さん気付いてますか?私、玲奈以外の女友達を雅さんに会わせた事ないでしょ?他の女の子が雅さんを見て好きになっちゃうのがイヤだから。

私だって嫉妬するし、独占欲だってあるんです。でもそれを言ったら益々子供っぽく見えると思うから言わなかっただけです」


何故か泣きそうな顔になってしまった雅さんをとても愛しく思った。


「雅さん、今日はごめんなさい。こんな時間でも会ってくれてありがとうございます。凄く嬉しい。一番好きな人が側に居てくれて幸せです」


私から唇に軽くチュッとした。


「やっぱり奈央じゃなきゃ駄目だね、オレ」


突然そんな事を言う雅さんに頭の中が?になる。

フッと雅さんが笑った。潤んだ瞳の中に優しさと熱を孕ませて顔を近付けてくると、相変わらずキスだけで私を腰砕けにしてしまう。ケーキよりも甘い言葉を囁きながら、私を途中まで食べてくれた。捲り上げられたセーターとキャミソールにミニスカート。ホックを外された下着にずりおろされたソックスとショーツ。脱げた靴。気がつけばそんな姿に。…短い時間は蜂蜜を煮詰めた砂糖でコーティングして黒蜜をかけた位、甘かった。


「今日の服いつもと違うね。誘ってくれたんだよね?

他の男の前でしちゃだめだよ」


ふにゃふにゃになっている私にそう言うと、3つの頂きに順番に吸付いた。ビクッビクッとなってしまう身体に耐えながら小さな声で答える私を満足そうに見ていた。


こうして私達の初めてのクリスマスは幕を閉じた。

番外編2はこれで終わりです。

番外編3を書く時にまた完結を外します。


ここまで読んで頂きありがとうございました。

次回、新連載と番外編3のどちらが早いでしょうか。…前にも同じ様な事言ったかも。


いつもありがとうございます。ではまた次の話で。

2015.05.29

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