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番外編2‐7

◆◇◆◇藤沢雅◆◇◆◇


千里の話はオレにとっては、少々…衝撃的だった。でも、女性のそういう所に慮る(おもんぱかる)ことをしてこなかったので知ることができて良かった。……知らない方が良かった事も知ってしまったけど。千里が言うには、男兄弟だけだと女性に幻想を抱き易いそうだ―――そういうもん?それにしても中学生にそんな事を言われるオレって。まぁ、いい。おかげで合点がいった事もあるし。



なんとなく各々自分の世界に入っていると、再び和維の携帯が鳴った。もしかして奈央かと思ったけど、また片桐さんだった。


『奈央落ち着いたよ。話も聞いたけど大丈夫みたいだよ。

そこに魔王サマいる?』

「いるよ。代わる?代わらなくても玲奈の声デカいからきこえているけど」

『そう?きこえているならいいわ。…奈央の様子気になるなら、このまま切らないでこっそり中継してあげるわよ。聞かれてよくない話に成ったらこっちから切るけど。

どうする?盗み聞きする?』

「ミヤ兄どうする?」

『奈央の元気な声聴くだけで安心するんでしょ?とりあえずこっちは切らないでおくから。嫌なら切っちゃって。それじゃ、また後で?』




……………………

………………

…………



片桐さんの演技が下手だったのか、奈央のカンがいいのかは不明だが、おかげで奈央の様子がわかったオレは一人で反省会中である。

電話終了後、その場は自然と解散になった。

片桐さんと一緒だった奈央の声は、初めて話したあの日を思い出させる明るく朗らかな声で、なんというか、こう、甘酸っぱい想いを思い出させてくれた。

思い返してみれば、中学生だった時の奈央の言葉が高校生だったオレの心に届いたんだ。きっとオレは年齢の割に随分と幼いのだろう。

でもだからこそ奈央と並んで居られる。

オレが幼いんじゃなくて奈央が大人なのか?

ここを掘り下げるのは止めておこう。墓穴を掘るだけになりそうだ。まぁどっちでもいい。

これから育み合っていくのだから。


ああそうだ。そうか。何が不安だったのかわかった。

―――奈央はオレを縛らない。


オレを自由にさせておいてくれる。ちゃんと必要な線引きをしてくれている。

大学に押しかけても来ないし、バイト先にも来ない。交友関係に探りをいれてくる事もない。

でもちゃんとオレとの時間も尊重し大事にしてくれている。

勉強の大切さ、自分だけの時間、友達付き合い…そういった諸々のバランスがいいんだ。

朝から晩までべったりして束縛しまくり、相手の人生を自分中心にしようと、狂わそうとする…そんな事をしてこない。

共に歩むけど、個々の人生。

当たり前のことなのに忘れていた。

香織さんが言っていた信用するっていうのは、奈央の浮気や心移りなんていう狭い意味じゃなかったんだろう。


今日、心配で送ったメールの内容と量。

こうやって改めて見るといろんな意味でこっぱずかしい。まだ留守電になっているだろうけど、改めてメッセージをいれておこう。うんざりとする顔が浮かぶけどメールも送っておこう。


時間的に、今朝、香織さんが自宅に帰ってすぐに送信したと思われるメールがある。奈央のことでいっぱいいっぱいだったから、見てもイラつくだけで返信もしないで放置してあった。


『件名なし

本文//私達の親世代では「男は30歳で一人前」といわれていた。私達の世代では「現代いまの男は35歳で一人前」になっていた。君達兄弟もウチの子達も30歳で一人前といわれるだろう。そのくらい立派に育っていると思う。

地に足が着いている事を確かめ、真正面だけじゃなく周りもみてみるといい。』


今の自分なら素直に受け取れる。あの時は…うるさい、クソババア…だった。………うん、オレ、まだまだ青いしね。大目にみてほしい。本当はババアだなんて思ってませんから。

思わず井上家の方を向いて手を合わせた。



◆◇◆◇◆◇◆◇


家に帰ると直ぐにお母さんと千里にお礼とお詫びを伝えた。お母さんはいつもと変わらずカラカラとしていたけど、千里が挙動不審でお母さんがいぶかしんでいた。

お昼ご飯を食べた後、お母さんと二人でケーキを作り、夜は例年通り家族で過ごしている。

時刻はまだ8時半になるところだ。


『雅さんに会いたいな』


自然にそんな想いが込み上げてくる。取り出した携帯を開いたり閉じたり繰り返してしまう。

お父さんはお風呂に入りに部屋を出た。

ソワソワしている私をお母さんがニヤニヤしながらみてくる。


「…何?」


見透かされている気がするけど気にしたら負けだ。


「ふふっ、乙女だねーって思ってね。我が娘ながら可愛いねぇ」

「……」


心の中でうーっと唸りながらお母さんを見る。


「協力してあげようか?」

「!お願いします」


一も二もなくお願いした。そこから早かった。


「早く電話してしまいなさい」


そう言われてすぐさま掛ける。たまたま携帯を手に持っていたのか、1コールで出てくれた。


「雅さん、あの、これから会えませんか?お母さんが送ってくれるので、あのっ」


テンパっている私を見て、お母さんがスイッと電話を取り上げた。


「もしもーし、今から奈央送ります。昨日早かったからね。今日こそ10時までに届けてくれればいいから。二人でドライブでもしてくればいいさ」


一方的に話すと勝手に切った。

バイト6時までだったから少しは休めたかな?疲れてないかな。


「何ぼやっとしてるの。早く着替える!」


お母さんは私の部屋に入るとタンスの中からポイッポイッと服を選んで出していく。


「えっお母さん、これVネック深いの。下に着るものは?」

「キャミソール着てるでしょ。スカートそれね。タイツ履かないで、オーバーニーソックス履きなさい」

「寒い…」

「コートと膝掛けあるでしょ。急ぐ!」


言われるままに慌てて着替える。


「リップどこっ?」

「そのポーチの中」

「ハンカチ、ティッシュは?」

「そのバッグに今日まだ使ってないのが」


着替えている間にバッグが用意されていく。お母さんは1度部屋から出ると小さな袋を持ってきた。

支度にかかった時間、3分半。どれだけ急かされたかわかるだろう。

電話を切った5分後、私はもうお母さんが運転する車の中だった。

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