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番外編2‐6

◆◇◆◇藤沢雅◆◇◆◇


全てが丸く収まった。場も和み、男四人で大笑いしていると大して痛くないデコピンを放って、奈央が部屋から出て行った。お手洗いにでも行ったのだろうと気にしないでいたが、千里の言葉に血の気が引いた。


「あの、雅さん。姉ちゃん超怒っていたけど、大丈夫?」

「「「えっ!?」」」


あれって怒っていたの?マジで?


「奈央ちゃんあれで怒ってるの?兄貴、奈央ちゃんて可愛いなぁ。

デコピンだよ、デコピン。しかも痛くないし。いいなぁ、兄貴」


翔惟は呑気にそんな事を言っているけど、オレはそうはいかなかった。

落ち着けオレ。確認からだ。


「千里、あれってどの程度って推測?」

「10段階中、7~8ってトコかな?MAXは能面のように無表情だから。その前段階も無表情で喋らないけど、能面のような怖さはないよ」


それを聞いて、あの公園の時の状態がおそらく9なんだろうと予想する。今はそれは置いておいていい。

とりあえず奈央に電話をしてみようとポケットに手を突っ込むが携帯がない。部屋に取りに行くと奈央の香りがしたような気がした。

昨日教えてもらったばかりの奈央の番号にコールする。出ないどころか、電源が入っていなかった。視界に入るネコのすまし顔が憎らしく思えた。玄関に向かうと奈央の靴が無くなっていた。玄関の内鍵も掛かっていない。外に出てみるがその姿は見つけられない。

もう1度掛けてみる。さっきの今だ。やっぱり電源は入っていない。メールも送っておく。気付いてくれるといい。

ひとまず部屋に戻った。



「母さんに電話したけど、家に帰ったら連絡させるって言ってました」

「玲奈にメールしておいた。もし奈央ちゃんがそっちに行ったら教えてって」


また電話をしてみる。出ない。メールを送る。


「兄貴ちょっと落ち着きなよ。俺、何か飲むもの持って来るからさ。

和維、千里、兄貴見てて」


行きそうな所を思い浮かべていく。確かに落ち着いて、もっと冷静になった方がいいだろう。

そう思っていると和維の携帯が鳴った。


「あ、玲奈だ。もしもし」

『和維おはよう。今、奈央から電話来たよ。あたしンちに向かってるっていうから、あとはあたしに任せといて。今の所、泣いてなかったから大目にみてあげるけど、泣かせる様な事したんだったら…覚えておきなさい。それじゃ!』


片桐さんは言いたい事だけ言うと切った。それにしても相変わらず声がでかい。


「…だって、ミヤ兄」

「うん、よくきこえた、わかったよ。

居所がわかっただけ安心したよ」


しばらくして翔惟が四人分のコーヒーを持ってきてくれた。

千里が何か言いたそうにしているのが見て取れる。オレが振った方がいいのか。


「千里、何?」


言い方がそっけなさ過ぎた。でも、今、ささくれていて無理。

頬を掻きながら、あーとかうーとか言い渋っている。言いたいなら早く言えばいいのに。


「どうした?何か言いにくい事かな」


申し訳なさそうな顔でおずおずと話し始めたその内容にオレ達兄弟は固まった。


――うちには免疫無し。



◆◇◆◇井上千里◆◇◆◇


今日の姉ちゃんの導火線が短い理由に思い当たる節がある。

それは家族だから判るけど、これを言うべきか言わざるべきか。

ウチは良いのか悪いのか、いや、将来を想えばこの環境は良かったというべきなのだろう。母さんの方針だと思うが良い意味でオープンだ。保健体育的な意味で。

だから女の人がホルモンバランスのせいで本人が意図せずに変化があることも目の当たりにしているし、知っている。ウチでは風呂の順番も普通に理由が述べられている。それがウチの普通だ。

さて、どうしたもんかと言い淀んでいると雅さんから話すように言われた。

きっと話しておく方がよい。よし!


「雅さん、藤沢さんちって女の人が恭子さんだけだから、多分こういう話、出ないんじゃないかと思うんだけど。

ウチは家族の半分が女だから」


なんか何を言いたいんだって顔している。うまく話せるかな。なんとなく伝わればいっか。


「姉ちゃん多分、生理前でいつもよりイライラしやすいんだと思う」

「「「えっ!?」」」

「なっ、千里、何言ってんだよ。奈央ちゃん生理って」

「ああ、そういう事ねー」


翔惟さんは彼女が年上なだけあってピンときたようだ。


「確かにウチじゃそういう事疎くなるね。続きがあるなら続けて」


雅さんは眉間をグリグリとしている。


「ミヤ兄、えーっ、せっせっ」

「和維うるさい。彼女できた時に困らないように、せっかくだから聞いとけば。ね、兄貴」


和維さんは見掛けによらず純情だなぁ。


「で、まぁ、特にあと何があるってわけじゃないですけど。…なんで姉ちゃんのそういうの分かるかっていえば、ウチのトイレのカレンダーに堂々と母さんと姉ちゃんの生理の印が書かれているから、知ろうとしなくても分かってしまうわけです。

ウチは普通に『今生理中だから先にお風呂入って~』(香織の声真似)とか言われちゃいますよ」


えー、無言?

まだ何か聞きたいの?


「あ~、姉ちゃん達いわく、食べ物の摂り方で生理痛がでたり気分のムラが出やすくなることがあるそうですよ。個人差あるそうですけど」


…まだ何か聞きたいの?勘弁してくれ。何言えばいいんだ?


「基礎体温っていうの計ってるけど、それでの『安全日』とか信用しちゃ駄目だそうです」

「「「ぶふぉっ、ゲホゲホ」」」


あ、むせてる。DTのオレからのささやかな反撃だ。


「あの、気になるならウチにある婦人書貸しましょうか?

あ、そうそう。姉ちゃん、兄ちゃんの本も読んでるから色々寛容ですよ。エロ本とかエロDVDとか隠さなくて大丈夫っすよ」


あ、珍しいもの見た。雅さんの顔真っ赤だ。こういう時スマホあればなぁ。姉ちゃんの為に撮ってやりたいなぁ。兄ちゃんと違ってこういう所がカワイイなぁ。

三人の年長者達は言葉を発する事なく三者三様の反応をしている。

オレは静かにその様子をコーヒーを飲みながら眺めていた。

あー、玄米茶にしてもらえば良かった。

予定外だったが、ロケットパンチが炸裂した様で、なんとなくもやもやしていたオレの気分は上向いた。

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