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番外編2‐3

◆◇◆◇藤沢雅◆◇◆◇


香織さんが腕を組んで…呆れている。我ながらなんて小さい男なんだろうと思う。情けない。

奈央のことになると、どうしてこんなに情けない男になってしまうのだろう。つい、溜息が出てしまう。


「大変お見苦しい所をお見せしてしまいまして」


昨日から『お義母さん』になる人にみっともない所を随分と見せてしまっている気がする。変にいい格好を見せようとするよりいいかもと思い直してみる。…いや、そういう問題じゃない。

なんともいえない空気が漂う。


「雅くん、少しお邪魔していいかしら?」


玄関で立たせっ放しだった。これじゃいけない。


「失礼しました。どうぞ」

「まぁ私もあまり時間ないから長居はしないよ。お構いなく」


そう言うとソファに座った。「お茶いらないよ」の言葉にオレも座る。どの位取り繕えているだろう。


「雅くんさ、そんなに不安にならなくて大丈夫だから。もう少し奈央のことも信用してあげて。

なにぶん、鈍感な所も多いだから心配になる事も何かと多いと思うんだけどさ」


そうか。不安。オレまだそんなに不安だったのか。何でだ?


「雅くんもさ、正直そこまで一途で嫉妬深いと、嬉しくも有りドン引きでも有り、ストーカーに成りそうな恐さがあるよね」


それには苦笑するしかない。こういう事を面と向かって言えてしまう所なんかは奈央とそっくりだ。


「まぁそりゃ、できる事なら娘に軽はずみな事はして欲しくないけど、雅くんもそんなに思い詰めたようになるなら、推奨はしないけど、無理強いしないなら、深く仲良くなるのは仕方ないと思っているから。その時は、ちゃんと…アレ使いなさい。

君はちゃんといい男だよ。家に乗り込んで来た時や海でみせくれた自信はそんなに簡単に崩れてしまうようなものだったのかい?」


オレが何か言う前に立ち上がる。


「そういう事だから。八つ当たりする位なら、ちゃんと奈央に言いなさい。末長く一緒にいるつもりなら尚更言葉は必要だし、親しい者相手にこそ思いやりや礼儀をわきまえる事がより大事になる事だってあるんだから。いっぱい悩んで成長しなさい」


そうだ。言葉が足りなくて奈央を泣かせた事があった。近くなったと感じたからこそ悪ノリし過ぎて失敗した事があった。何だかんだで和維達にも甘え過ぎていたのかな。

失敗って何度も繰り返すんだな。翔惟なんかに比べたら、慎重に動いて失敗も少なく叱られるのも少ないはずだったのにな。逆にそれが色々経験不足にさせたのかな。良い子でいる為に顔色伺うのが、悪い方でくせになっていたのかな。この辺は一人の時にゆっくり考えてみよう。

…まだ致命的な失敗ではないはず。まだまだこれからだ。

香織さんと目を合わす。


「おっ。さっきより幾分いい顔になったね。私、先に帰るから。子供達よろしくね」

「ありがとうございました。独占欲も嫉妬深いのも抑えられるように頑張ります」

「頑張り過ぎるとまたやらかすよ。程々にね」


ホントに分かったのかなぁと言いながら出て行く香織さんを見送った。お義母さんありがとうございますという言葉は胸の内にしまった。



◆◇◆◇◆◇◆◇


話を聞き終わった私達は口元をヒクヒクさせている。


「…姉ちゃん、何か言ってあげなよ」


半ば放心状態に陥っていたようだ。

千里に言われて和維くんを見ると、頭からシュウーと何かが出ているように見えた。生気…魂が抜けそう?

頭に手を伸ばし、ヨシヨシと撫でてみる。

和維くん他ニ名から恨めしそうな視線が送られてくる。


「何か、ゴメンね?これって私が悪いの?」

「「「………」」」


四人で顔を見合わせる。


「そうだよね。奈央ちゃんが全部悪いわけじゃない。けど、兄貴の扱いに不備があったのは間違いなく事実だ!」


翔惟先輩が胸を張って声高らかに発言したが、異議有りだ。


「そうだよ~奈央ちゃん。俺、前に言ったじゃん。もう忘れちゃったの?ミヤ兄が超ヤキモチやきだって。

あんなに力説したのに聞いてなかった?伝わってなかった?

……超ショック。がっかりだよ」


どよ~んとしてしまった和維くんを見て、確かにそんな事があったと思い出してきた。

車の中でお母さん達にも雅さんの嫉妬深さについて注意を受けていたんだった。私の認識が甘かったという事なのだろうか。

絶対モテるであろう雅さんに対して私が嫉妬するならわかる。私の予想とは逆の現象が起きている理由がサッパリわからない。

本当にわからない?何か忘れている?

きっとあるはず。思い出せ、私。

私のそんな様子を三人が静かに見守っている。誰も言葉を発さない。

そもそも、どうして私は携帯電話を持つ事にしたんだっけ?だって事の発端は私の携帯電話だ。ほんの数日前の出来事だ。忘れるわけがない。


「ああ、そうだった。私、何やっているんだろう」


ポケットから携帯を取り出す。玲奈と健人くんからメールが届いていた。二人にはササッと(…)と打って返信しておく。今取り込み中なの、ごめんねと心の中で手を合わせておく。


「和維くん、翔惟先輩、ご迷惑をおかけしました。雅さんの所へ行きます。千里は置いていきますので遊んでやって下さい。千里、帰りは別々でいいよね」


よろしくお願いしますと頭を下げて退出した。

雅さんに電話をしてみる。耳を澄ますとコール音が小さく聞こえる。雅さんの部屋の前で耳を澄ます。うん、ここからする。ノックをしてみるけど返事がない。


「雅さん、入りますよ?」


そろりと開けてみる。誰もいない。荷物を置いて定位置に座ってみる。携帯は丸テーブルの上に置かれていた。

携帯ここにあるなら待っていれば来るかな?

時計を見ると9時をまわっている。余所のお家を勝手にうろつくのもどうかと思ったが、やっぱり雅さんを探す事にした。

階段を降りながら「雅さーん」と呼んでみる。

物音がした。リビング?足をそちらに向けるとガチャリとドアが開き、雅さんが出てきた。

私は彼の胸に飛び込んだ。

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