片桐玲奈5
最近つまんない。休みの日に電話しても魔王サマとデートしていて居ない事が多いからだ。他の友達や健人、和維と一緒でも楽しいが、やっぱり奈央が一番好きだ。
あたしの物言いはキツめらしい。自分ではそんなつもりはないが、陰でそう言う人がいるからそうなんだろうと思う。
以前、『自分の言葉がキツイ』と言われる事を気にして、うまく話せない時期があった。
そんな時でも奈央はあたしの言葉をそのままでいいと言ってくれた。
「誰にでも耳に優しい言葉なんてないんだよ。ちょっと心が萎れている時は、いつも通りの言葉でもグサッてくる事あるし、すっごい前向きな時は何言われたってヘコむ事ってあんまりないでしょ?そんなもんだって。
私だって結構ヒドイ事言ってるコトあるでしょ」
そう言って笑ってくれた。
皆に好かれようなんて思ってないんだから、そんなに気に病む必要なんてなかった。奈央が言ってくれなかったら無口な美少女になっていたかもしれない。
今は口達者な美少女だ。
少し前まで、自分の中で悶々としていた。自分なりに色々な角度から見つめてみたがどうにもしっくりこなかった。
いつもなら奈央に話してみるが、そうできなかった。
ところが、思わぬタイミングで解決できた。
とはいっても、結局は理由や原因が分かっただけで、そのものが解決したのではないのだが。
理解してみれば、とても単純だった。ヤキモチだった。
奈央があたしよりも魔王サマとの時間を大切にしているような気がする事、男友達ができてあたしと同じ様に気にかけてあげてる事。
しかも、おそらく、あたしの被害妄想である事。
元々休みの日にいつも奈央と一緒なわけじゃない。元々休み時間の全てを奈央と二人だけで過ごしていたわけじゃない。放課後の時間だって今まで通りだ。
考えてみると、むしろ魔王サマが可哀想なのかもしれない。
天気が良いから、ふらりと外を出歩く事にした。
ブラブラとしていると前の方に健人と和維が見えた。部活の帰りのようだ。
えっ、もうそんな時間?携帯を取り出すとお母さんからメールがきていた。お昼になっても帰って来ないから心配させてしまったらしい。慌てて返信する。
その後、走って二人に追いついた。
「けーんと!かーずいっ!今帰り?」
声をかけると「よおっ」と手を挙げた。
「玲奈は、こんなところでどうしたの?」
和維の顔をみて閃く。
「ねぇねぇ和維。奈央と魔王サマって今おうちに居る?」
和維が早速電話してくれる。健人が「魔王サマって雅先輩だよな」と苦笑している。
『何?和維』
不機嫌丸出しである。
「ミヤ兄達今どこ?玲奈が用があるみたいなんだけど」
『カレンデュラ公園だけど。来るの?』
魔王サマに聞こえるように言う。「行きますっっ。動かないで下さいねっ」
あたしは健人と和維を巻き込んで公園へ行った。
二人はすぐに見つかった。
「奈央ー!」
手を振って走り寄る。
「玲奈こんにちは。どうしたの?珍しいね」
そう言って、ふふと笑う姿がとっても可愛い。
「ちょっとだけ用があったんだ。…お兄さん、そんな仏頂面しなくていいですよ。すぐに終わりますから」
そう言ったら多少和らいだ。
「奈央に質問です。
大きな池があります。足は着きません。そこにあたし達四人が落ちました。浮輪のついたロープが1つだけあります。
誰から助けますか?」
魔王サマと健人は興味深そうに、和維はくだらないって顔をしている。
奈央の答えは早かった。
「そんなの1番は玲奈に決まっているじゃない」
ニヤリとするあたし。頬がピクッとした魔王サマ。
「次は健人くん、その次は和維くん、最後が雅さん」
そう言って、それが何なの?と首を傾ける。その姿も可愛い。
奈央には見えてないが、後ろに立っている魔王サマの背後に黒い縦線が大量に見える。フフッ、あたしの勝ちだ。オ~ホッホッホッ…!!
健人が我慢できずに口をはさむ。
「ねぇねぇ奈央ちゃん、理由は?何でその順番?」
あたしも知りたい。解説聞きたい。
「まず、和維くんと雅さんは泳ぎ上手いから後回し。単純に体力なくて泳ぎの下手な順だよ?」
それでもあたしは嬉しかった。ついでに聞いてみる。
「もし、お兄さんとのデート中にあたしから緊急の呼び出しがあったらどうする?」
「きっと雅さんと二人ですぐに駆け付けるよ。玲奈からの緊急でしょ?私一人じゃどうにもできないかもしれないもの」
魔王サマは微妙な顔している。
「玲奈がしょうもないコトで私を呼び出したり、デートの邪魔するわけないもの。
雅さん頼りになるのよ?」
今度はあたしが微妙な顔になり、魔王サマが笑顔になった。
今、この時間がしょうもないコトで邪魔してる状態です。ゴメン、奈央。
「ふふ、玲奈、もう本当に大丈夫そうだね。元気になって良かった。
私のことも頼りにしてね?
私に遠慮してなのかわからないけど、健人くん達にばっかり相談してたでしょ。私も寂しかったんだよ」
あたしは奈央に抱きついた。あたし、分かる程変だった?でも気付いてくれていたんだ。
奈央のほっぺににチュッとする。
「うん、ありがとう。デートの邪魔してゴメンね。月曜日にねっ」
あたしは四人を放置して気分よく自宅へ帰った。




